いわくつき物件 1
二十歳過ぎた頃。
当時お付き合いをしていた男性と同棲することになった。
彼と自分は十も年が離れていたが、この時代ではさほど驚くこともないだろう。
場所は都心にある下町漂うアパート。
道は狭く、体格の良かった彼は通るのも一苦労だった。
二階建ての木造アパートで住む部屋は二階の一番奥の突き当たり。
階段を昇る時の靴音の響きが忘れられない。
ドアを開けると玄関から続く少し広めのダイニングキッチン。
そこから和室が二つ。
どちらにも行ける造りになっていた。
もちろん、和室と和室は繋がっている。
一つの和室にはベッド、もう一つの和室にはカーペットをひき、リビングとして使っていた。
ある日、化粧台を購入して寝室として使っている和室に設置した。
だが、何故だかどうしてもその化粧台の前に座る動作をしたくはなかった。
なんとなくだが、後ろに気配がする。
当たり前だが鏡には自分以外何も映ってはいない。
勿体なく思いつつも、あまり使う事はなかった。
その日から、ベッドと化粧台のある和室に違和感が生まれた。
リビングにいると寝室から誰かが見ている気がする。
ふと振り向いても誰もいない。
この言い表せない奇妙な感覚を体験してからというもの、一人で居る時は、寝室が見えないように襖を閉めて過ごした。
後日、彼がひょんなことからカメラを持ち出してきた。
デジタルカメラではなく、今はもうあまり見かける事のないインスタントカメラだ。
何気なく二人の写真や部屋にある物をパシャパシャと撮り、無駄遣いをして写真屋へ持って行った。
数日後、出来上がりを楽しみにしていた私は写真屋へいそいそと出掛けた。
「こんにちは。出来てますか?」
「あ。…はいー。出来てますよー。
…ですが、何か映りが悪かったやつもあったみたいで…。
うまく印刷出来なかったものが二、三枚あるんですが、よろしいでしょうか?」
はて。
一体どんなものだろうか、と考えたが、別にそれくらいの枚数ならいいだろうと快く返事をした。
家に帰り、出来はどうだろうかと早速取り出してみた。
いつも通りの二人と日常生活に使われる品々。
何もかもが愛しく思えて、にやり顔を一人でしていた。
そろそろ見終わってしまう、という時にその写真は現れた。
「・・・なんだこれ・・・」
二つは真っ黒な写真。
そしてもう一つは真っ白な写真だった。
黒い方はどれだけ目を凝らしてみても映っているのかいないのかさえわからなかったが、もう一つの白い写真を見てみると、そこには風景のようなものが映っていた。
「山・・・?
・・・ひっ・・・」
雲の上とも何とも言えないような真っ白い風景に真っ白な富士山のような山が一つ。
右下の方には頭蓋骨が三つ四つ転がっていた。
こんなものは撮った記憶がない。撮れる訳がない。
最初から最後までこの部屋でしか使っていなかったのだから。
驚いた私は彼が仕事から帰ってくるなり駆け寄り、写真を見せた。
彼は、絶句していた。
何か知っている事があるのかと聞いてみたが何も知らないという。
一体この部屋には何があるのかと、二人で考えたが結局答えは見つからなかった。