[勇者]王女が浮かべるは偽りの笑み
「彰一が・・・いない?」
男が漏らす。
男は、この世界では珍しい黒髪、背もあまり高くなく、貧弱な印象を受ける。
男の名は、覇堂響也。
勇者、の職業を持つ。
「うん・・・侵入者の気配には気をつけていたんだけど・・・彰一本人の気配は追ってなかったから・・・ごめんなさい」
女が答える。
女も、同じく黒髪。
小柄な体格で、しかし猫のような気配を感じる。
女の名は根子麟。
何せ、知人の気配を常に追うのは、流石に失礼だ。
だが、他気配の侵入には気をつけていたのだが・・・
「仕方ない、麟のせいじゃない。シャドウマスターの職業でも察知出来ないとは・・・」
シャドウマスター。
闇に生きる職業の上位に位置する・・・
だが、彼らは知らされていない。
彼らは召喚者、この世界にいる大半の者に比べて格別の力を持つが・・・別に、この世界の人間でも、強い者は同じ強さを持ったりする。
別に特権ではないのだ。
また、彼らは低レベル。
高レベルのシャドウにも負けるし、200レベルくらいの戦士にすら負けるだろう。
そう言った情報は、意図的に与えられていない。
緋影彰一、一緒に召喚された仲間の中で、一人だけ年齢が高く・・・そして、能力値が、この世界の平均的な人より低かった。
それを見た瞬間、腹に何か持っていそうな王女が見せた雰囲気・・・良く創作等で有る光景だ。
何かしそうだ、そう思い、警戒していた・・・そして今朝、彰一は姿を消していた。
「王女かな・・・」
麟の言葉に、
「間違い無いだろうな」
響也が言う。
響也と麟が他の召喚者と合流、話していると、朝ご飯の支度が出来たとメイドが呼びに来た。
食事は豪華だ。
みんな食べた事ないような豪華な食事が並ぶ。
だが・・・
王女が、残念そうに、だが見る人が見れば演技と分かる様子で、言う。
「皆様にお伝えする事が有ります」
みんな、警戒する。
「皆様と一緒に召喚された彰一様ですが・・・自分の能力は低いから、一緒にいるとみんなに迷惑をかける、と。世界を回って自分のペースで力をつけ、ゆくゆくはこの世界に貢献したい、との事でした。あまりにも意思が固かったので・・・支度金をお渡しし、出国許可証もお渡しししました。きっと、今後会うこともあると思います」
嘘だ。
みんなそう思ったが、証拠はない。
「なら、私も旅に出て、多くの人の助けになりたいです」
ホワイトビショップの白襟耀が言う。
「耀様は、此処で修行した方が良いです。聖職者の修行の場として、ここより相応しい場所は有りません」
王女が首を振る。
食事が終わり、召喚者同士で密談。
「状況が分かるまではこの城に留まる、と言う案に基本賛成なのは変わりない。でも、それだとどうしても視野が狭まると思うの。私はやっぱり旅に出て情報収集するわ」
耀が言う。
「なら、私も。私がいればみんなと情報交換できるし」
ダークセージ、黒崎冥利が言う。
実際、完全に出入りが禁止されている訳ではない。
お使い等を頼まれることもあれば、見回り等にも参加する事も出来る。
街に買い物にも行ける。
耀と冥利は、情報収集の為、抜け出す事にした。
とりあえずは隣国に・・・
ああでも、出国許可証は必要なのだろうか。
買い物に行くふりで外に出て、そのまま抜け出した耀と冥利。
王女は、無断外泊は避けて頂きたいのですが、心配です、とだけ言っていた。
そして翌日、アーククルセイダーの聖川光輝がお使いから戻った。
彼だけ外出していたのだ。
響也が代表して、光輝に彰一の事を説明する。
「光輝。王女が、彰一に手を出した。一昨日、朝起きたら居なくなっていた。彰一が自分から出て行き、自分のペースで成長したいと言ったので、お金を渡して出て行かせた、と言っていた」
響也の感情を抑えた声に、しかし光輝はのほほんと、
「あー、そう言う事だったんだなあ。まあいいんじゃないかな?本人がそっちの方が気楽なら、別に。確かに、特殊職ある訳でもないし、徐々にこの世界に慣れた方が良いかも」
・・・素直に受け取った?!
「違うぞ、光輝。王女が言った事は嘘だ。恐らく、彰一は王女の手によって殺されたんだと思う」
響也が光輝の肩を持って力説するが、光輝は真面目な顔になって、
「いやいや、響也。人を疑い過ぎだ。後は、アニメとかそういうのの見過ぎじゃないか?王女からお金を貰って出て行った、それだけだろう。ちょっと羨ましくは思うが」
あれ・・・光輝ってこんなに察し悪かったっけ・・・響也は戸惑いながらも言う。
「王女が嘘をついてるのは確かだ。俺の真実の目でも反応があったし、耀の真偽判定にも引っかかった。そもそも、スキルを使わなくても、態度から明らかだった」
響也の必死の力説に・・・しかし光輝も困った様に言う。
「そうは言うが・・・彰一なら、酒場ですげえ美人に囲まれて、楽しそうに酒かっ食らってたぞ?」




