サンプルA プロローグ
とある研究所・・・
白一色だったであろうその部屋は、今は死体に満ち溢れていた。
壁にはベットリと血がこびりつき、廊下には、人間の物であったであろう臓器がころがっている。
そんな狂気じみた場所に、私はいた。
私は人類が嫌いだ、私は生きている物が嫌いだ、私は全ての生命が嫌いだ。
大っ嫌いだ、だって簡単に壊れてしまうから。
大っ嫌いだ、全部大嫌いだ。
だから私は人であることを捨て去る事ができた。
ああ、やっぱりこの躯はとっても素敵・・・!
どんなに暴れても壊れない、どれだけ時間がたって腐ってしまっても、パーツを付け替えるだけでずくに元どうり・・・
ああ素敵・・・でも物足りない、物足りないよ・・・
なんで?欲しいものは全部手に入れた、 お金も、地位も、名声も、研究所も、全部・・・
なんで?なんでなの?
わからない、なんで?
真っ赤な血の池で私は思考する、私が本当に欲しかった物って?
・・・ああ、そうか、私が本当に欲しかった物は・・・
「キヒッ!キヒヒヒヒッ!!わかちゃったぁ~キヒヒヒヒッ!!」
ああ!考えるだけでイっちゃいそうになる!!
そうよ!私が本当に欲しかった物は・・・
時が経ち、10年後・・・
25XX年・・・人類が地下に追いやられてからはや200年、私はのんびり、すっかり人気の無くなった研究所で一人、私の望むアレの開発に勤しんでいた。
この世界はすでに死んでいた。
人が自分達で破壊した。
人口の増加による食糧をめぐっての世界規模での戦争・・・世界各地で戦争が起こり、戦争終盤には核や父が造り出したウイルス兵器『アヘリ』まで持ち出した。
アヘリ・・・正式名は『A-09051』。
私の父が生み出した史上最悪のウイルス兵器・・・生き物だろうが無機物だろうが関係なく感染し、感染したものは適合していなければ俗に言うゾンビになる。
まあ、よくあるホラー映画のようなゾンビじゃあ無いけど・・・
そいつらとの相違点は、ノロマではないこと。
むしろ世界中のトップアスリートも涙目のスペックがある。
分かりやすく例えるなら、チータ並の速度を出せるね。
まず武装してない一般人は逃げられない。
だからこそわざと兵士に感染させて、食いぶち減らすついでに兵力強化しようとしたんでしょうけど、生憎彼等にはそんな脳ミソはなかった。
あっというまにバイオハザード発生。
どうやってかは知らないけど、海を渡って他の大陸にまで進行、人類は地下に隠れて今も飢餓に苦しんで暮らしている。
え?『お前も人だろ?』て?
いやいや、私は人じゃない。
私の躯は奴等寄りの造りなんだ。
『意味がわからない』て?
それじゃあ分かりやすく言ってあげるよ。
私は今、人々に『化け物』とか『殺人鬼』とか『狂研究者』とか言われている。
でもその全てが正しい解答。
私はある日を境に人であることを捨てた。
ある目的の為、私は人であることを捨てた。
私は、その目的達成のため、どきどき人体を回収している。
その目的ってやらも、後々語ってあげるね。
ん? おや? 研究サンプルが無くなっていたみたいだね。
仕方ないな~、採取してきますか。
私は壁に掛けてあったお気に入りの白衣を纏う、その内側に自作のメスを忍ばせる。
研究室を出て、玄関にむかう、ガチャガチャ! と研究所の錆び付いた扉を開け、私は外の景色を眺めた。
真っ茶色な空、真っ黒な海、真っ赤な大地に倒壊したビルの群れ。
向こうのビルの群れの手前にはちょっとした砂漠がある・・・砂が青色だけど。
この光景もすべてアヘリがもたらしたもの。
植物も人以外の動物も全て死に絶えた世界。
この景色こそ、愚かな人間どもが戦争で殺しあったその結果・・・
「さてと、今日はどの地下都市に殴り込もうかな?・・・・おや?あれは調査隊かな?」
私が思想を巡らせている時、ふと彼等が視界の端に映った。
普通の人なら到底見えなかったでしょう、まるで点のように見えるそれは、確かに彼等だと私にはわかった。
「キヒッ! 最高のタイミングで出てきてくれたわね~ キヒヒヒヒッ!!」
歓喜あまり、私は直ぐに研究所から飛び出した。
新品同様の白衣をはためかせて、自分で言うのも可笑しいくらいに、邪悪な笑みを浮かべてね・・・
「キヒッ! お遊戯の時間だよ・・・に~ん~げ~ん~さん!!」
ここは全部が死んだ世界、そこで私は暮らしている。
絶望の一部として死んでいる。
私の名前は『司=アプリコット』。
軟弱な人間が嫌いで、人間であることを捨てた女。
ああ、今日もまた私の為に人間達が血を流す。
私にとっての最高の一日がまた幕を上げた。