3. 最初の嘘
僕は耳を疑った。……この女、今なんて言った?
「だーかーらー。最初に会ったとき『7日後に死ぬ』とか言ったけど、あれ嘘だから」
「……じゃあなんで、そんな嘘ついたんですか」
嘘だということは薄々感じていたけど、だったら何で僕を家になんか招き入れたのだろう?放っておけば勝手に死んだってのに。
「ハルト、君がここに来た時何日だった?」
「確か、4月1日……。まさか」
「エイプリールフールには最適だろ」
そんなもののせいで僕の人生は狂ってしまったというのだろうか。目の前のこの女にもホイホイついていった僕にも腹立つ。
「……というのもあるのだが、実は理由が2つある」
「理由?」
何だろうか。
「この窓から、君が吊ろうとした木がよく見える。窓を開けたら死体が見えますーとかインテリアにもならないだろ」
「はぁ」
桜子はリビングの向こうを指さした。……なるほど、よく見えるな。
「そしてもう一つ」
彼女は人差し指を目の前に突き出し僕の胸をとん、とたたいた。
「リミットだからだ」
桜子は以前見せた人の悪い笑みを浮かべていた。……これは、ろくなことではないな。僕は確信する。
「実はな────」
僕は桜子が言ったことが本当なのか確かめため、山道を下りていた。桜の花びらが舞い、風にさらわれていく。咲いているのは桜だけではない。最初この山を登るときには気づかなかったが、色鮮やかな花々で絨毯を敷いているように咲き誇っていた。
最初は心地よかったあたたかい陽ざしは、だんだん僕をじりじりと焼いてゆく。僕は黙って歩いていたが、我慢ができなくなって立ち止まり、そして叫ぶ。
「なんで進めないんだ……!」
景色は1時間前と変わらなかった。
「どうだった?」
「……」
「そうにらむなよ、こわいこわい」
諦めて桜子の家に戻った。その時間たった10分、解せぬ。彼女は全然怖いなんて思っていないだろう、笑顔でこう言った。
「私の言ったことは本当だったろう?」
数時間前。桜子は2つ目の『理由』を話した。
「実はな、ここは昔、霊山だったんだよ」
しかし、いつしかそんなことは忘れ去られ、自殺の名所として有名になってしまった。ここは大きな霊力がある、山神さまがのいる山だ。だから──
「自殺した魂は、この山神さまのものになる。そして、自殺しようとした命が7日、この山に留まった場合も──山神さまのものになる」
「……なんですか、そのオカルトちっくな話」
「山神さまのものになった命がどうなるか、知りたい?」
そんな非現実な話、信じちゃいない。信じてなんかないんだからな。……気になるけど。
桜子は内緒話をするように耳元でこっそりささやいた。
「この山から下りることができなくなる」
僕はその言葉を聞いた瞬間、この平屋から飛び出した。
「あんた、何やらかしてくれたんですか!?」
桜子が女だということも構わず、つかみかかる。ふつふつと湧いてくる怒りは止まらない。
「どうせ死ぬつもりだったんだろ?ここを黄泉の国と思って暮らせばいいじゃないか。なにもない場所だけど、住めば都だって」
「……死んでやる」
僕は低い声で呟いた。もともとその目的でこの山に来たんだ。今日にでも首を吊ってやる!!
「無理だな」
「なんで」
「私が絶対に阻止するからな」
桜子の目線がそこに掛ってある狩猟用の銃に流れる。
「自殺されたらこっちだって困るんだよ。これ以上この霊山を穢されたくない。分かるようになるさ、──8月になれば」
「はぁ!?」
そんなに長くいるもんか。絶対に嫌だ。
「……山神さまの霊力を甘く見ない方がいい」
「────っ」
へらへらしていた桜子さんの表情が真剣になった。僕はその眼差しにぎくり、とした。
「まぁ、せいぜい頑張れ」
桜子さんは後ろを向き、ひらひらと手を振りながらどこかへ行ってしまった。……むかつく、絶対遊ばれてる!!
ここから脱出して、改めて死に場所探してやる……!
新しい目標と桜子へのリベンジに燃えていた僕は、彼女のついたちいさな『嘘』に気づかなかった。それを知るのは──。




