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01「最悪な宣告」

 ここはセンブリア王国の古都デレアーー


 古い街並みの中にその店はあった。

 道具屋『ラングリア』ーー


 店の店主は女性で名を"アリーナ"と言う。

 アリーナは母を早くに亡くし、父と二人三脚でラングリアを切り盛りしてきた苦労人。


 残念ながら、共に苦労してきた父も病気のため数年前に亡くなっている。アリーナは父から店を引き継ぎ、女だてらにラングリアを支えている。


「アリーナ、この商品は良く売れるからもっと発注した方が良いかな?」

「そうね、グレン。いつもの二割増しで発注しておいてくれるかしら」


 そんなアリーナを影で支えていたのが、夫のグレンだった。グレンは元々店の丁稚でアリーナとも子供の頃からの付き合いだった。


 二人は自然と惹かれ合い結婚。店を共に切り盛りしていく事を誓ったのだ。側から見ても仲の良い夫婦。ただ残念なのは、未だ子宝に恵まれていないという事だ。


「グレン、今日はどうかしら……?」


 夜、夕飯を食べた後にグレンを誘ったアリーナ。そろそろ子供が欲しい。三十歳を迎えたアリーナにとって、そう思うのは自然な事だった。


「ごめんアリーナ。今日は発注先の親父さんと飲む約束をしてて……この埋め合わせは必ずするから!」


 そんな事を言って家を出るグレン。

 最近同じような事が多々ある。


(最近多くない? 確かに付き合いも大事だけど、私との関係を後回しにするほど? もしかして……いえ、グレンはそんな事しない)


 袖にされる事が続き、さすがのアリーナも色々と勘繰ってしまっていた。


 ただ、優しくて臆病な夫が、不倫などという不貞に手を染める筈はない。アリーナはそう信じていた。


 だが、裏切りとは突然やって来るものだ。


「あら、どうしたのミレナ?」


 数週間後。グレンが発注先へ注文に出かけていた所へ来訪者が現れる。三軒隣に暮らしていた幼馴染のミレナだ。

 

「アリーナ。折言って話があるの」


 なにやら深刻そうな顔のミレナに、なんだか嫌な予感がしたアリーナだったが、幼馴染を無碍にも出来ず話を聞く事に。


 店には準備中の看板を立て、アリーナは自宅として使用している二階へとミレナを通した。


「紅茶で良いかしら?」

「あ、うん。ありがとう」


 アリーナは紅茶が好きだった。香ばしい茶葉の香りを嗅いでいると、どこか心が落ち着く気がする。


「ごめんアリーナ、レモンを垂らしてくれるかしら」

「あら? ミレナ酸っぱいのは苦手じゃなかった?」


「そうなんだけど、最近欲しくなるのよね」

「そう……分かったわ」


 嫌な予感が水と共に沸々と沸いてくる。

 何故わざわざ来たのか、それもグレンが留守の時を狙って。


 ただ、古くからの付き合いだった幼馴染を疑いたくない。アリーナは強張る顔をひとしきり揉んでからテーブルへ着いた。


「それで? 話ってなにかしら」

「実はね……」


 アリーナはテーブルの下で震える手をなんとか治めようと必死だった。


(お願いだから最悪の事態にはならないでっ)


 そう必死に祈りながら。

 だが、運命とは残酷だ。

 

 いくら祈りを捧げようと、歯車は止まらない。


「私、グレンとの赤ちゃんが出来たみたいなの」


 パリンッ。


 アリーナの持ったティーカップが床へと落ちて砕ける。それは、仲の良かった夫婦を切り裂く暗示のようにも思えた。

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