表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

第6話 永遠の祈りーー光の消える日

森を抜け、王都を遠く望む丘の上。

 秋の風は冷たく、乾いた葉を巻き上げて遠くへ運ぶ。

 空は高く澄み、遠くの山々が金色の光をまとって揺れている。

 しかしその美しさは、リリアにとってどこか遠く、届かぬ夢のように思えた。


 彼女は地面に横たわっていた。

 力がほとんど出ず、杖も手から滑り落ち、膝も立たない。

 体を支えることさえ難しく、ただ、横たわったまま静かに空を見上げるしかなかった。

 聖紋の光はほとんど消えかけ、かすかな脈動だけが残っている。


 傍らにアイクが膝をつき、彼女を支えている。

 無愛想な表情のまま、しかしその灰青の瞳は、普段の冷静さを失い、揺れていた。

「リリア様……無理はなさらないでください。今は、ただ……休んでいてください」

 声は低く、でも丁寧で、震えるような温度が混ざっている。


 リリアは微かに笑い、手を伸ばしてアイクの手に触れた。

「……アイク、ありがとう……ずっと、傍にいてくれて……」

 声は弱く、かすれたが、それでも心からの感謝を含んでいた。

 風が二人を包み、落ち葉の香りと遠くの川のせせらぎが混ざる。

 静かで、暖かく、永遠のような時間が流れた。


 リリアの瞳に、これまでの旅が走馬灯のように蘇る。

 王都での祈りの日々、少年を救った森の村、焚き火の夜――

 すべてが胸を締めつけ、でも同時に温かい光を残していた。


「……私、やっぱり……生きた証を残せたと思います」

 声はかすかだが、揺れることなく、彼女の決意を伝えていた。

「誰かのために生きられたこと……それだけで、意味があったんです」


 アイクは握った手に力を込め、唇を噛む。

「……リリア様……」


 沈黙の中、空は深紅から藍に変わり、星が一つずつ顔を出す。

 柔らかな夜風が髪を揺らし、森の奥から虫の声と遠くの小川のせせらぎが届く。

 まるで世界が二人だけのために静かに呼吸しているかのようだった。


「アイク……」

「はい、リリア様」

「……覚えていてくださいね……私のこと……」

「もちろんです……」

「……そして……」

 リリアはかすかに息を吐き、微笑む。

 「……また、会えたら……私は……あなたを……」


 言葉はそこで途切れ、体から力が抜け、目を閉じる。

 アイクはすぐに体を抱き寄せ、顔をそっと額に近づける。

「……リリア様……どうか……安らかに……」


 その瞬間、森の風が少し強くなり、遠くの山々が淡い光に包まれた。

 葉が舞い、川のせせらぎが歌のように響く。

 そして、消えかけていた聖紋が最後に淡く光を放ち、静かに消えた。


 リリアは安らかな表情で、長い旅を終えた。

 その瞳の奥には、恐れも後悔もなく、満ち足りた光が残っていた。


 アイクは静かに涙を流す。

 無言のまま、ただ彼女の手を握り、胸に抱き続ける。

 森の夜が深まる中、二人の間に漂う静けさは、悲しみを超えて――

 生きた証と永遠の祈りを包み込む、温かい光のようだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

第6話では、リリアが力を失い、ついに最後の時を迎える場面を描きました。

彼女の命は尽きますが、誰かのために生きた日々は確かに光となり、カイルの心に永遠に刻まれました。


余命一年の聖女の物語は、ここで終わります。

けれど、彼女が残した光と祈りは、読む人の心に静かに残ることを願っています。

終わりと先程言いましたが番外編があります。番外編でこの物語が本当の意味で終わります。最後までお付き合いよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ