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サンプルD

 第一地下都市『中国支部』。

 地下6000メートルの地底に作られた、人類最後の住処。

 その一つがこの中国支部。

 現在この中国支部ではある実験が公認で行われていた。

 午後11時半。

 空がないだけで、ほぼ大戦前の姿になっている地下の町に、ひっそりと姿を隠す白い箱のような長方形の建物でその実験は始まった。

 真っ白な、まるで病院の手術室ような部屋に、灰色の、それでいてボロボロの布切れをきた少女が電気椅子のような物に縛り付けられていた。

 それを監視するように、部屋の上部にある、冷たい防弾ガラスが張り付けられた部屋に男が現れた。

 白衣を着ているところを見るとここの研究者、それもかなりランクが高いようだ。

 男は部屋にはいるなり

「始めるぞ、電流を流せ」

 と、となりにいた研究員に命じる。

 研究員は無言で頷き、手元にあるレバーを前に軽く押し倒す。

 少し鉄が軋むような音の後に、青白い光が椅子から迸った。

「ウルグガァァアアアァァァ!?」

 直後、部屋には少女の声にならない絶叫が響き渡った。

 両手と両足を拘束されていているにも関わらず、苦痛で激しく暴れる。

「電圧を上げろ。この程度のショックに耐えれないなら、実戦に投与した途端に壊れるわ」

「了解」

 しかし、そんな少女の苦しみも露知らず、男はさらに少女に苦痛を与えた。

 青い閃光が更に輝き、少女の体を駆け巡る。

 あまりの痛みに、少女の口からは紅い液体が流れ、目は白く白濁しかかっていた。

「オガァアアァアアァァアァ!!」

「電圧を上げろ」

「まだですか?既に二万を越えていますが…」

「かまわん、やれ」

 男は非情にも更に電圧を上げさせ、少女を更に苦しめようとする…が。

「ん?…署長、どうやらこれが最大電力みたいです。これ以上上がらない」

「むぅ、そうか…なら次は銃撃耐久性テストだ。射撃場へ連れていけ」

 そう言うと、男はその部屋から立ち去っていった。

 部屋で苦しみ、涙を流す少女を放っておいて。













 中国支部、ここは確か一番最初に作られた地下都市だったはず。

 世界大戦初期に、敵の兵を入れさせないために300メートルの城壁を建て、その城壁に敵が手こずっている内に地下都市を作って敵兵を迎え撃つ。

 本来はそういうコンセプトで作られていたんだったっけ?

 それが今や、世界中の人類最後の砦の一つになるとは…皮肉なものね。

 さて、今私はこの中国支部の入り口付近にいる。

 ついに超危険区域レッドゾーンの使えそうな死体サンプルが底を付いたからね。

 だから作るんだ、死体を。

 で、作るのに必要な生身の人間は地下都市にしかいないから、わざわざここまで移動してきたわけだ。

 まあ、でも実は移動にはそんなに苦労していない。

 元々私がこの中国支部のすぐそばの上海を拠点にしていたから楽にこれたんだ。

 さて、今私は偵察に向きそうな高いビルの上から門を見つめている。

 ビルはボロボロで、床や壁には銃痕やひび割れで今にも崩れ落ちそうだが、まあ仕方ない。

 ここ以外良い偵察場所無さそうだし。

 さあ、入り口の地下への門の番人は何人いるかな?

 この前スナイパーに撃たれた事が切っ掛けで、好きなものに変異することができるようになった右手で、望遠鏡を作り、門を覗く。

 縦に長い長方形の白いブロック。

 そのなかにポツンとある黒いこれまた長方形の扉。

 それをバックに映っているのは重機関銃らしきものを抱えた兵士5人。

「門番は5人か…少ないな、普通これに10をかけなきゃいけないのに」

 注意区域グリーンゾーンだからといっても、ゾンビの大群が来ない訳じゃないのに。

 ここのトップはバカなのかな?

 ま、私にはむしろ侵入はいりやすくていいんだけど…

 妙に気になるな…なんで門番がこんなに少ないんだ?

「…一様、警戒はしておくか」

 私は腕を鞭のような物に変異させてから、ビルから彼等の元へ飛び降りた。









 電気椅子に座らさせて、私は考える。

 いつからこうなってしまったんだろう。

 私が覚醒剤を使い初めてから?

 私が学生なのに売春をしたから?

 私か生まれたときから?

 わからない、わからないよ。

 なんで私は死ねないんだろう、なんで私はこんなに傷つけられているんだろう、なんで私はこんなに笑われているんだろう。

 全部わかんないよ、なんで白いあの人達は私を苦しめるの?

 なんで、なんで、なんで?

「次は銃撃耐久性テストだ。射撃場へ連れていけ」

 まだ続くの?この痛みは、苦しみは、恐怖は。

 もう嫌だ、嫌だ、嫌だ。

 痛いのも、苦しいのも、悲しいのも、怖いのも…全部、全部!

「…署長も人使い荒いよな全く。こう言うアブナイことはアルバイト兵士に任せりゃ良いのに」

 白い人、来る。

 近づいて来る、嫌だ、来ないで!

「おうおう、化け物の癖にいっちょまえにビビりやがって」

 嫌だ、嫌だ、嫌だ!

 来ないで!来ないで!来ないで!来るな!来ないでぇ!

「ほい麻酔銃パスっと」

 痛い!やだ力が入らない!やだ、嫌だ!もう痛いの嫌だ!

「おい、お前ら運べ。コイツ重いから頭脳労働派のオレチャンにはきついんだわ」

「ハッ!」

 黒い人やだ!こっちに来ないでよ!顔なし黒い人怖い、来ないで!

 嫌だ!嫌だ!来ないでよ!皆、皆嫌いだ!

 来ないで!来るなあ!来ないで!

「お、おい!コイツ今動かなかったか?」

「ん、なんだ?コイツ麻酔が効いているはずだか?」

 来るな、来るな、来るな、来ないでよ!

 嫌だ、痛いの嫌だ、苦しいの嫌だ、怖いのはもっと嫌だ!

「お、おい研究員!コイツ!!」

「な、なんじゃあこりゃあ!こんな変異パターン、聞いたことなんて…」

 来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナアァ!!

「ギャアアァァァァ!!」

「研究員!?撃て、撃て!撃ち殺せぇ!!」

 怖イノ壊ス!全部、全部壊ス!

 壊サナイト、壊サレル。

 殺サナイト傷ツケラレル!!

 痛イノハモウ嫌ダァァ!!

「うわぁぁ!!」

「隊長!!こ、こいつ!?くたばれ化け物!!」

「駄目だ…まるで効いてないぞ!AKじゃあ…歯が立たない!クガァァ!?」

 紅イ?血?綺麗ナ紅色…?

「く、来るな化け物!!来るなぁ!!…ギャアアアアア!!」

 皆紅色?皆綺麗?皆…怖イ?

 私、怖イ?

 私、逃ゲタイ…ココカラ…逃ゲル!

 外、見タイカラ!!










 さて、門番殺して地下都市に侵入したわけだか…

 どうなっているの?

 ゾンビが侵入したわけでもないのに警報サイレンが鳴り響き、所々から火や煙が上がり、銃声が聞こえる。

 まさに混沌カオスね、本当なにがあったの?

 まあ、私には関係あんまりないことだけど…気になるな。

 門の出入り口から町を見下ろし私は思った。

 一体何故こんなことに?

 そんなことを考えていると…

「?…血の臭い、それも結構濃いね」

 どこから漂ってきたのか、かなり濃厚な血の香りが流れてきた。

 この臭いの先に答えがあるのかしら?

 まあ、行ってみなきゃ解らないか。

 私は血の臭いを追って走り出した。






「…なにこれ、白いブロック?」

 たどり着いた場所はどう見ても白いブロックか、白い箱にしか見えない窓のない建物。

 他になんて例えられるだろう、たしか昔のニッポンって国にある食べ物に似ている気が…そう豆腐!

 豆腐そっくりだわこの建物。

「でもなんでこんな建物から?」

 豆腐もどきの建物の中から漂う猛烈な血の臭み。

 ここには間違いないだろうけど…なんの建物だろうか。

 研究所にしては小さすぎるし、他の建造物にしては窓一つないのは可笑しすぎる。

 …入ってみれば解るかな?

 とりあえず扉を探さないと、話にならないな。

 香りを頼りに扉を探す、すると1分もせず、ある物を見つけた。

「穴?なんで壁なんかに穴が?」

 豆腐もどきの建物に空いた大きな穴。

 まるで象でも通ったような、縦3メートル、横1メートルの穴が開いていた。

 そこから血の香りは漂っていた。

「…なにかあると考えた方が良いかなこれは」

 ここまで濃厚で新鮮な血の臭いは久しく嗅いでいない。

 中は多分R-18Gでもつくような惨状になっているに違いないねこれ。

「中入ってみないと解らないか…よし」

 私はそう呟き、その穴の中へと足を踏み入れるのだった。

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