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コトバ

作者: 茅羽はとり

ブラウン管の向こうに見るアイツは、いつも笑っていて、すごく遠くに思えた。



俺、神崎修平とアイツ、佐伯由菜が出会ったのは、記憶にも残っていない昔のこと。

21年前、俺が1才で、アイツがまだ生まれてまもない赤ん坊のときだったと聞いている。

お互い親に捨てられ、養護施設である佐伯学園に置き去りにされていた。

親がどんな奴で、どんな理由で施設に置いたのかなんて知らないし、知りたいと思ったこともない。

そんなこと知らなくても、俺は幸せだったから。

母親がわりである園長は親以上の愛情をそそいでくれていたし、学園にいるやつみんなと血のつながり以上の絆で結ばれていた。


そして、由菜がいた。


由菜はおとなしく、いつも本を読んでいるのが好きな子供だった。あまり人と話すのが上手くなくて、声も小さい。そんなアイツは何故かいつも俺の後ろをくっついてまわっていた。

振り向くといつも由菜はいた。

ヒヨコのようについてくる由菜を俺は妹のようにかわいく思い、いつしか俺が由菜を守るんだという正義感を強く持っていた。


そして年月がたち、俺が中1で由菜が小6の秋、由菜が皆の目をぬすんで手紙を読んでいるのを目撃した。由菜の少し困って、でも顔をほんのり赤くしている顔を見てすぐにあれが男からの手紙だと気付いた。

そのとき、俺はあの手紙をビリビリに破きたい衝動にかられた。

しかし、実際そんなことをするわけがなく、何も言えずに黙ってその場を去った。


次の日、帰宅部である俺はまっすぐ学園に帰ろうとしていると、前に由菜の姿があった。鞄を持っているということは今、学校から帰るところなんだろう。

「由菜!今帰りか?」

俺が後ろから声を掛けると、安心した笑顔を見せ、由菜はうなずいた。中学生と小学生が帰りが一緒になるなんてめったにないので聞いてみると、前髪をかきわけながら、委員会の仕事で遅くなったと言う。

俺はそれが嘘だとすぐに分かった。

なんでかって、由菜は嘘をつくときに前髪をかきわける癖をもっているから。それは俺が由菜を見守っていた時間のあらわれだった。由菜が言いたいこと、思っていることはなんとなく分かる。だから分かってしまう。帰りが遅くなった理由が男に呼び出されたからだと。

俺はそのことで由菜を問い詰めようかとも思ったがやめた。手紙を破けなかったのと一緒で、由菜を怖がらせたくなかったから。

由菜は、俺の知っている由菜はおとなしく優しく、かよわい俺のかわいい妹だった。

だから俺はそのまま、由菜の歩行に合わせながらたわいもない話をしながら帰った。


由菜を怖がらせたくない、本当にそれだけか・・・?


そんな声が聞こえた気もしたが、俺は聞こえなかったことにした。



そして、あっというまに半年がたち、由菜は中学校にあがった。もちろん俺と同じところで俺は少なからず安堵した。だって、これで俺は由菜を見守り守ることができるから。


中学の制服を着た由菜は今までとは少し違って見えた。かわいいことにはかわりなかったが、今までの妹のようなかわいさとは違うように俺には見えた。なんとなく直視しづらく学校に行く道のり、横目で由菜を見た。

俺の肩より少し低い身長、真っ黒でストレートなきれいな髪、大きな目に長いまつげ。

いつのまにか由菜は俺の知らない少女になっていた。


登校している他の生徒が由菜を振り返って見るほど由菜は注目されていた。理由は簡単、由菜がきれいだから。

他の人間が由菜を好意の目で見るのが気持ち悪くて仕方なかった。

(見るな、見るな、見るな!!)

俺の醜い感情は嫉妬心だ。

由菜を見られたくない。

それは兄としてなんかじゃなく、ただの男として。


俺は由菜が好きなんだ・・・。


由菜はそんな俺の気持ちなんて知らずに今まで通り俺の後ろをヒヨコのように着いてきた。

そしてあの日、俺は由菜に言った。

「由菜、お前ずっと俺の後ろにいるつもりか?」

そう俺が言うと由菜はとれも悲しそうな、不安そうな顔をした。だから俺は慌てて言葉を足した。

「かんちがいするなよ、俺は別にお前が後ろにいたってかまわないんだぞ。けど、それじゃぁ、お前の世界が広がらないだろ?俺の後ろから覗き込んでみる世界なんて小さすぎる、もっと自分の世界を広げるべきだ。」

きれいごとだった。

まったくそう思わなかったわけではないが、別にずっと由菜に後ろにいてよかったし、由菜が自分の世界なんて作らなくてもよかった。でも、このままずっと由菜が後ろにいることで、俺から離れないことで、いつか由菜をズタズタにして壊すような気がして・・・。

あのとき破りたかった手紙のように由菜をビリビリに傷つけるような気がした。

だからきれいごとを言って由菜を遠ざけたかった。

由菜は少し驚いた顔を見せ、小さな声で俺に聞いた。

「でも・・・、どうやったら世界は広がるの・・・?」

俺は安堵の笑みをうかべ、芸能事務所のオーディション記事を見せた。

今考えても突飛だったと思う。俺は由菜にオーディション記事を見せる前に、勝手に応募していた。

受からなくても、芸能事務所のオーディションを受けたことで、まわりの人間が少し由菜を別格に思うように、簡単に近づかないようにという俺の幼稚な策略だった。


でも、由菜は本当に事務所に受かった。


そして1年後には事務所の用意したマンションに引っ越していった。


俺の策略は見事に成功した。誰も間単に由菜に近づけない、そう誰も、俺さえも。



由菜が自分の世界を広げている間、俺は中学卒業と同時にある家の養子に入った。それが神崎家。佐伯学園に多額の寄付をしている老夫婦で、昔死んだ息子に少し似ているとかで俺を引き取ってくれた。



俺たちは全く別のセカイで生きた。



学園を出た最初のほうは由菜もこまめに連絡をいれ、帰ってきたりもしたが、年々回数が減った。

携帯番号だって知ってるし、メアドだって知ってる。でも、それを活用することはなかった。

由菜はどんどん売れ、テレビをつければいつでも見れた。

そしていつも笑っていた。


「策士、策におぼれる・・・か。」

自嘲気味に笑いながら、それでも遠くに感じても由菜が笑っていることは嬉しかった。


でも、由菜の笑顔は突然曇った。

ゴシップ記事。

芸能人なら仕方ないことだと思う。現に由菜は曇ってはいるが笑っている。噂なんてすぐに下火になる。

でも、ゴシップ記事は続いた。記者のインタビューに答える由菜は前髪を掻き分けながら笑って言う。

「全然きにしてません。」

と。

嘘だと気づいても俺は何もしてやれなかった。連絡をすることも出来なかった。


そして由菜は仕事をほとんどなくし、最後には今人気が出てるタレントに掴み掛かり、テレビから姿を消した。


掴み掛かられたタレントはどんどん売れたが、俺には由菜を真似ているようにしか見えなかった。

「なんで、こんな風にわかっちゃうんだろうな・・・。」

こんなに離れて会ってもいないのに・・・。

由菜はこのタレントにはめられたんだと。


由菜の姿を見ることなく1年近くが過ぎた。

俺は何度か連絡をするべきかとも悩んだが、俺の言葉が由菜に影響を与えられるなんて思わなかったし、芸能界へ強引に入れた俺が何を言ったらいいのかもわからないのでやめた。


俺の言葉が届けばいいのに・・・



週末、俺はいつものように園長に頼まれた1週間分の食料を買いに駅にある大型スーパーに車でやってきた。

あらかた頼まれた食料を買い、車に荷物を詰め込んで学園に戻ろうと車を発進させた。

スピードも出さずにのんびり運手していると、ふと駅の改札前に目をやった。そこにはぽつんと置き去りにされたかのようにたたずむ女性がいた。

人はいっぱいいいるのに俺にはその女性だけが浮き彫りに見えた。

一瞬目をうたがったし、まさかとも思ったが俺が見間違えるはずなんてなかった。俺は急いで駅近くに車を止め、改札前まで走った。そしてアイツはいた。

「由菜?」

俺は慎重に声をかけた。由菜は振り返り、驚いた表情を見せ俺の名前をつぶやいた。

「久しぶりだな!こっちに来ること園長には言ってあるのか?」

俺の質問に由菜は無言で首を振った。由菜は顔を上げようとせず、うつむいて何かに怯えているようだった。

よく見えないが表情は暗く、やつれて見えた。

まったくしゃべらず俺を見ようとしない由菜にしびれをきらし、少し強引だが顎を持ち上げこっちを見させた。

「お前、痩せたんじゃないか?」

俺がそう聞くと由菜はほっとした顔を見せ涙を流した。

由菜の涙の意味がなんとなく分かってしまい、俺はたいした言葉もかけれずに車にうながし、そのまま由菜の意見も聞かず学園に向かった。

道中、俺は由菜の仕事のことに触れず今の俺の現状や学園を出たみんながどうしているかなどを話した。由菜は何も言わずただそれを聞いてきた。


このとき俺はどこかで期待した。由菜はここに帰ってくるんじゃないかと。

そう思うと自然と笑顔になった。


学園に着くと由菜は車を降り呆然と学園を見ていた。

入りづらいのだろうと思い、俺は由菜の肩に腕をまわし学園の扉を開けた。

「先生!由菜が来た。」

中に入り俺は大きな声を出し中に呼びかけた。すると中からバタバタと子供たちがでてきた。

「由菜ねーちゃんだ!!修平も!」

「修平兄さんだろ?」

いつものように俺を呼び捨てにする章に注意するが、章はそれを無視し由菜に駆け寄った。

「由菜ねーちゃん、おれのこと覚えてる?」

由菜は無言で首を縦に振った。

他の子たちもみんな由菜に覚えてるかどうかを質問する。由菜は黙っては首を縦に振り続けた。

しばらくし、由菜は決心を決めたように顔を上げた。その目線の先には章たちよりはだいぶ年上の中高生組がいた。

「お帰り、由菜姉。」

代表として太一が由菜に笑顔を見せて言うと、由菜は泣きそうな顔を見せた。

そして、優しくみんなを諭す園長の声が聞こえた。

「あらあら、みんなそんなに取り囲んだら由菜ちゃんがゆっくりできないでしょ?」

「せん・・せ」

声をふりしぼるように由菜が言うと、久しぶりね、と言って園長は笑顔を見せ、由菜と俺にお茶をいれるからと言い、キッチンのほうへうながした。


「ここまで遠かったでしょ?修君には連絡してたの?」

園長の質問に由菜は首を横に振った。声がうまく出せないのだろうと思い、俺は駅で見かけて連れてきたと話した。

「修君はあいかわらず強引ね。」

笑いながら園長が言う。

「由菜ちゃんが芸能界に入ったのも修君の強引がきっかけだったものね。」

「その言い方、なんかせめてない?」


冗談めいて顔を膨らませてみたりもするが、本当はそのことを俺は気にしていた。俺が、俺のわがままが由菜をつらい世界に入れてしまった。

「由菜ちゃんにオーディションの記事を見せたかと思うと、もう勝手に申し込みしてたんだもの、強引じゃないかしら?」

園長の言うことは正しい。俺はどんな顔をしていいかわからず顔をそむけた。すると章が大声を出した。

「あっ!由菜ねーちゃん笑った!!」

「ちゃんと笑えるじゃん」

理由は分からないが由菜の笑った顔が見れ、うれしくなった俺は、由菜の頭をぐしゃぐしゃにした。すると園長がやさしく笑顔で由菜に言った。

「由菜ちゃん、疲れたり、少し寄り道をしたくなったらいつでも戻ってらっしゃい。ここはあなたの家で、みんなは家族なんだから。ただ顔をみせてくれるだけでも大歓迎だけど。」

園長の言葉は俺の期待を膨らませていた。

あんな世界に戻らないでずっとここにいればいい。ここでは由菜を傷つけるものなんて何もないんだから。

きっと由菜もそう思っている、俺はそう確信していた。

でも、そうじゃなかった。

由菜は次の日、園長にあの世界に戻ると告げた。


俺は何を言っていいかわからず、とりあえず駅まで送ることにした。


車中、昨日とは違って由菜はよく話した。いろいろふっきれたのだろう。でも俺は笑って話したがどこか上の空だった。

駅が近づき、由菜はまっすぐ前を見て強いまなざしで言った。

「私ね、深夜の仕事やローカル番組の仕事うけてみよと思う。ずっとね、プライドが許さなかったの、かわいそうな私におなさけでくれる仕事なんて!!って。」

俺は黙って由菜の話を聞くしかなかった。

「でも、昨日修平に会って、みんなの顔を見てみんなは本当に私を心配してくれてるんだって。仕事もね、そうかな?って。かわいそうだからじゃなくて、本当に私を番組に出したいから仕事をくれたんだって。だからね、仕事うけようって。今からだと遅いかもだけど・・・。」

俺は何を言っていいのかわからず、気になっていたことを聞いた。

「由菜、俺がお前にしたことってお前に負担かけたんじゃないか?」

それは懺悔に近かった。

「俺がさ、強引に事務所のオーディションに応募したから、お前は過酷でつらい世界に入ってさ・・・。今回のことも・・・。」

俺のちっぽけな独占欲で、俺は由菜にひどい世界を見せた。

「違うよ、私あの事務所のオーディションのとき自己紹介も満足にできなかったの。でも、動機をきかれたときちゃんとはっきりいえたんだよね『自分の世界をひろげたいんです!』って。修平が私に言ってくれた言葉。」

確かにそんなことを言った。でも、それは俺の醜い独占欲を隠すため。自分のために言った言葉、由菜のためなんかじゃなく。

俺が後悔に押しつぶされそうになっている間も由菜は話しを続けた。

「確かにつらいことだってきついことだっていっぱいあるよ。でも、世界は広いから。修平の後ろから見る世界は安全だけどやっぱり狭いもん。私は修平に感謝してる。ありがとう。」

俺は由菜を見れなかった。

俺は勘違いをしていた。

由菜はいつのまにか自分の世界を見つけ歩いていた。とっくにヒヨコなんかじゃなかった。

ヒヨコなのは俺だ。いつまでも由菜と言う世界しか見ていない俺のほう。


俺の言葉はちゃんと届いてた。

ただ、それは俺が、由菜に届けた俺自身が意味を理解していなかった。ただそれだけのこと。


駅に着き車から降りて俺は由菜の頭をなで、がんばれっと言った。それは精一杯の俺の強がりだ。ヒヨコを見送るという上からの目線。

「先生も言ってたけど、いつでも戻って来いよ。それと、俺ら家族はなにがあってもお前の味方だからな。」

園長の言葉を復唱するしか出来ない俺、言ってて情けなくなる。

由菜は笑顔でうなずき、いってきますと言って自分の世界に戻っていった。


俺が出来るのはただそれを見ることだけ。


いつか、言葉を届けることを夢見て・・・・。


これは、「セカイ」の外伝(?)みたいなものです。


修平のキャラが気に入ったから、かっこよく書こうと思ったら情けないやら、かわいそうやら・・・。

いったいなんでこんなことになったのか、自分でもよくわかんないや(笑)

こう言った、違う人の目線で同じ話ってかいたことないからどう書いていいかよくわかんなかったです。


もともと「セカイ」を書いたときには「コトバ」を書くつもりなかったから矛盾点だらけ(苦笑) 徐々になおすんであまりつっこまないで下さい・・・


ちなみにこの話はSound Schedule の「ことばさがし」がイメージ曲です。ちなみにイメージする曲があるのも初めてです。


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