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4. 奇妙な2人の生活

「役割分担をしなければな」

「……」

「曜日で分けるか、家事」

「なんで僕が」

「ん?なんか言った?」


 その日から僕は『客人』ではなく『同居人』に昇格した。反論しようとしたら、銃をちらつかせてきやがった、この女。さすがに死に方くらいは選びたいものだ。


「固定にしましょう、特に料理」

「ハルト君に負担が行き過ぎないか?」

「……俺の胃に負担がかかりそうなのでいいです」


 洗濯と料理は固定。その他は曜日ごとで分担することになった。なんで洗濯を桜子に任せたかは……察してくれ。


 まぁ、何を決めたって逃げるから別にいいけど。




「くっそ……っ!」

「ははははは」


 早速逃亡がばれた。僕はまぬけにも、落とし穴に落ちてしまった。


「獲物用に作っておいたんだけどな、人間がひっっかかるとは」


 桜子は軽やかに笑っている。……まじでむかつく。


「ほら、」


 彼女は僕に手を伸ばす。それが幼子にするような仕草で悔しくなって、そっぽを向いた。



 パァァン────



 至近距離で発砲音がした。耳がキーンとする。え、ちょ。



(この距離でためらいなく撃つとか、こいつ鬼だ!!)



「はやく、な?」

「…………」


 僕は大人しく従った。……この人、最強すぎる。それからというものの、僕がいつ自殺を図ろうとしても、桜子はそれを嗅ぎつけて阻止した。山に下りることもできないので逃亡は無理だ。僕はだんだん抵抗するのも面倒くさくなってきていた。



「疲れた」


 気づけばひと月が経っていた。僕は今、桜子に言われて畑を耕していた。僕はインドア派なんだってば。山を駆けまわって兎だのイノシシだの狩ってくるどこかの誰かさんと一緒にしないで欲しい。1時間もしないうちに僕はバてた。これ以上、もう無理。


 桜子は周りにはいない。よし、



「サボろう」



 庭の裏の森に入る。畑を耕していたので体が熱くなっていた。ひんやりとした空気が心地よい。先へ先へと進むと、だんだん日光も入らなくなり、だんだん暗くなってくる。


「あれ」


 先へと進んでいると、大きな湖らしきものが遠くに見えた。一度も見たことなかったけど、こんな場所があったんだ。ちょうどいいからあそこで休もうかな。僕は何も考えずに歩いた。


「────!!」


 湖には日光がさんさんと浴びせられ、かがやいていた。水はとても澄んでおり、底深くまでみえる。森の中の湖。僕は、ある一点に釘づけになった。


 流れるような腰までの曲線、それを隠すように揺れる長いダークブラウンの髪。目は軽く閉じられており、縁取った長いまつげは水滴できらきらしている。



 一糸まとわぬ姿の──桜子がいた。



(な、なな、な!)



 この季節に水浴びだろうか、寒くないのか?現実逃避のようにそう思った。いつもの彼女からは考えられないような神秘性があり、まるで一つの絵画のようなシーンだった。


 カラン、と畑仕事をして握ったままだったスコップが手から落ちる。その音で軽く目を閉じていた横顔は、ゆっくりと目をあけこちらを見た。



 ドクン────



 目が合った瞬間、心臓が不意に跳ねる。…………場合じゃなかった。彼女はにやり、と笑い言った。



「大胆だな」



 恥じらう気配はこれっぽっちもなかった。



「うわぁぁぁぁ!!」



 僕は一目散に逃げ出した。後ろからカカカカと笑い声がする。顔が熱い。なんで、なんで!僕だけこんなに恥ずかしい思いしてるんだ!!普通逆だろ!?

 それから一心不乱に畑仕事をした。心を無にするんだ、僕。



「すみませんでした……」


 夕食時。


 桜子が家に戻ってきたとき、僕は彼女に土下座した。非常に気まずい。彼女の顔をまともに見ることができない。しかし、僕の気持ちとはよそに、彼女はあっけからんと言った。



「少年、のぞくならもっと隠れるべきだな。あれじゃバレバレだ」

「の、のぞくつもりはっ」

「分かってる、わかってるって」


 桜子は僕の頭をなでながら、生暖かい目でこちらを見ていた。……絶対わかってないだろ。


「だが、あそこにはあまり立ち入らないほうがいい」

「もう行きませんよっ」


 また鉢合わせになったらたまらない。憤死する……僕が。情けないけれども。桜子は急に真面目な顔になってこう言った。



「熊がでるからな」

「…………」



(熊、だと?)


 あそこ危ねえぇぇ!!思わぬトラップが仕掛けられていた。番犬ならぬ『番熊』、とは。……桜子さん、よく熊がでるところで水浴びしていたな。この人に勝てる気がしない。僕は脱力した。


 

「今日の夕食はなんだ?」

「ハンバーグです」

「お、いいな!」


 この奇妙な同居生活も僕の中でだんだん日常になりつつあった────

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