表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

トイレに行きたい

作者: watarionn


映画館で映画を見ている時、こう思ったことがある人は少なくないはずだ。

「トイレに行きたい」

と。


シャンデリアが吊るされているような豪華な映画館で私が見ている映画は、ミステリー映画で、探偵とその助手が旅先で事件に巻き込まれてそれを解決する、というよくあるパターンのものだ。容疑者は5人と少なく、仮にA,B,C,D,Eとすると、最初に疑われたのはAだ。ミステリー好きの私から言わせてもらうとAは咬ませ犬のようなもので、大抵の場合は犯人ではない。


とすると残りは4人だが、私の経験則と直感からして犯人は、Dだ。人間は窮地に立たされると思いもよらぬ力を発揮するらしい。脂汗をだらだら流している私だが、火事場の馬鹿力のように推理力が上がっているのかもしれない。一刻も早く画面の向こうの探偵に犯人を教えたい……残念ながら探偵はまだ捜査中でトリックにも気付いていないようだ。あの時限爆弾をああして、こうしてすれば助かるのに……ああなんとあの探偵はドジなものかとイライラする。


だがそれ以上に自分の膀胱がいつ大爆発するかと、今はそれだけが心配なのだ。せめて、犯人が確定するまでは……


少し我慢していると、クライマックスへ近づいてきた。ここまで来ると、名前を言われた容疑者はほぼ犯人と確定して間違いないだろう。


『Dさん……犯人はあんたとちゃいますか』


ほほう、今回は蝶ネクタイ型変声機の探偵ではなく大阪弁の褐色少年か……とまあ少し意表を突かれたところで席を立とうとしたところ、衝撃的な事実を思い出してしまった。私の席は真ん中の列の真ん中の席、つまりその部屋の中でど真ん中なのである。なぜこんなもっとも迷惑をかける席に座ってしまったのか、2時間ほど前の私を恨む。だが、今行かなければならない。今行かなければ更に迷惑をかけるだろう。そして、折角の名シーンをお漏らし大爆笑の一コマへと変貌させてしまう。姿勢を出来るだけ低くしつつ、こっそり静かに映画館を出た。






さっきから、隣の男が脂汗をだらだら垂らしながらぶつぶつと小言を呟いていた。犯人がDだとか、時限爆弾がどうとか、トリックが如何の斯うのとか。しかもトイレに行きたいのか知らないが、足をモゾモゾさせていやがる。まさか気づきやがったか。時限爆弾はすでに作動しているというのに……




トイレにたった男が映画館から出た数秒後、爆発音と共に部屋に吊るされてあったシャンデリアが勢いよく落下してきた。シャンデリアは部屋のど真ん中の席に落下した。怪我人はなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ