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高速道路のフロントガラス

 著者である私は車の運転が大好きで、北は北海道、南は九州まで巡った過去があるのだが、その時に起こった不思議な体験を書こうと思う。


 それは夏の夜の出来事だった。首都高速道路から東名・名神・中国・山陽を通り九州へ入る予定で車を走らせた。東名高速は混むと予想をたてて出発したのは夜10時頃。私とT君、EさんとO君の4人で旅を始めた。最初のうちはかなりの遠出の旅にみんなわいわい騒いでいたのだがそれも午前0時を回ると途端に静かになって心地よく腹立たしい寝息が聞こえてきた。助手席に座ったT君は出発当日まで仕事だったのにもかかわらず、この席に座った奴は起きていなくちゃいけないんだと夜中の2時まで頑張ってくれていた。幸い自分は全くもって眠気とは無関係な体と頭だった為、一人の時間を楽しみながらアクセルを踏んだ。

 すると緑の看板が目に付いた。標識だ。名古屋SAの文字が見えてきた。

『もう少しで名古屋だ』と心弾ませながら標識から目を前に向けた。その瞬間、フロントガラス右端に手のようなものが映った。

「あれ?」

本当に一瞬の出来事で見たような見ないような感覚だった。つい口から飛び出したその一言でT君が目を覚ましてしまった。

「やべ、寝ちゃった。どうかした?」

「ああごめん。なんでもないんだ。」

その時は気のせいだと思って頭の隅へとしまい込んでしまった。


 順調に旅は進んでいたが、九州に入った頃から自分の体調に変化が起り始めた。止まらない寒気と吐き気と息苦しさに襲われた。もちろん風邪をひいた訳ではない。熱も出ていない。おかしい物を食べた記憶さえなかった。『これはおかしい』と感じたが、成す術がなかった。その状態を見かねたT君はある友人に私の事を話したという。T君は九州出身で地元が近く、たまたまその友人に会い事情を話したところ、その友人のそのまた友人にあたるWさんを連れて自分たちのいる場所まで来てくれるということなのだ。いつもならどちらかというとみんなで盛り上がるのが楽しいタイプの私は喜んで迎えるところなのだが、正直そんな余裕もなかった。

 30分程経っただろうか。みんなとT君の友人とそのまた友人Wさんが私の元へ来てくれた。するとWさんが挨拶もそこそこに驚いた表情でこう言った。

「あなたよくそれでここまで来れたわね」

言っている意味がよくわからなかった私は怪訝な顔をしてしまったに違いない。

Wさんが続けて言う。

「苦しいでしょう。

 それは女性があなたの首を絞めているからよ」

「へっ?」

どういうことなのかと説明をお願いした。

「あなた車でこの人をひいているわね。もちろん生きていない状態のこの女性を。普通の道路じゃなくって高速道路の上で。その時について来てしまったのね。目が合わなかったのが幸いとしか言いようのないくらい強い霊があなたについているの。そのせいであなたの体調がおかしくなってしまったのよ。」

思い返して心当たりがあると言えば、あの時の手?それくらいしか思いつかない。突然の告白と倒れそうな程酷い体調で何が何だかわからなくなっていた私は、はあと気のあるような無いような返事しか出来なかった。

 するとWさんはその女性の霊を取り除いてくれると言う。私はこの体力をどんどん奪われる状態から解放してくれるなら何でもよかった。それで無理だったなら、『そらそうだ、そんな事あるわけない』と自分にも理解させてあげられる。このWさんの申し出によろしくと返事をすると、近くの階段に座らされた。

「誰でもいいから白猫さんの手を握っててあげるか体を押さえててあげてくれる?」

とWさんがみんなに言うとT君が白い顔をして私の手をぎゅっと握ってくれた。ちょっと恥ずかしかったけれど助手席責任という形でT君なのだろうと考えるとちょっと悪い気持になった。そんな私をよそにWさんが一段上に座る。私の後ろだ。そして肩に手を置いて(かざして?今となってはもう覚えていないが)静かになった。

 その途端、どういうわけか私の体が凄い勢いでガタガタし出すのがわかった。それはもう操り人形のように。それを見たEさんとO君が加勢して体を押さえてくれるが全然収まらない。むしろ私がみんなを振り払ってしまいそうだった。恐怖という文字がこんなに鮮明に浮かぶのは久方振りだ。その時だった。頭の中でWさんであろう声が響いた。

「出て行きなさい!」

するとどうだろう。いつの間にか震えは収まり吐き気も気付けば止まっていた。頭はぼうっとしているがそれでも苦しさは消えていた。

「大丈夫?」

とWさんの声に振り返るとみんなも顔を青くして私を見つめていた。

「・・・はい。もう大丈夫です。本当にありがとうございました。」

「なかなか相手もあなたから離れてくれなくってね。すごい執念だったよ。自殺なさったみたいでね。波長の合ったあなたに憑いて来てしまったみたい。本当によく頑張ったね。」

「・・・本当にご迷惑お掛けしてすみませんでした。」

みんなも私たちのやり取りに一安心したのかほっとした顔を見せてくれた。


 初めての出来事で戸惑いを隠せなかったが今ではいい思い出になっている。これがきっかけでちょこちょこと厄介な事に巻き込まれたりもするのだが。

 その後、Wさんとは連絡先を交換して、次は友達として会おうと言い別れた。

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