番外編:伝説となった聖女
森を抜け、王都への道は長く、冷たい秋風が吹き抜けた。
私は静かに、リリアの遺体を抱えて歩いた。
体は軽く、しかしその存在の重みは、胸の奥にずっしりと圧し掛かる。
森の木々が揺れるたび、落ち葉が足元を舞う。
朝の光が霧に溶け、遠くの山々を柔らかく染めていた。
誰も言葉を交わすことはなかった。
私の歩みを支えるのは、リリアの重さと、自分の心の中に渦巻く静かな悲しみだけだった。
思い返す。焚き火の夜の笑顔、病を救ったあの日、限られた命で人々のために尽くした日々――
すべてが、胸の中で光となって強く輝いていた。
王都に着くと、衛兵たちは黙って道を開けた。
宮殿の門を潜り、広間へと進む。
私の腕の中のリリアはもう動かず、微かな温もりすら消えていた。
それでも、その静けさが、何よりも強い光を放っているように思えた。
玉座の前で、国王アーサーに膝をつく。
深く頭を下げ、言葉を選びながら報告した。
「陛下……リリア様は……すでに、天に召されました」
国王は静かに頷く。
その瞳に、私の言葉以上の問いが浮かぶのを、私は感じ取った。
「そして……陛下、リリア様は、この国の一集落で、医者も手をつけられなかった病を救われました。
命を削りながらも、最後まで人々のために尽くされたのです」
王宮の空気が、一瞬だけ重く、そして静まり返る。
私の声は平静を装っていたが、胸の奥は深く締めつけられた。
リリアの命は失われた。しかし、彼女の生きた証は、ここに確かに残っている――。
国王は深く息をつき、静かに言葉を紡いだ。
「……リリア……。よくやったな。
王国に伝説として名を残すにふさわしい聖女だ」
その言葉に、私は小さく頷く。
王都の広間を流れる空気は、重厚で威厳があるが、同時に温かさも帯びていた。
リリアの行いを讃える人々の声が、遠くで聞こえるような気がした。
私の視線は、抱えた彼女の姿に向けられる。
無言のまま、でも確かに伝わる祈りと希望の光。
リリアはもう動かない。
けれど、その命が削られた瞬間から、彼女の存在は永遠の光として、この王国に残ったのだ。
その日、リリアの名は「伝説の聖女」として、人々の記憶に刻まれた。
そして私は、彼女の意志を胸に、静かに誓った。
「……リリア様、その光を、この国に、ずっと、遺してみせます」
王都の広間に、静かな余韻が満ちる。
秋の光が差し込み、落ち葉の色と影が揺れる。
リリアの伝説は、確かにこの世界に刻まれたのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
番外編では、亡くなったリリアをアイクが王国に運び、医者も手をつけられなかった病を救った功績を国王に伝える描写を通して、リリアが伝説の聖女として名を遺すまでを描きました。
命の短さを知りながらも、人々のために生きた彼女の光は、永遠に王国の人々の心に残ります。




