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裏切裁判  作者: 花南
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05

 鈴木の証言

 とうとう裁判の日がやってきた。

 鈴木は嫌な予感がふつふつと湧いていた。空乃と陸にはげまされても、その不安は取り除けないでいる。

「あの、ちょっと失礼します。胃が……」

 鈴木はだらしなく背を丸めたまま法廷を出て、トイレに入った。

 最初は西園寺を疑っていた。だが、最初に西園寺に問い詰めに行ったとき、彼の憤り様はすさまじく、これだけ怒るのだから西園寺は違うのだろうと素直に納得した。

 しかし、西園寺は自分のロッカーで何かをしていた。

 あの時は怒り心頭でまったくわかっていなかったが、今こうして振りかえると非常にがっかりだ。

 加藤じゃあない、だとすれば西園寺である。

 しかし西園寺は違うんではなかろうか?

 西園寺が自分の服を持っていた……西園寺で間違いないはずだ! 

 だけど西園寺は……

「どっちなんだ……?」

 西園寺が犯人かどうかではない、自分は西園寺を犯人に仕立てたいのかどうかである。

「俺は……西園寺を犯人にしたいのか?」

 もっと別のところに犯人がいそうな気がする。しかし、そんなことをしてメリットになる奴が誰かいるのだろうか。

 鈴木は壁に手をついて考え込んでいた。そのときである、鈴木は後ろから何者かに強打されて気を失った。


 いつ目が覚めたのかはわからなかった。ただ頭ががんがんしていた。そして身動きがとれない。目も口もふさがれている。

 自分の身に何がおこっているのか、それを理解するのにさほど時間はいらなかった。

西園寺の仕業だろうか……ありえる。

 今が何時なのかはわからないが、もう裁判ははじまっているだろう。自分の姿がない、明確な理由もなく原告の姿がない場合、裁判はいったん中止か、最悪の場合は告訴自体が取り下げられる。時間のなかった西園寺のことだ、こういう手に出ることだって十分ありえるじゃあないか。

 一瞬でも信じようとした自分が馬鹿みたいだ。

 とりあえず裁判が終われば捜索願いが出るはずである。発見してもらったあとに、もう一度提訴してこのことをバラすことにしよう。

 とりあえずここがどこであるかを把握することが今は大事だ。

 動けないし、見えない……とくればあとは耳を頼るほかないわけだが、耳の神経を研ぎ澄ましているとすぐ近くから冬姫の声がした。

 冬姫が近くにいるのかと思ったが、よくよく聞いてみればすこし違う。これはマイクをとおした時の声……放送か! 

 ひょっとしてこれは裁判の放送だろうか。

「私はリサイクル同好会のお下がりコーナーで鈴木の姿を見ました」

 なんだろう、加藤たちと話を聞きにいった時の話だろうか。

 しかし、冬姫がどんどん暴露していく内容に鈴木は唖然とした。いつの間に自分はこんなことをしたのだろう、身に覚えがない。

 冬姫、何かの間違えだ! 心の中で叫んでも届くはずもない。そして何やら写真まで撮られているようで、冬姫もそいつに間違いないと言っている。

 でも何故、何故自分がいないのに裁判が始まってしまったのだろう。

 さらに驚くべき事実があった。空乃の発言である。

「裁判長、鈴木君に嘘探知機で尋問してもらいひょか。それなら文句はないじゃろう?」

 こんな自分でも今どこにいるのかわからない自分をどうやって尋問する気なんだろうと思っていたら、暫くして森下の声が聞こえた。

「鈴木君、君は最近お金に困っていましたね?」

「NO」

 ちょっと待て、今の声は誰だろう。森下と海馬はいったい誰に尋問しているのだ。

 これは放送部のドッキリというやつだろうか? いや、ドッキリで人を殴ったりはしない。

 とりあえず、偽者がいて、そいつによって裁判が行われているのだ。それしかわからなかった。そしてトドメの一撃がこれである。

「……はい。俺、実は犯人です」

 な、なんでそうなるんだー!?

 思わず鈴木は立ち上がろうとした。だが失敗してごろんと横に転がってしまった。

「あ、気づいたみたいですね」

 物音を立ててしまったことによって、犯人がこちらに気づいたらしい。ガチャリ、とドアが開く音がして、自分に近づいてくる靴音に戦慄した。

「本当に君ってば可哀想な人だ。同情するよ」

 そう言いながら、男子生徒は鈴木の体をもとあった位置に立て直した。それにしてもこの声……どこかで聞いた覚えがあるのだが、思い出せない。

「まさか、こんな事態になるなんてね。あいつの気まぐれがなければ西園寺君が犯人になってまるく収まったかもしれないってのに……」

 どういうことだろう。犯人は西園寺ではない?

 あいつというのは今法廷に立っている偽者のことだろうか?

 男はまだしゃべり続ける。

「まあ、僕があいつに依頼したんだけどね。あいつが何を考えて裁判に出たのかは知らないけれど、こんな事態になっちゃあもう僕としても、あとには退けない……」

 自分の身に更なる何かが降りかかろうとしているのはなんとなくわかった。だが、それ以上に鈴木は腹立たしかった。自分を陥れて、西園寺を陥れて、そしてのうのうとこいつらは生きていくつもりなのだ。自分はなすすべもなくここに転がっていることしかできないのだろうか。何かこいつらに一泡吹かせてやりたい!

 そんな思考を読まれたのかどうかはわからないが、男は鈴木の目隠しを取った。

 冴々とした狂気さえ感じさせる強い意志を秘めた目である。

 男は言った。

「そうそう。あいつはこの目が見たいとか言っていたな……。ついでに何か恥ずかしい写真でも撮っておけばうちの部活を訴えることもしないだろうって。これは部の未来のためなんだ、大人しくしておいてく――」

 デジカメを持った男が近づいてきた瞬間に鈴木は思い切り体当たりをかました。よろめいて倒れた男の首に脚をからめると思いっきり絞め上げた。ものの見事に気絶する男を確認すると、近くにあったロッカーのフックで自分の手を縛めていたものをほどき、手が自由になったら足と猿轡もはずした。近くにあったモップでもう一度倒れている男を殴って、抵抗できないようにしたあとに鈴木は叫んだ。

「洗いざらい吐いてもらうぞ。法廷でな!」


「以上です」

 鈴木の証言が終わってから、部長はまだ頭をさすっているリサイクル部員に聞いた。

「つまり、早乙女君が須々木君に依頼して動かしていたんですね?」

 早少女という名前らしい。早少女は大袈裟に手をぶんぶんと振って否定した。

「ち、ち、違います。たしかに須々木君に頼んだのは自分でありますが、上からの命令で、僕は脅されて、信じてください!」

「上というのは誰ですか? 裁判部命令です、現在居残りをしているリサイクル部メンバーを全員集めてください」

 即座に山住と五十嵐が走っていく後方を放送部と広報部がわらわらとついていく。

 運がよかったのか、それとも向こうが間抜けなのか……この放送の内容を部室で聞いていたリサイクル同好会の部員を次々としょっ引いて、山住たちが戻ってくる。

 早少女は近くにいた一番背の高い男を指差した。

「僕は部長に命令されて須々木君に鈴木君の偽者を頼みました!」

「おい、待てよ! いきなり俺か!」

 部長は早少女を売国奴でも見るかのような目で睨み、そして隣の女を指差した。

「青森さんが『鈴木君の服はきっと高く売れる』って僕をそそのかしてきました!」

「ちがいます! 経済部の梶原くんが『今需要が高いのは鈴木君の服だ』って!」

 部活を飛び越えた。裁判長が声に出すまでもなく、今度は太田が経済部にまで走っていく。経済部から引っ張ってこられた梶原の証言がさらに続く。

「たしかに鈴木生徒会長の評判がうなぎのぼりだとは言いましたが、こんな意味で言ったわけじゃあありません! というか僕は――」

 また違う部活の誰かの名前が出て、また山住が息を切らせながら走っていく。その繰り返し、繰り返し…こんな夜遅くだというのに、どれだけの生徒が校舎に残っているのだろうか。

 次々と法廷に呼ばれる容疑者たちの証言を聞きながら井上は思った。

 自分の『鈴木君の服って幾らで売れるのかな?』という発言がきっと発端であろうということを。

「うふ、黙っとこ」

 もう誰が黒幕とか、誰が犯人とかではなく、学校ぐるみで鈴木を陥れたとしか思えないこの事件に、裁判長が木槌を打ち鳴らした。

「もうたくさんです。皆腐っています。皆まとめて法の裁きを下してやりたいところですが面倒くさいので先生に生徒指導してもらうことにします。他校生は学校に連絡しておきます。鈴木は無罪! これにて一件落着」


 かくて、裁判は終わった。傍聴席の客や、取材陣が消えたあと、裁判部は何かいつもと違う疲れを感じていた。

 普段ならば場面の急展開とかめちゃくちゃ喜んでいたのに、今回はよく分からなかった。

 なんでこんなに振り回されたのだろうか? 

「なんだったのかしら? 今日の裁判…毒が喉に詰まって出てこなかったわ」

 思うように毒舌をふるえなかった陸が呟いた。今回もアイコラで振り回されるとばかり思っていた海馬が言った。

「この学校、アホだわ。アイコラよりも腐った事件があるなんて…。でも、今回はアイコラが出てこなくてよかったわ。アイコラ出てきたら西園寺を有罪にする気満々だったけどね」

 きつく縛った髪をほどきながら空乃が呟く。

「それにしてもぉ、劣は今回やけに鈴木君の肩を持ってたみたいですけど、何かあったんですかぁ~? 森下君」

「……さあ? そういえば西園寺がなんで三組に出入りしてたのかハッキリしなかったな……まぁいいや。終わったし」

 やっと煙草の吸えた森下にとっては、あとはどうでもいいことらしい。

 どうせ、碌でもない鈴木を陥れる罠でもこそこそと張っていたんだろう。深く追求することはあるまいと皆考えることを放棄した。

「ホモネタでここまで攻められたことはありません。うわぁーん、松山、ハーゲンダッツもってこーい!」

「松山副部長はまだ帰ってきません。また呼吸筋がおかしくなったらしく、戸浪先輩がつきそいで病院まで行ったそうです」

 五十嵐が今までオフにしていた携帯を開いてわめく部長へと言った。

「そういえば、今回は賭けはどうなるんですか? 皆して劣の有罪に賭けていたのに……」

「全員で劣の負けに賭けたら勝った時誰が金払うのよ?」

 片付けと打ち上げの準備をしながら山住と太田は今回も勝負は保留かと肩を竦めた。

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