殿下の好きな「芯の強い女性」になろうとしたら、なぜか物理的に強くなりました
シリーズ2作目のお話です。
今作だけでも読めますので、こちらからでもお気軽にどうぞ。
もし気に入っていただけましたら、1作目もお読みいただけましたら幸いです。
わたくしの名前はリディア・フォン・アルヴェール。アルヴェール公爵家の令嬢だ。
学園に上がる前の年少貴族が集まるサロンで、令嬢たちの話が聞こえてきた。
「アレクシス殿下って、芯の強い女性がお好きなんですって」
「まあ、そうなの! 私も芯の強い女性になったら未来の王妃様になれるかしら?」
ただの噂話かもしれないが、もし本当だった場合、殿下と婚約したいわたくしにとっては捨ておけない情報だった。
多分、順当に行けば、公爵令嬢であるわたくしが殿下の婚約者になる可能性はかなり高い。
けれど、殿下にも仕方なく婚約してほしくはないわ。ここはなんとしても殿下の好みの女性にならないと。
……ところで、芯の強い女性とは?
あまりイメージが湧かないわね。ここは身近な人生の先輩に聞いてみましょう。
******
わたくしは屋敷の者に「芯の強い女性とは?」を聞いて回ることにした。
家庭教師に尋ねると――
「家庭内で意見が対立した際、感情的にならず、淡々と争点整理をして解決できる方ですわ」
――なるほど……。先生、家庭内で何があったんですの?
侍女長に尋ねると――
「他人の煌びやかなマウント話を聞いても『あら素敵ね』と軽く受け流し、自分の趣味を楽しめるお方です」
――他人の華々しい姿と自分の日常を比べないで楽しく過ごす……重要なことですわ。
お抱えの仕立屋に尋ねると――
「頼んでもいないのに『君にはこういうのは似合わないよ』と上から目線で意味不明な口出しをしてくる相手に、『不要な発言をなさるお連れ様は、あちらでお待ち下さいませ』と最高の笑顔で言えることでしょうか」
――最高の笑顔がとびきり最高ですわね。覚えておきますわ。
メイドに尋ねると――
「『君のためを思って言っている』と言われても、鵜呑みにしないことです。『君は何もできないから、僕が全部決めてあげる』も危険ですわ」
――なにやら不穏な匂いがするわ。でも、ちゃんと逃げ出せたのならよかったですわ。
皆さん、色々乗り越えていらっしゃるのね……。参考になりましたわ。
でも、どうやったらそんな風になれるのかしら?
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そこで、お母様に聞いてみた。
「要はメンタルが強いってことじゃないの? メンタルの強さは、体力の多さや、肉体的な強さからも来ると思うわ」
……なるほどですわ。
「そうね、とりあえず対峙する相手を制圧できるくらい強かったらいいんじゃないかしら?」
…………確かにそうですわ!
とりあえず自分の方が強いとなったら、どっしり構えられそうだわ。
「とてもしっくり来ましたわ! お母様、ありがとうございます。早速お父様に相談してみますわ」
そうとなったら、強くなるための先生をつけてもらわないと。
「我が娘ながら行動が早いわね。まあ、お父様にも尋ねてからね? いってらっしゃいな」
お母様に言われ、わたくしはお父様の書斎へ向かった。
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「お父様、芯の強い女性ってどういう人だと思いますの?」
「ふむ。お母様はなんだって?」
「端的に言うと『力』だと」
「お母様らしいなぁ……」
そう言いながら、お父様は少し嬉しそうに笑った。
「だが、私は少し違う答えを出そうかな。芯の強さの根っこにあるのは、知性だと思うよ」
「知性……ですの?」
「簡単に言えば、物事や状況を正しく判断する力のことだね。勉強ができることとは少し違うんだ」
なるほど、お勉強するだけではダメなのですのね……。
「どうすれば身につきますの?」
「誰かに何か言われたとして、『これって本当にそうなのか?』と立ち止まって考える。そうすることで養われていくと思う」
ふむ。そう言われると、人の言っていることをそのまま受け取ることも多い気がするわ。これは一朝一夕では身につきそうにないわね。
「それを繰り返して、自分で判断できるようになるのですね」
「ああ。それが、他人に何を言われても簡単には揺らがない『芯』になる」
「知識を得て、自分で考えて、判断する……。でも、お父様、なんだか少しイメージが湧きづらいですわ」
「そうかい? 例えば以前、お母様に『今日の私、どこが変わったか分かる?』と聞かれたことがあってね」
「……ごく普通の会話のように思えますが」
「そうだろう? だがここで知性の出番だよ。私は瞬時に『返答を間違えれば家庭内不和が起きる』と状況を正しく判断し、この会話に全力で取り組んだんだ」
「……そんなことあります?」
お父様は深く頷いた。
「昨日のお母様を思い出して、髪型、化粧、ネイル、アクセサリーを観察したが、分からなかった。ここで適当な嘘をつくのは最悪の手だと分析し、最終的に『分からないな。でも、ちゃんと気づいて褒めたいから教えてくれるかい?』と答えるのが最高の選択だと判断したんだ」
「素直にお聞きになったのですか?」
「ああ。そうしたらお母様は『あら、正直者ね! 実際は何も変えてなかったのよ。あなたが適当なことを言わないから試したの』と言ったんだ。恐ろしいだろう? 『状況を分析し、最適解を選ぶ』――これこそが知性を発揮した見事な例じゃないか!」
とても勝ち誇っているお父様。
夫婦生活って、本当に大変ですのね。
「……お父様、それは知性というより生存戦略ではありませんの?」
「ははは。生存戦略を成功させるためにこそ、知性が必要なのさ」
ふむ。お母様の言う『力』と、お父様の言う『知性』。
考えるための頭と、考えたことを実行するための力……両方あったほうがよさそうですわね。
だって、正しく判断したところで、相手が聞く耳を持たなかったら、結局殴って解決することもあるでしょうし。
「……お父様、貴重なお話をありがとうございます! では早速ですが……」
とりあえず、物理的に強くなるための先生をつけてもらうことをお願いした。
お父様は、
『そっちからかぁ。まあ、知性は先生をつけてもらう感じでもないしね……リディアはお母様似だものね』
とブツブツ言いながらも了承してくれた。
******
そこからは、地道で必死な特訓の日々だった。
未来の王妃になるための勉学にも励み、専門的な分野についても、屋敷に勤めている有識者に尋ねながら知識を増やしていった。何事も「立ち止まって考える」のを忘れないようにした。
それから、体力づくり。とりあえず庭を走ることにした。
あとはストレッチと軽い筋力トレーニング。あまり腕や脚が太くならないように鍛えようと最初は思っていたけれど、だんだん太いのもいい気がしてきたわ。
また、習うならなるべく実践的な技がいいと思い、目の前の相手を制圧することだけに特化した技を覚えるべく、外国の先生に師事し始めた。
時に山に籠もったり、領地の視察に同行しては「この土地で一番強い人を教えてください」と聞き回り、猟師、騎士、鍛冶職人、酒場の用心棒にも弟子入りを申し込んだ。
毎日が充実しすぎていて、そもそもなんで強くなろうとしていたのか、目的をすっかり忘れかけていた。
……
………
……………
そうだわ。殿下に選んでもらうために、こんなに頑張っていたんだわ……。
でも……なんだか、もし選ばれなかったとしても、それはそれでいいかと思える自分がいる。今のわたくしには、なんだか無限の可能性がある気がするから。
******
久しぶりにサロンへ顔を出したわたくしは、殿下の姿を探した。
いた。殿下は相変わらず格好よくて、なんだかほんのり輝いて見えた。
……よかった。殿下を好きな気持ちが消えてなくて、本当に安心したわ。
殿下がわたくしを見つけて、話しかけに来てくれた。ちょっと嬉しいわ。
「リディア。最近あまりサロンで見かけなかったけど、何かあったのかい?」
「ふふ、秘密ですわ。仕上がりを楽しみにしていてくださいね」
「……リディアに秘密にされて良かったことはあまりないんだけどな。一応、覚悟だけはしておくよ」
……殿下はなんだか遠い目をしているわ。
そのとき、近くの令嬢たちの声が聞こえた。
「リディア様って、前よりずっと頼りになりそうね」
「ええ。何があっても動じなさそう」
「隣にいてくれたら安心ね」
「でも……」
「ええ」
「敵には回したくないわ」
「絶対に」
まあ。
どうやら特訓の成果は、ちゃんと出ているようね。評価の方向性が少し気になるような気もするけれど。
…………
考えすぎはよくないわね。もう少し様子を見ることにしましょう。




