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散紙占(さんしうら)の子

作者: 水井田のう
掲載日:2026/06/14

彼女の名前は、祖父が 散紙占 *で選んだもの.

占いの結果の名は、彼女にとってつらい少女時代を。

そんな彼女の祈りからか、素晴らしい人生に・・・。


*:候補の名前を書いた沢山の紙を撒き、中央に一番近い紙に書かれた名を選ぶ)

漁師の家に生まれた彼女の名前は、祖父が 散紙占 で選んだものだった。

「海で生きる者は、運を天に返すんだ」

祖父はそう言って、潮風に焼けた目を細めた。


父は日焼けした両手で、名前の候補を書いた紙を天井へ届くほど高く放った。

紙片は海鳥の羽ばたきのように舞い、静かな部屋に影を落としながら降りていく。

その中心に落ちた一枚には、祖母の柔らかな筆跡で、ひとつの花の名が記されていた。


梅。

冬の寒さに耐え、誰よりも早く春を告げる花。


しかし幼い彼女にとって、その名は誇りよりも重荷だった。

友達は宝石のような名前や、外国の響きを持つ名前ばかり。

「梅干し!」

そう呼ばれるたび、胸の奥がしぼむように痛んだ。


ある日、家族と通っていた神社で、彼女はそっと願った。

「強くなりたい。見返したい」

その瞬間、靴紐がふっとほどけた。

結び直すと、足の奥から熱が湧き上がるようだった。


それからの彼女は、風を追うのではなく、風そのものになった。

運動会では必ず一位。

中学、高校、そして インターハイ。

やがて 世界陸上 の舞台へと駆け上がった。


「梅」という名が世界に響き渡る頃、

スケートでは「桜」、体操では「菊」、水泳では「桃」――

一文字の花の名を持つ選手たちが次々と現れた。

アイドル界にも「梅」という名でデビューする少女が現れた。


そして、梅が世界陸上を制した翌年。

全国の出生届で、女の子の名前ランキング一位は「梅」。

トップテンのほとんどが、花の一文字だった。


同窓会の日。

かつて彼女を「梅干し」と呼んだ同級生が、

少し照れたように笑って言った。


「うちの子、梅をつけさせてもらった。

あんたみたいに、折れない子になってほしくて」


その言葉は、潮風のように胸にしみた。

あの日、祖父が撒いた紙片のひとひらが、

長い時間をかけて、ようやく彼女の心に着地したようだった。


帰り道、ふと空を見上げる。

風が吹き、木の葉がひらりと舞った。

まるで、あの日の紙片がもう一度、空から降りてきたかのように。


「おじいちゃん、ありがとう」


その声は、海の匂いをまといながら、静かに空へ溶けていった。



彼女の願いが神に届いたのか、彼女の努力がそうさせたのか。

折れない、最後までやりきることは、はやり大切なことだ。

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