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モンスタートレイン

 救難信号。

 冒険者がアプリを通じて周囲へ助けを求める、最後の手段だ。


「まずは偵察いってくるね」


 朝日はドローンを操り、ポイントへ移動。

 数秒後、映像を見た彼女の顔色が変わった。


「……モンスタートレイン。ブルーベアと、フロアボスの“トレント”まで混ざってる!」


 ドローン映像では、風切り音と男たちの悲鳴がマイク越しに拾われる。

 画面の端では、巨大な影が地面を揺らしながら迫っていた。


『事故ったか?』


『逃げながら増やしたパターンね』


『これ、故意だよ』


『“最強ブラザーズ”だろ。放置でいいよ』


『どういうこと?』


『企画やってんだよ。“モンスタートレインで戦ってみた!”ってやつ』


『またこの手合いかよ』


『で、手に負えなくなって救難信号?』


『トレントが想定外だったらしい』


『はい迷惑系確定』


『よし、スルーしよう』


 影山はしばらく黙っていたが、やがて首を横に振った。


「……助けに行きます」


『知ってた』


『二キ、優しすぎんだろ』


『前もこんなことあったよな』


『救助対象が毎回迷惑系なの笑う』


『可愛い女の子なら頑張れるのにね』


『最強ブラザーズとか1ミリも利益にならん』


『むしろ助けたら罰ゲーム説』


「二キさん、今回は本当に危ないよ。三人とも無事だけど、戦う気ゼロ。モンスターは五体。ひとりで相手するのは……」


 朝日の声は震えていた。

 だが影山の意志は揺らがない。むしろ、静かに燃えていた。


「俺、前の仕事は会社員で……毎日“チー牛くん”って呼ばれてました。そこの会社との専属契約勧誘の面談でも、言われました」


『え』


『急に重いのきた』


『協会に言ったか、それ? 出禁にしよう』


『態度悪いところあるって噂、あるよね』


『チー牛ってまだ使うやついるのかよ。不快すぎ』


「ブラックな企業でした。会社行って、帰って寝るだけ。そんな日々を支えてくれたのが……推しのダンジョン配信でした」


 朝日が息をのむ。


(私が……二キさんの支えだったの……?)


「推しは夢を諦めて引退して、今は探索者を支える仕事をしてます。だから今度は、俺が推しを支えられるような配信者になりたいんです」


『そういうことか……』


『推しの夢を継ぐ男、熱すぎる』


『これは応援したくなるやつ』


『すごく一途で推せるけど、ガチ恋勢の私、涙』


「無茶をした方が伸びる。だから、挑みます。モンスタートレインに」


『いや毎回無茶してるけどな』


『でも気持ちはわかる。推しに見せたいんだろ』


「そんな感じです。行ってきます」


 影山は駆け出した。

 言葉ではなく、行動で朝日に感謝を伝えるために。

 なにせ思いを口にするのは、苦手だ。


(二キさん……)


 胸が締めつけられる。

 自分は夢を諦めた。

 でも、その夢が誰かの背中を押していた。

 そして今、その誰かが自分の前で輝こうとしている。

 嫉妬もある。

 どうして自分には才能がなかったのか。

 でも、それ以上に——伝えたいことがあった。


「二キさん!」


 影山は走り続ける。

 ドローンでその背中を追いかける映像が、朝日の視界を揺らす。


「……危なくなったら、絶対に逃げて。がんばらなくていいから!」


「うん。ありがとう」


 丘を駆け上がる。

 風が強くなり、土の匂いが鼻を刺す。

 影山の足元で小石が跳ね、斜面を転がり落ちていく。

 視界が開けた瞬間——。

 土煙を上げて逃げる三人の男。

 その背後を、五体のモンスターが地響きを立てて追っていた。

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