サンプルB
XX年〇月X△日・・・
今日は雨だ。
白い無数の液体が瞬く間に地を白に染め上げる。
雨の日はつまらなくってたまらない。
この雨が白い訳・・・ それは放射能によるもので、勿論この雨は放射能がたっぷり含まれていて、だからこそ人間どもの調査隊な雨の日に出て来やしない。
「ふあぁ~、暇・・・・」
ザアザアと雨の降りそそぐ音しか、今は聞こえない。
つい先程の実験で、貯めてあった死体が底をついた。
外に出ればいくらでも死体はあるんだけど・・・このご時世、穴が空いていない傘がある分けないわけで・・・
「放射能・・・関係ないとはわかっているけど、濡れるの嫌だな~」
私は柿色の自分の髪をかきむしる、ああもう! 自慢のショートヘアーが湿気でベトベトじゃない! 魅せる相手、居ないけど・・・
ああ、暇・・・ 私は足を机に投げ出して、ボ~としていた。
ふと、そこらじゅうに片づけないで、放っておいた、試験管やビーカを見て思った。
・・・そうだ、掃除をしよう。
ここ最近、研究所を掃除していなかったし。
思ったら即実行が私の取り柄、直ぐに足を机から下ろし、スクッと立ち上がった。
「さてと、やると決めたら・・・ ・・・何処からやろうかな?」
研究所の部屋を全部見回り、片付けるべき部屋を探す。
寝室、リビング、研究室、実験体保管室と、いろいろとね・・・取り合えず、汚れが最も目立つ、このリビングから片付けよう。
まずデスクの上の試験管やシャーレを壁の側にある棚に戻して、次に昨日廃屋で拾った布で机を拭くため、水を汲みに外に出る。
出入口のすぐ側にある水道の蛇口を捻って、水をだ・・・ す?
「ああ、そうだった。この水は使えないんだった」
蛇口から出てきた水は黒、これが、この世界の水道水。
この終わった世界では、水道水ですら地上でなら、こんな風に放射能やアヘリによる汚染で、真っ黒に染まっている。
普通の人間が飲むものなら、直ぐにあの世に逝ける・・・・それだけのヤバい物さ。
まあ、どっちにしろ、こんな真っ黒な水じゃあ、机は拭けないなぁ~。
「はぁ・・・ 今日は厄日だね・・・」
数時間後・・・・
先程、煩いくらいに降り注いでいた雨が止んだ。
地面は、元々の赤色と白濁とした雨によって、汚ならしいピンクになっていた。
「やっと止んだ? まったく、これでやっと死体回収に行けるよ♪」
止んだのを確認した私は、壁に掛けてあった白衣を着て、直ぐ様出掛けた。
町・・・
確か・・・ この町は、ニューヨークと呼ばれていたみたいだね。
こんな世界になる前は、さぞ愚かな人間どもが、この無機質なビルの上から、この地上を見下していたんでしょうね・・・
今は、そんな天を突き上げるようなビルは、中程からへし折れた物や、底が陥没している物、あるいはボロボロで、今にも倒れそうながらも、古びた墓標の様に未だに建っている物、多種多様にあり、それが騒然と並んでいた。
文明が滅びる前は、立派な大通りだった道も、今は先程降った雨で、白のような赤のような色の死体やゴミ、血痕等の様々な物で穢れ、そこらじゅうにある弾痕は奇妙なアートを作り出し、鼻が捩れるような腐敗臭が漂っていた。
「さ~てと、質の良い死体は何処かな~♪」
鼻歌混じりに私は損傷の少ない死体を探す。
この世界では、損傷の少ない死体はかなり少ない、探すのも一苦労するくらいにね。
そう、死体だけなら腐るほどある・・・でも、私の研究のサンプルに出来るくらいの、損傷の少ない死体はやっぱり少ないの。
でも、無い物ねだりしても仕方ないし、本当に見つからない時は、損傷が酷くても持って変えるけどね。
「あ、あの死体とか良さそう? ・・・ あぁ駄目ね、腐敗が酷い。これじゃ使えないね」
その後も数時間くらい、廃ビルや大通りで、良質な死体を探すものの、結局、全部我慢しても、サンプルには到底できそうにないくらい、損傷が激しかった。
「はぁ~最悪・・・ 雨上がりしたばかりだし、調査隊は出てこないに決まってるし・・・・」
それから数時間、町の隅々まで(と言っても、歩いて探せる範囲内でだけど・・・)探し回ったけど、やっぱり見つからなかった。
「はぁ・・・帰りますか・・・」
私は、そう呟いて、真っ茶色な空を仰いだ。
やっぱり、今日も空は汚い色だった。
私の研究所は、その廃ビルにある。
正確には廃ビルの屋上にある。
そんなところに作った理由?
それは、奴等が群がれることが、無いからね。
「さてと・・・・ふぅー」
私は、幅跳びでもするかの様な体勢になり、全身の力を脚に廻す。
脚に血液が駆け巡る、ドルンドルンって暴れまくる・・・そして
「・・・・・・ヤアァ!!」
脚に溜まった力を爆発させる!
と同時に、地面にヒビが走り、私は空に跳んだ。
文字どおり、跳んだ。
弾丸のようなスピードで、私はビルの屋上を越え、空へ跳んだのさ。
私の眼下には、私の家でもある、研究所と、真っ黒な服装し、ガスマスクを装備した人達が・・・・うん?ガスマスクを装備した人達?
私そんな人達に心覚え・・・あるね。
あ、研究所の側にいた、一人がこっちを向いた。
で、装備している武器は・・・・・シャベリンかな?
ん?あれ、こっちをロックオンしてない?
・・・・シャベリンって、対人(?)に使うものじゃ・・・・
ボシュン!
そんな音と同時に、白い煙を巻き上げ、シャベリンが発射される。
・・・私に向かって・・・・。
・・・ヤバァイねこれ、避けれない。
ドッカァン!!
直撃、ブチリと身体の何処かが、引きちぎれた音がする。
爆発の衝撃に私は耐えれず、体勢は最悪の状態。
そのままビルの屋上へまっ逆さま・・・うん頭から落ちるね、これ。
グシャ!!
頭部が、脳の一部が潰れた。
時は数分前に遡る・・・
放射能に汚染され、白くなった雨がやみ、汚いピンクになった大地を、俺達が乗っているヘリが翔ぶ。
俺の名前はクラリス=マグナット少佐。
俺は俗に調査隊と、呼ばれる部隊『ベルベルク』に配属されている。
調査隊の役目は、地上に残った物質の回収や、地上が住める様になっているか、とか、地下都市の治安維持とか、そんな事を調べる部隊だ。
現在、俺達はその地上の最も危険な場所、超危険地域にいる。
この世界の地上は、俺達調査隊によって、三つの地域に分けられている。
まず一つは注意地域、普通ならグリーンゾーンは安心地域だろうが、地上に安心できる場所なんて、一つもない。
まあどっちにしろ、注意地域が『地上で、最も安全な場所』なんだけどよ。
事実、注意地域で『ゾンビを発見!』なんて報告、今のところ一度も聞いたことがないし。
次に危険地域。
ゾンビどもがまぁまぁいる、まぁまぁと言っても、大体俺の経験上、一つの区画に平均六千から八千かね、どっちにしろ、ここらから『民家人立ち入り禁止地域』になっている。
外出許可さえ貰えれば、自己責任でだか民家人でも、外に出られる。
これが俺達調査隊が、働かなきゃあならねぇ理由だ。
ん?なぜ民家人が外に出られるだぁ?
あぁ理由は簡単、地上が恋しいのよ・・・
俺も、地上に出てみたかったから、調査隊に入ったんだしな。
さて、今俺達がいるのは、調査隊の中でも、ある極秘任務を受けた者達じゃなければ、絶対に入っては行けない地域・・・・超危険地域。
ここにはある超危険人物がいる。
その人物の殺害、それが俺達の極秘任務。
その人物に関する情報は・・・・『超危険地域に暮らしている』と・・・・・『度を超えた化け物』ってことだけだ。
「おいション便垂れども!奴さんのアジトについたぜ、精々頑張って足掻きな。せめて、人体の破片くらい残しておいてくれよ!お前ら死んだら、親御さんに説明するとき、必要になっからよお!!」
そして時は現在に戻る・・・
「殺ったか!?」
潰れなかった右耳から、声が聴こえる、たぶんあの黒服・・・調査隊の奴等だね。
ううん、たぶんじゃない。
奴等だ、おかしいな~、雨上がって直ぐたし、もう日が暮れそうなのに、なんで超危険地域なんかにいるのかな~。
でも、出会い頭にシャベリンは酷いと思うよ、私だって一様女だよ(研究員だけど…)?
プレゼントしてほしいのは対戦車ミサイルじゃないよ……
オマケに、私の研究所に勝手に上がり込んでくれてまあ………
「キヒヒヒヒッ………死にたいのかしら?」
若干キレ気味で私は呟く。
視界の左側が見辛い、というか見えない。
さっきの地面にkissで、眼球も一緒に潰れたかな……
まあ良いや、どうせ目玉なんて取り替えれば良いしね…
自分で言うのもなんだけど、ゆっくりと、ゾンビの様に立ち上がる。
今自分の、顔は見えないけれど……多分かなり酷くグロテスクな状態だと思うよ。
だって、顔の左側から生暖かい紅色の液体と一緒に、何かブニブニした物が、垂れてきている感覚がするもの。
「う、うわあぁぁぁ!!化け物!!」
奴等の一人が叫ぶ……化け物って失礼ね、まあ自覚はしているけどさ。
「あれでも死なぬか………クソ!この悪魔め…」
「化け物の次は悪魔?ちょっと傷ついちゃうな~」
多分奴等の隊長と思わしき男が、ガスマスクで隠した顔で、こちらを睨んでいそうな声で喋ってきた。
「ところで……貴方達は、なんでワザワザこんな放射能まみれの雨上がり直後の、しかもゾンビが凶暴化し始める夕暮れに来たの?」
返ってきた回答は鉛弾の嵐。
当然、まあ来るだろうね。
あの事件以来、私は調査隊に喧嘩売ったみたいなものだし。
まあ銃弾なんて、私ならそうそう当たるものじゃないし。
銃弾ですら、アヘリによって強化された私にとってはゆっくりと、まるで亀のような速度に見える。
でもまあ、人体ダメージを考えたら避けるまでも無いんだけど……痛いの嫌じゃん?
「クソ! クソ! クソォ!! 当たれ、当たれよぉぉ!!」
「馬鹿野郎! 無駄弾射つな!」
おお、混乱してるしてる。
まあ普通に考えたら、銃弾避けるとか考えないし、混乱しても仕方ないのかな?
でも情けは掛けないよ、情けは人のためにならず!
うん、良い言葉だ!
と言うわけで、まず一人!
飛んで来る弾丸を、当たるスレスレで回避しつつ、取り合えず一番近くにいる乱射君に、ロケットのように加速し、一気に近づく。
私の脚力のせいか、コンクリートでできた屋上の床にヒビが、蜘蛛の巣の様に無数に走る。
滑る……と言うより、飛び込む様に、彼の腹下に潜り込み……
「ヒッ!」
有無も言わさず、アッパーカットを顎に叩き込む。
ボギャアァァァ!!
そんな音が彼の顎から、私の拳に伝わる。
う~ん、良い音。
めり込み具合いから、骨も砕けたかな?
取り合えず、まず一人は殺った。
次は・・あのシャベリン持ちかな?
「チッ、各員バラけるな、一点に集中しろ!バラけると殺られるぞ!」
お、分隊長かな?あのシャベリン兵。
ラッキー!あいつ殺ったら、分隊行動も制限出来るかも♪
直感的に総感じた私は足に力を込め、バネのように跳ねた。
ロケット発射時のような凄まじい速度で、分隊長らしき奴へ頭突きをする。
私の本気の踏み込みは特急列車に匹敵する、最大瞬間時速約三百キロで飛んでくる四十キロの物体を、生身の人間は止めれるかな? 答えは否。
止めれる訳がない!
頭部に強烈な衝撃とともに生暖かい紅い液体がフードにベッタリつく。
心臓部に直撃、これは即死かな?
「ぶ、分隊長ー!!」
「チクショウ!くるな、くるなぁぁ!!」
それぞれの奴の部下が、上司の死に驚愕と恐怖を覚える。
まあ当たり前か。
さてと……
「人の家に勝手に上がり込んだこと……死んで償ってもらうよ……キヒヒヒッ!!」
「くるなぁぁぁぁぁ!!」
血溜まりの中で、私は目が覚めた。
どうやら奴等を皆殺しにした後、疲れてそのまま寝ちゃったんだね。
記憶も少し思い出せない、いつものアヘリの副作用か。
少し体が痛い、堅いコンクリートの上で寝たからだね。
「ヘクチュン!…寒いな、家に入るかな」
空を見上げ、一人呟く。
空はもう真っ黒だった。