ダメなオッサンなのに
2.
水曜の午後三時半頃、自分のデスクでも、車の中でも、瀬良はそわそわし始める。
そして、待ちきれなくて大体午後四時前ぐらいにケータイを取り出す。
「来週どこへ行こうか。うん、どこでも…そうか、動物園。いいね。え、好きだよ。そうだな~キリンとか、首が長くて。そうか、春日井君はうさぎが好きか。うん、見に行こう。え、大丈夫だよ。膝に乗せるぐらいできるさ」
週末の予定を春日井から聞き出し、都合がついたら、土曜日は二人でどこかへ出かける。
瀬良も仕事があるし、春日井は部活があるので、ままならなことも多いが、お互いできるだけ時間を作るようにしているので、月に一度から二度ぐらいは会っている。
「社長、春日井君をかまうより、芳樹さんかまったらどうです」
新田はその様子を見ながら、いつもため息混じりにそう忠告する。
息子をほったらかして、土曜日に息子の友達と遊ぶという、矛盾。
女の子だから、問題はないというものではない。所詮、他人の子供…いくら、可愛いと思っていても、限度がある。
「芳樹とは…春日井君の件以来、一言も話してない」
瀬良は顔をこわばらせて、ため息を付いた。
打ち解けたような気持ちになっていたのは、気のせいだったのか、次の日からは全く同じな…永久凍土ような冷たい眼差しの芳樹が瀬良を待ち受けていた。
子供って難しい、子供って大変。
思春期の男ほどデリケートで、気難しいものはない。
つまり、好物のたい焼きぐらいで…今までの十数年を埋められるほど簡単ではなかった。
「だから、かまえと…」
気むずかしい年頃というのならば、少しづつでも相手にしていれば違ってくるものもあるだろうに、それをしないで、内緒で他所の子供を可愛がれば、態度が硬化していくのは当然だ。
「私の顔を見たら、大きなため息ついて、睨み付けるんだ。可愛くない」
瀬良にもそれはうすうす判っているのだが、ついつい素直な春日井の方へ行ってしまう。
「春日井君を逃げ場にしては、芳樹さんにも春日井君にも悪いですよ」
新田に言われずとも判っている、判っているけれども、やめられない。
「頼むから、今の生きがいをとらないでくれよ…」
老い先短いだの、冥土の土産だのと言い出しかねない顔をして、瀬良は新田にそう訴えた。ほとんど、孫を愛でる爺だ。
「私はどうなっても、知りませんからね」
新田は冷ややかな目で瀬良を見つめる。
呆れと嘲りと…いろいろな蔑みが入り混じった目。
例えるなら、人がゴキブリを見つけ、驚きが一段落した時の顔つき。
今までにこんな目で新田に見られたことはなく、瀬良は悔しく感じながらも、新田の方が正論なので何も言えなかった。
土曜日らしく家族連れが多い。
ベビーカーを押すママ、子供を肩車するパパ、ほとんどかがみながら孫に手を引かれているおじいちゃんおばあちゃん、たどたどしくも自分で歩き大人の腰ほどの背丈にも満たない幼児らが子供向けの紙芝居のような看板の下をくぐっていく。
思ったよりも安い入場料に驚きつつ、けれども、かなり広そうなでかでかとした案内板を見つめ、瀬良はため息を付いた。
これはかなり歩かされそうだ。
普段、車で移動の多い瀬良は身体こそたるんだり、緩んだりはしていないが、運動不足気味で近所の散歩すらしていない。明日は筋肉痛…いや、明日にくるならいいが、歳も歳なのでもっと遅くにくるかもしれない。
「瀬良のお父さんっ」
瀬良の姿を見つけると、春日井は嬉しそうに駆け寄ってくる。
それだけで憂鬱な考えはすぐに吹っ飛び、瀬良は顔が緩んだ。
なんでだろうな、本当に可愛い…
春日井は崩れた顔をしているわけではないが、花がほころぶ…というような、そんな子ではない。女の子のように可愛いわけでも、すっきりとした美少年というわけでもない。
顔は本当に凡庸で、道を歩いていても気づかないほど、瀬良の方がすうっと鼻筋も通っていて、男前だ。
男ということを加味しても、今まで付き合ってきた女性らの方が断然美人で、可愛いと瀬良は思う。
それなのに、
「いい加減『瀬良のお父さん』じゃ言いにくいだろう。別の呼び方をしてくれないかな」
「じゃあ、瀬良…さん」
可愛い…
時々、抱きしめたくなるほど、可愛く感じる。
「春日井君、さあ、行こうか」
「はい!」
「パンダまんというのが売ってるらしいよ。食べて帰ろう」
「いいですねっ、甘いのですかっ?」
「そこまで調べてないな」
たとえ、月曜日に筋肉痛で苦しんだとしても、それでも、また水曜には嬉しそうに、電話をかけるであろう自分がいることを瀬良は感じつつ、二人で家族連れに混じって、入場ゲートをくぐった。
「なんか、俺達、変ですかね…?」
少し引き気味に春日井はそう言い、瀬良を見上げた。
「そんなことはないと思うよ」
やはり、外以上に家族連れが多く、家族連れとは言っても、ギリギリ小学生ぐらいまでだ。カップルらしき人影もちらほら見えるが、中年男と高校生の二人連れはかなり浮いている感じがする。
ゲーセンのプリクラコーナーのように女の子ばかりなら、二人は酷く悪目立ちするだろうが、メインは動物なので誰も不思議そうな目で見たりはしない。
「映画ばかりじゃ、もう、見るものもなくなってきちゃってたし、かといって、俺、美術館と博物館とかはガラじゃないから…動物園ぐらいしか、思いつかなくて…」
男二人、年齢は違えど、行きたいトコと言われて、思いつくところは少ない。
「私も、博物館とか、美術館とか…ガラではないかな」
博物館なら、展示によって楽しい物もあるかもしれないが、美術となると瀬良は全く無理だ。これは非常に高い絵だと言われても、どこがどうして高くなるのかがわからないし、有名絵画が来たからと、一時間も二時間も並べる人間の気がしれない。
「瀬良……さんは、どこに行きたかったですか?」
慣れないらしく、春日井はやや言葉をつまらせながら、俯いた。
「君となら…」
口を突いて出そうになった言葉に、瀬良は口ごもる。
本心ではあるが、君とならどこでもいいと言ったら、女の口説き文句のようだし、かといって、聞きようによっては、なげやりでどうでもよいようにきこえなくもない。この場合の受け答えがどれが正しいのか、瀬良には判らない。
「俺となら?」
春日井が顔を覗き込み、思わず、瀬良は目が泳ぐ。
「た、食べ歩きかな、いや、動物園も悪くないよ。ただ、この前、食事に連れてった時、美味しそうに食べていただろう? こっちまで楽しくてね。あの顔が見れるなら、嬉しいかな」
君とならどこでもいいと、左程変わらない言葉が口からこぼれた。
いや、むしろ、もっと気持ちの悪い言葉が出てきた。
「じゃあ、今度はフードテーマパークとか、デパ地下とか、そういうの行きましょう」
春日井はいつもの落ち着きを取り戻して、ふんわりと笑う。
「太り…そうだね」
春日井のように育ち盛りなら、食べた側からカロリーが消費されるだろうが、瀬良ぐらいになってくると、何もかもが身体にしっかりとついていく。
「そういう時は、先にこういう歩くところへ行って、それから美味しいもの食べましょう」
本末転倒、卵が先か、鶏が先か、それでも、春日井は嬉しそうに瀬良の手を引っ張った。
小さなパンダのマスコット、安っぽいプラスチックのボールペンにはファンシーな虎が描かれていて、動物園のロゴ入り、そんなシロモノが重厚なデスクの上に転がっている。誰かの土産のつもりなのか、ファンシーなパンダのクッキーが袋に入って、デスクの横に置かれており、なんとも、不思議な光景だ。
「土曜日は…楽しかったようですね」
そして、それを新田は冷め切った目で、瀬良とともに見比べる。
「ああ、あ、新田、土産だ。秘書室の子らと食べてくれ」
少し顔をうつむかせて、デスクの横の紙袋を瀬良は新田に手渡した。
「社長から、こんな差し入れがあるのは初めてですね」
「そうだった…かな?」
パンダのクッキー、パッケージだけで、中身はただのスーパーにでも売っていそうなバタークッキーだ。
春日井と一緒で浮かれてしまって、ついつい買ってしまった。
「何か、後ろめたそうですね…」
秘書室に、今までなかった差し障りの無い土産。
「……いや、そんなことはない」
楽しかったはずなのに、内容すら言わない春日井とのデート。
「犯罪にならない前に、告白していただけると助かります」
新田の視線が瀬良を刺す。
「春日井君とは…ど、こまでが許されるラインなんだろうな…」
「芳樹さんにしないことはアウトです」
新田の大真面目な視線に、
「全部じゃないかっ」
瀬良は悲鳴に近い声を上げる。
「どんだけ、息子とスキンシップとってないんです。少しは面倒見ろっ」
年上といえど、いや、社長といえど…新田は堪忍袋の緒が切れたらしく、おもいっきり、デスクを叩いた。
「見下ろすような息子は可愛くない。春日井君が可愛いんだ!」
新田の目が『ダメだ、このおっさん』と言っている。
瀬良とて、判らなくはないのだ。
自分の子供の代用品のように、春日井をかわいがっていて、それに見事に歯止めがかかっていない。子供がかまってくれないからと、ペットとして犬や猫を飼うなら、それもありかもしれない。しかし、春日井はペットではない。相手は人であり、なんの血のつながりもない息子の友人であり、いうなれば人様の子供である。
けれども、いたたまれなくなったしまったんだ…
瀬良を引っ張った春日井の手は、思ったよりもしっかりと男のそれだった。
ゴツゴツしているとか、男らしいとか、そういうのではなく、指が長くて、細くて、女の手よりも大きくて、家で洗い物などを手伝っているのか、少しカサついていた。とんでもないことを言う瀬良に対して、いつも明るくにこにこしているが、普通の同じ年頃の子よりも、苦労しているのだなと感じた。
芳樹と、小さい頃は何度か手をつないだことも覚えてなくはないが、今は息子の手の感触すら知らない。けれども、春日井よりも、きっと、瑞々しく、家事仕事をしたこともないような手だろうと思う。
そう思うと、土曜日だけでも、なにかしらで、春日井を喜ばせたいと思ってしまうのだ。
自分のためにではなく、春日井のために。
「今更、芳樹さんと動物園へ行けとは言いませんけど、春日井君をかまうぐらいなら、芳樹さんをかまうべきでしょう。可愛くないのは社長が放ったらかしにしてるせいですよ。たまには外食でも誘っただろうです?」
しかし、新田の方が正論である。
「春日井君も…呼んでいいだろうか…」
芳樹と二人きりで、何を話していいのか、判らない。
「社長は親子水入らずという言葉を知ってますか?」
新田の整った顔の鋭く刺さるような目つきに、瀬良はぐうの音も出なかった。
◆
春日井と初めて行った店に予約を入れて、息子と食事。
なんて、味気ないんだろう。と、瀬良は思った。
同じ二階、同じ個室、同じ席…店員まで同じだというのに、何もかももがどうでもいいぐらいに、霞んで目に映る。料理まで美味しそうに見えないのだからこれは酷い。
「美味しいか?」
月並みに味のことなど訊いてみても、
「ああ…」
芳樹の返事は『はい』でも『うん』でもない。
話すことなど、なにもなくて、ただ皿を空にしていくだけの作業は…食物摂取という意味合い以外に、瀬良にはなにも響かない。まだ、あのたい焼きを買ってきた晩の方が気まずくない。
「急になんだよ、こんなことして…」
メインに差し掛かって、芳樹は瀬良に向かって、スネたような口調で問いただした。
「いや、たまには…と、思ったんだが…」
瀬良の方を見ようともせず、黙々と食べている息子の姿に瀬良はため息を付く。
「仕事、忙しいんだろ…無理することないぜ」
芳樹の言葉は瀬良を気遣うようにも聞こえるが、口調はかなり素っ気ない。
可愛く…ない…
新田に言われて、家族団らんというものをやってみようかと思ってみたが、春日井の時ほど楽しくはない。気が沈むばかりだ。
「そうは言っても、気になるしな」
長く硬化したものを解きほぐすのは難しい。
「今まで、ほったらかしだったのに?」
芳樹の皮肉めいた言葉に、瀬良はますます気が重くなる。
けれど、自業自得、ダメな親の自覚はある。
「そう言うなよ…まぁ、確かにほったらかしてた。それは認める。けど、たった一人の家族だろう?」
正直、気乗りはしない。
幼い頃ならまだしも、こんな高校生の半大人に…と、今更感がかなりある。
「なぁ、なんで…母さん、俺を置いてったんだ…?」
急にぼそりと芳樹が呟いた。
そんなこと、瀬良の方が知りたいぐらいだ。
しかし、そんなことをさすがに子供の前で言うことは出来ない。
「疲れて…たんじゃないかな」
「そっか…」
「嫌いで、連れてかなかったんじゃないと思うぞ。生まれた時は喜んでたし、私も喜んだ。多分、自分一人で精一杯で、お前を連れていける余裕がないと思ったんだろうな」
専業主婦でも、金銭的に不自由のない状況だったから、それを捨てて、出て行くというのは十がゼロになること。実家の助けがあるとしても、金銭的にも、精神的にも、女一人で子供を育てる余裕はないと判断したのだろう。
「好きでも、嫌いになることはあるだろ…」
芳樹は泣いてこそないが、目が少し潤んだように見えた。
刺さった。
かなり、深く瀬良に刺さった。
「そう…だな…」
大きなため息が芳樹の口から溢れる。
瀬良は何か一言言えたらよかったのだろうが、そこで口ごもってしまった。
口ごもるというか、一言も声を発することが出来なかった。
そのまま黙々と食事をして、必要以上のは会話はしなかった。
背を超えても、でかくても、芳樹は子供で、ずいぶん、前に出て行ったはずの母親のことでまだ胸を痛めていてもおかしくはないのに、それに自分は気づいていなかった。
自分はそこそこ大人だと思っていたのに、そうでもなかったことを知ってしまった日…憂鬱な食事と、沈黙の帰りの車内は瀬良をかなり疲れさせた。
全て何もかも答えられるほど、知っているわけでもなく、芳樹という子供を安心させてやれるほどの言葉をかけてやることも出来ないで、確かに、他所様の子供をかまっている暇はない。
しかし…
「もしもし、春日井君?」
たまらなくなり、瀬良は春日井に電話をかけた。
『はいっ』
「今、大丈夫かい?」
『大丈夫ですよ? なにか、ありました?』
「いや、あ~~」
声が聞きたくて…とは、本当に口が裂けても言えない。
『芳樹と何かありましたか?』
何かのお誘いでなければ、それぐらいしか、春日井には心当りがないだろう。
「ん…まぁ、ちょっとね」
『そうですか…』
春日井は芳樹と揉めるたびに、悲しそうな顔をしたり、困ったように眉を寄せる。
芳樹だけでなく、瀬良のことも知ってしまったせいで、板挟みになっているのかもしれない。
泣きつくところを間違っている。大体、息子の友達で、自分のほうが大人で、愚痴をこぼすところもココじゃないことぐらい判っている。それなのに…つい、瀬良は甘えてしまう。
電話したことを後悔しながら、大きくため息をつきかけ、ふと、妙なことを思い出した。
「ところで、春日井君のお父さんは…なんでいらっしゃらないのか、聞いていいかな?」
いないとは言ったが、それは同居してないということだろうか? それとも、シングルマザーだろうか? 離婚も未婚の母も、今時、珍しくもない。
『俺が小さい頃に交通事故で亡くなったんです』
だから、春日井君はいい子なんだ…
母親との関係が良好なのもうなずける。
そうでなければ、家庭が…というか、母親がやっていけないのだ。
「そうか…お気の毒、だったね」
芳樹にはしゃいで瀬良のことを褒めた理由も、嬉しそうについてくる理由も判った気がした。
『気にしないでください。それに、今は瀬良さんがいるから、大丈夫です』
「私かぁ……」
瀬良は無意識にネクタイをゆるめて、片手でタバコを咥えた。
自分の子供一人、ろくに安心させてやれないのに、そんな瀬良で春日井はいいのだろうか。
『ダメ…ですか?』
「ダメじゃない、むしろ、ダメな私でいいのかと思っているよ」
『こんなこと言ったら、気持ち悪いかもしれないけど、俺、瀬良さんのこと…好きですよ』
「春日井君…」
『俺、その、頼れる人って少なくって、その…瀬良さんには安心して、頼れるっていうかっ、甘えられるっていうかっ!』
慌てて、理由を言う春日井の顔が目に浮かんで、胸にわだかまっていたものがすうっと軽くなる。
「そうか、なら、私は頑張らないとな」
瀬良は咥えたばかりのたばこを握りつぶして、ゴミ箱に捨てた。
こんなくだらなことで、凹んでいる場合ではない。新田に文句を言われない程度に、芳樹との関係を修復して、春日井について、口を出されないぐらいに頑張らないといけない。
瀬良は春日井に礼を言ってから、電話を切った。
「犯罪予備軍、ロリコン、変態…どれがよいですか?」
瀬良のデスクの前に立った新田が怖いほど優しい微笑みを向けてくれる。
「なんで、そこまで言われなきゃならんっ!」
別にやましいことをしているわけではない。
ただ、息子の友達と遊ぶのが楽しいだけで、それ以上のことはない。
「社長、ご自分の胸に手を当てて考えてください。少しでもやましく感じることはないですか? 春日井君をどうしたいんです?」
「甘やかしたい」
新田の真剣な眼差しに、瀬良は同じく大真面目にそう答えた。
「そこに下心がないと、胸を張って言えますか?」
「ない」
「本当に?」
「だって、男じゃないか」
どんなに自分よりも背が低くても、華奢だとしても、春日井は男で女ではない。
可愛がって、甘やかしてはいても、それ以上、何かしたいと思うようなことはない。
「なら、良いですけど…それなら、私がどうこう言う問題じゃありませんし」
ため息混じりに眉を寄せて、新田は引き下がった。
「そうなのか?」
いつもなら、瀬良に芳樹をかまえと言いそうなのに、拍子抜けだ。
「そうでしょう? もしも、未成年に手を出してしまったら、この会社はどうなるんです? 親族経営で社長のご兄弟は全部他の仕事をしてらっしゃるし、芳樹さんが継ぐには早い。社員を…というか、自分が路頭に迷うのはイヤですから」
犯罪で社会的地位を失うのは、確かに避けたい。
「君はなにを心配しているんだ。男だぞ。どうにもなりようがないだろ?」
そういう性癖はない。
今まで、女しか相手にしてこなかったし、それも、大体がせいぜい五歳年下がいいところだ。確かに、女と遊ぶ以上に、春日井と遊ぶのは楽しいが、それは結婚や恋愛という柵のようなものがなく、なおかつ、息子や孫を愛でるような感覚からだ。
なにより、春日井君に手など出したら、芳樹がなんと言ってくるか…
今の関係すら、芳樹にバレたら、きっと怒鳴られるにきまっている。
「なら、安心しました。くれぐれもお願いしますよ?」
新田は念を押すようにそう言ったが、瀬良はバカバカしいと言わんばかりに笑った。
◆
『俺、クリスマスのイルミネーション見たいです』
コンビニからスーパーまで、BGMや飾りがクリスマス一色になる頃、春日井はそう言い、夜のショッピングモールへ瀬良を誘った。瀬良はスーツにコートで着膨れし、春日井も平日なので、学生服に指定のコートだ。けれども、空気は冷たく、手袋をしていても、手がかじかむような寒さで、鼻と頬が真っ赤だ。
外のイルミネーションは綺麗だが、どこか、カフェの中で眺めた方が良さそうだ。
「寒くないか? ドライブの方がよかったかな?」
「ツリー見上げたかったから…」
春日井はショッピングモールの広場に飾られた大きなツリーを見上げ、幸せそうだ。
高校生にしては、可愛らしいことを言うものだと思いつつ、瀬良も同じく、ツリーを見上げた。
「見て回ったら、どこか、暖かいところでお茶でもしよう」
「…はい」
カップルや、小さな子供連れが多い中で、二人の関係はどう目に映るのか? よほど穿った目で見ない限り、何かの用事で、たまたま立ち寄っただけの親子連れ…それぐらいにしか見えない。
「来年か、再来年は…彼女と来るといいよ」
瀬良は唐突に呟いた。
やはり、春日井ぐらいの年齢なら、彼女とくるのが自然だし、思い出にもなろうだろう。
白い息がすうっと夜の空気に馴染んで消えていく。
真っ暗な夜空に樅の木が溶けて、まるで、宙に浮かんでいるような、キラキラとしたLEDのライトが綺麗だ。こんな光景はおじさんと一緒に見るには、あまりにも寂しすぎる。
「俺…」
コートの端を引っ張られるような感覚に、瀬良は微笑み、春日井の方へ目を向けた。
不安げな目で、上目遣いで見上げてくる。
「春日井君なら、可愛い彼女ができるよ。紹介してくれよ」
けれど、そうなると、寂しくなるなぁ…
瀬良は『女の子はそうでもないが、男は女ができると、そちらへばかり行ってしまって、親のことをほったらかしになるんですよ…』と、愚痴をこぼしていた取引先の専務のことを思い出す。仕事にしろ、女にしろ、結局、男は一つのことへ集中するタイプで、それに対して、手を抜けない傾向にあるようだ。
若いなら尚更、その傾向は強くなるだろう。
多分、春日井も御多分にもれず、他人の瀬良のことなど、ほったらかしになるだろう。
まぁ、それで…春日井君が幸せになるならいい。
瀬良が目を細めて微笑んでいると、春日井が急に抱きついてきた。
「来年も、再来年も、瀬良さんと来たい」
周りに聞こえない程度、瀬良には聞こえる程度に春日井は囁く。
「…春日井君」
まだまだ、子供だなと苦笑しつつ、ため息混じり、瀬良は春日井の頭を撫でた。
ニット帽のせいで髪には触れなかったが、ひんやりとしていた。
「俺…瀬良さんが好き」
瀬良は思い出した…
「こんなの…おかしいって、判ってる。でも、俺、瀬良さんが好き。父さんの代わりなんかじゃなく、彼氏とか、彼女みたいに好き。ずっと一緒にいたい。だから、彼女なんて作れないっ」
自分はその気はなくとも、相手はその気になることがあるということを。
予想外の出来事に目を丸くしながら、抱きついたままの春日井をしばらく見下ろした。
『人生守りに入ったら、おしまいだ』
と、言っていた友人は結婚を期に、守るものができると、どれだけ自分が向こう見ずだったか。若かったかを思い知ったよと、そう言った。
守りに入っていても、攻められるものは攻められるのだと、今回ばかりは実感する。
瀬良は春日井を家へ送り届けた後、目に入ったコンビニでビールやら、缶の酒類を思いつくまま買い、自宅に戻った。ツマミもなしに、ビニールから手にあたった酒を取り出して、プルタブを開けると、一気に飲めるだけ飲み干す。シュワシュワした泡が喉を通り、心地良い刺激を与えてくれる。よほどのどが渇いていたのか、缶はすぐに軽くなっていて、瀬良は二本目を手にした。
「はぁ………」
大きなため息とも、嘆息とも、つかない声が口から発せられて、ずっしりと頭が重くなる。
『バツ一、子持ち、四十代前半、会社経営者。仲の良い未成年の男の子に告白される』
真っ白になっていた頭が、やっと、酒のおかげで、現状を受け入れ…いや、現状を把握してくれた。
そう、把握してくれただけであり、受け入れてくれはしない。
受け入れるだけのキャパシティーが瀬良の頭にはない。
予想の斜め上を行った状況に三本目の酒に手を伸ばす。
「おい…家で酒なんて飲んでどうしたんだ?」
瀬良がプルタブを折ろうとすると、芳樹が声をかけた。
「ああ、いたのか」
珍しくも、自宅での醜態に驚き、声をかけずにはいられなかったらしい。
「いたのかじゃねぇ、この前、暗くなる前に帰って来いって、言ってただろ」
「そう…だったな」
そう言えばそうだったかなんて、あんまり思い出せもしない。
「なぁ、どうした?」
「ん~~~飲みたくなって、な」
「普段、家じゃ、飲まねぇだろ?」
「今日、車だったからな、外で飲んだら帰ってこれないだろう?」
さすがに息子に春日井のことを話すことは出来ない。
大体、春日井との月一の楽しみについて、芳樹には言っていない。
「旨いの?」
芳樹はそう言い、テーブルに並べられた缶ビールを指差した。
酒といえば、正月のお屠蘇を舐めるぐらいしか、させたことがない。
「珈琲と同じ。慣れれば、旨い」
「へぇ…」
皮肉なもので、こんな時だからか、芳樹と話せてホッとしている。
「成人したら、飲もうな」
その頃には逆にこの時期が懐かしかったりするんだろうか。
「……アンタが生きてたらな」
「頑張るよ」
瀬良には憎まれ口を叩く芳樹が可愛らしく見える。
いや、勿論、春日井も可愛い、可愛いのだけれども…
「春日井君は…どうしてる?」
瀬良は一応、芳樹にそう訊いてみた。
「元気だ。最近、彼女でも出来たらしい」
「……そうか」
「年上らしくって、毎週、嬉しそうに電話してる。土曜日は絶対に友達との用事も入れなくなった。変な女だったらイヤだから、紹介しろって言ってんだけど、そんな関係じゃないって、はぐらかされてる。アンタ、なんかしらねぇ?」
『ここにいます』
ここです、彼女じゃないですが、ここにいます。
瀬良はプシュっとプルタブを開けて、そのまま、カタカタ震えそうな手で一気に煽る。
「な、なんで、私なんだっ、新田ならともかく、あれから、一回も会ってないぞ!」
「そ~だよな。聞いてみるか…」
ひとりごとのような言葉を残して、芳樹は風呂場の方へ歩いて行く。
その背中を見ながら、瀬良は大きくため息を付いて、手にしていた缶を空にした。
二日酔いの頭に着信音はよく響く。
下戸でもなく、かと言って、酒豪でもなく、胸の奥からせり上がってくるようななにかやら、頭を常時誰かがノックしているような心地やらで、身体は見事に異常をきたしていた。
瀬良はだらしなくもアルコールの缶に埋もれて、ソファから起き上がると、鳴り止まないそれに手を伸ばした。
『瀬良、さん…』
息が詰まるような、声が枯れていて、酷く、ハスキーだ。
『ごめんなさいっ、本当にっ、ごめんなさいっ!』
いつもの春日井の声とはかけ離れた声が必死にそう言って、繰り返している。
二日酔いの頭には本当によく響く、けれども、必死な彼を止めることなどできない。
「謝ることじゃないよ」
人を好きになることは悪いことではない。
問題は関係性、その人の置かれた立場次第だろう。
『でも、瀬良さん、怒ってた…困ってたっ』
瀬良は昨晩、頭が真っ白で、掛ける言葉もなく、ただ黙って家に送ったので、そう取られても仕方ない。
「怒ってはいないよ。まぁ、びっくりはしたよ。うん…まさかね」
いろいろ連れてってくれるとはいえ、こんなおっさんを高校生ぐらいの男の子が恋心を抱くなんて思いもしないだろう。
『言うべきじゃなかった…ずっと、黙ってればよかった。そしたらっ、ずっと瀬良さんは誘ってくれて、俺に飽きるまで一緒にいてくれたのにっ』
「春日井君…」
もしかしたら、昨晩、瀬良が『彼女』のことについてなにも言わなければ、春日井はいつまでも黙っているつもりだったのだろうか。そう思うと、春日井の強さとも、弱さとも取れるその我慢強さに驚かさせられる。
『本当に…ごめんなさい…』
かすれた声がまたひどく、ぐずぐず言い出して、泣き出しているのが判る。
一晩中、泣いていたのかもしれない。
「春日井君、落ち着いて。そんなに困ってもいないし、怒ってもいない。というか、今、どこで…泣いてるんだ?」
車の走行音のような音が向こう側で聞こえて、家でないことを初めて知った。
『……瀬良さんちの…前…』
「なんで、入ってこないんだっ」
『だって…怖くて…』
寒空の下、そんなふきっさらしのとこでいることのほうが怒りたい。
取るものもとりあえず、瀬良は玄関へと走り、ドアを開けた。
「ごめ、…なさいっ……」
ひんやりと寒々しい外気、どんよりと曇った空の下、まぶたをまっかにはらして、顔をむくませた…お世辞にも可愛いとは言いがたい、春日井がいた。
「全く、心配させないでくれっ、こんな寒いところにいて風邪でも引いたらどうするんだっ」
思わず、瀬良は抱きしめる。
冷え切ったコート、ぱっさぱさになった髪、ぐしゃぐしゃな頬が肩口に当たる。
「ずび…ません……」
瀬良は春日井の可愛く、素直で、いい子…そんな、仮面のようなものが剥がれたような気がした。
「ウチに入りなさい」
「けど……芳樹、いる…し…」
「かまわん、きっとまだ寝ている」
抱きかかえるようにして、家へ招き入れた。
「全く、風邪でも引いたらどうするんだ」
居間のソファ近くの惨状を横目に、冷蔵庫に入っていたボトルコーヒーを取り出し、マグカップに半分注ぐ。後は牛乳を適量注いで、瀬良は電子レンジに放り込む。
「ずび…ません…」
立ったまま、まだぐずぐずと泣いて、鼻の頭を真っ赤にして、春日井がまた謝った。
「カフェオレ。甘いの…好きだろう?」
「はぃ……」
電子レンジの軽快な音を聞いて、瀬良は牛乳たっぷりのコーヒーを取り出すと、ソファに座らせて、春日井に差し出した。
「どうっ…したん…ですか? これ…」
コーヒーを受け取りながら、春日井は目の前の惨状に声をあげる。
「君のことを考えてたら、呑んでしまった」
ソファのテーブルに散らかったアルコールの空缶、その上、いつも普段でもきちんとした服を着ている瀬良が昨日のままの服を身につけ、しかも、ズボンは皺だらけだ。
「いいんだよ、たまにはこういう日があるのも悪くない」
春日井がまた謝ろうとする口を止めて、瀬良は優しく笑う。
「瀬良さん…」
「こちらこそ悪かったね。さすがに予想外にびっくりして、素っ気なくしてしまった。君よりもずいぶん年上なのに申し訳ない」
子供扱いするのは止めた。
恋をしたいのなら、通っている学校も共学なのだし、そちらで選べばいい。
それを、あえて、瀬良を選んでいるのだから、はっきりとさせた方がいい。
「ただ、先に言っておくと、春日井君は未成年で、男で、私は見ての通り中年で、男だ。付き合うということになったら、私は性的なことをしてしまったら犯罪者だし、傍から見れば、なにもしなくても変態扱いされるだろう。多分、バレたら、社会的地位は失う。新田もそう言っていた」
「はい」
「そして、私は…今まで、女性以外を恋愛対象として見たことがない」
「はい…」
「かなり、都合良く言わせてもらうと…その、とりあえず、今のままじゃいけないだろうか? これからどうなるかは判らないし、どうしていいかも判らないのだけど、私は春日井くんのことが好きだし、大切だよ。失いたくない」
春日井君にとって、生殺しに近いことは判っている。
「俺は…多分、それでも、諦めたりしませんよ…きっと、瀬良さんを困らせる」
「辛い思いをするのは君の方だと思うよ。かなり、私にばかり都合がいい」
いろいろなことを曖昧にしたまま、君と安全に付き合っていけるのだから。
「……それでも、いい…」
春日井の消え入りそうな声に瀬良は口を開きかけようとすると、
「穂っ、なんでいるんだ!?」
「芳樹…」
マズいのに見つかった。
「ああ、その……」
瀬良はこの現場を収める方法を頭を巡らせる。
「近くで、変な人に追いかけられてっ、怖くてっ、芳樹の家近かったからっ」
春日井は芳樹の方を見つめて、そう言い放った。
頭の回転の早さ、いや、咄嗟に春日井の口から出たウソに驚く。
そうか、春日井君でも、ウソは付くのか。
当然のことなのに、春日井はそんなことをしないと、瀬良は勝手に思っていた。
「ああ、ったく、オヤジ、早く、俺を呼べよ」
瀬良の方を向いて、芳樹は悪態をつく。
「まだ…お前は寝てただろ」
土日は特に芳樹は昼近くまで寝ている。
「休みなんだから、いいだろ」
不機嫌そうな低い声、だらしなく、パジャマ代わりのスウェットのまま、芳樹は寝起きで、また一段と態度が悪い。
「責めてるわけじゃない。ただ、寝てると思ったから、お前を起こさずに、春日井くんを少し落ち着かせたら、家まで送っていくつもりだったんだ」
春日井と話を合わせるように、瀬良は言い訳をした。
「俺が送ってく。歩きだけど、いいだろ? 穂」
「う、うん…ありがとう」
「アンタはもういい。落ち着いたら、俺が連れてくから」
実の親だというのに引っ込んでろとばかりに言われて、瀬良はカチンと頭にきたが、春日井の前で怒鳴る気も起こらない。それにウソをついているという罪悪感もある。
「気をつけて帰りなさい」
そう言い、瀬良はソファから立ち上がった。
「はい、ありがとうございます。芳樹のお父さん」
『芳樹のお父さん』
そう呼ばれて、瀬良は胸に石でも詰まっているかのように重く感じた。
そのよそよそしい物言いに、大きな隔たりを感じる。
「お前は変なのに好かれるから、気をつけろって、いつも言ってるだろ」
「うん…ごめん…」
瀬良が缶ビール一つ手にして、自室に下がろうとしていると、背後でそんな声が聞こえた。
ちらりと振り返ると、芳樹が春日井を軽く抱いて、肩をぽんぽんっと軽く叩いているのが見え、思わず、瀬良は固まる。仲がいいというのは聞いていたが、先輩後輩でもなく、同級生でそれはないだろう。まるで年下の後輩をいたわるというか、可愛がるというか、そういう雰囲気だ。
親密すぎる。
瀬良が目を見開いていると、ちょうど春日井と目が合った。
真っ赤でまぶたを腫らした目が痛々しいが、どこか、安心しきった顔をしていて、瀬良と一緒にいるときには見せなかった顔だ。瀬良はいたたまれなくなりそのまま、自室へと下がり、迎え酒とばかりにビールを一気に開けて、ベッドに寝転がる。
男同士だが瀬良よりも芳樹と春日井の方がお似合いではある。
そもそも、瀬良は芳樹があんなに気遣って、親身に誰かを優しくするのは初めて見た。
芳樹は…春日井君のことが好きなのか?
間違いとはいえ、アルコールを口にさせてしまった時の怒り具合は半端ではなかったし、後から、たい焼きを買ってきた時の様子などを見る限り、春日井に特別な感情を抱いていてもおかしくはなさそうだ。
そう思うと、なんとも奇妙な感情が沸き起こってくる。
そんな春日井が自分を好きであること。
けれど、芳樹が好きなのだとしたら、盗られてしまうかもしれないということ。
「盗られる?」
瀬良は思わず、そう呟いた。
盗られるもなにも、言い方は悪いが、春日井は瀬良のモノではないのでそんな権利もない。
今の瀬良は春日井の保護者でもなければ、付き合っている相手でもなく、ただの土曜に遊ぶ年離れた友達というだけに過ぎない。
待て待て、落ち着け、良く考えろ、ただの独占欲ってこともある。
特別になってしまったら、特別なことをしなければならなくなる。
自分が男にそんなことができるのか…?
昨晩だってそんなことを考えて、アルコールに逃げたのに答えなんて出るはずがない。
だから、今日の対応だって、曖昧になったのだから…。
そんなことをだらだら堂々巡りで考えていると、部屋のドアがノックされた。
「ん? 芳樹か?」
「俺です…」
春日井の声が聞こえて、瀬良は、思わず、部屋のドアを開けた。
「これから、芳樹に送ってもらいます」
目は赤いが今さっきよりはいくらか落ち着いているようにみえる。
「そうか、気をつけて帰りなさい」
無意識にくりっとした頭に手が伸びて、軽く撫でた。
春日井の身体は男としては未成熟ではあるが、しっかりと肩幅もあり、顔だって女の子のように可愛いと思うような容貌ではない。いつも必死で見上げてくる目は瑞々しくて、鼻は取ってつけたようにちょこんとついてて、小さく見える口はなにかを食べるときは大きく開いて、ばくっと噛み付く…そして、その口で嘘だってつくし、その口で瀬良をぐさっと突き刺すような言葉も言う。
ただ、可愛いだけじゃない。
歳相応の、賢さも、ずるさも、意志も持った少年だ。
「あの、俺っ、諦めませんからっ」
春日井は背伸びして、瀬良のシャツを握りしめて、押し付けるようなキスをする。
「諦めませんからねっ」
瀬良のシャツのボタンがいくつか弾けるように飛んで、けれど、春日井はそんなことを気遣う余裕もないらしく、まるで雪崩のような音を立てて、駆け足で芳樹の待つ一階へ降りていった。
まいったな…やっぱり、かわいい…
飛んだボタンを拾いながら、今さっきの出来事を反芻し、軽く残った感触を思い出す。
触れるだけのキス、味も何もないキス、ドキドキこそしなかったが嫌ではなかった。
嫌悪感は重要だ。
それがあれば、拒める気がする。
けれども、瀬良は妙に甘酸っぱいような気持ちに浸った。




