断罪イベント365ー第49回 月刊黒幕ラボ 創刊
こは王都の片隅にある、白壁のサロン《ラボ棟・紅茶室》。
構成と情緒を操る黒幕たちが、今日も紅茶の香りの中で静かに動いている――。
王都の静かな通り沿い。
一見すると優雅な白壁のサロン。
その名は――
《月刊黒幕ラボ 編集部》
壁一面に貼られた構成ボードと感情グラフ。
棚には涙の瓶と紅茶缶。
窓辺には、風の動きを読む“カーテン式感情アンテナ”。
今日もラボ棟には、個性的な構成メンバーが集っていた。
「――アリステア、換気お願い。さっきから空気が重いわ」
クラリーチェ・フォン・ルフェーブル。通称クラリ嬢。
紅茶と構成で命を繋ぐ、情熱と理論の融合体である。
「了解。風属性、全開ね」
風の魔法師アリステアが窓辺に立ち、魔術陣を指先で描く。
空気が一気に流れ込み、カーテンがふわりと揺れる。
「やっぱり換気すると、感情の流れも変わるねぇ」
地下の暗い部屋から、感情解析師フィオナの声が届く。
彼女は“地下室リモート勤務”というスタイルを貫いている。
「Wi-Fiの流れも良好。感情ログ、更新されたわ」
通信が切れるたびにフィオナの感情も乱れるのが最近の悩みだ。
「その感情ログ、どこまで信用できるのかしら……」
苦笑しながら呟くのは、文法魔術師ルシル。
彼女の校正ペンは今日も鋭く、セリフの句読点一つで涙を誘う。
(ちなみに、昨日は「、」の位置を変えただけで二名を泣かせたらしい)
そんな中、メイドBが紅茶を運びながら冷静に告げた。
「創刊号の記念品、届いてます」
彼女の手には、小さなガラス瓶。
《涙ポーション》
一滴で泣ける。使いすぎ注意。
「……完成したのね」
クラリ嬢は満足げに微笑み、小瓶をそっと掲げた。
「これで“泣かない王子”も泣かせられるかしら?」
「泣かないのは、脳内フィルターが強すぎるんじゃない?」
と、フィオナが分析する。
「セリフで揺さぶるのも良いけど、演出も欲しいわね」
アリステアが言って、天井に風を送り込んだ。
「じゃあ、今ここでテストしてみましょうか」
クラリ嬢がそう言うと、メイドBは湯気の立つティーカップに一滴だけ、ポーションを垂らした。
ふわりと香る、カモミールとラベンダー。
次の瞬間――
「あ、涙が……!?これ、香りでも誘導する仕様!?」
ルシルが思わず目を拭った。
「感情揺らぎ、成功です」
フィオナのログにも“うるっと”の記録が残された。
「……いいわね」
クラリ嬢は紅茶を一口くちにする。
「これで、“涙を設計する時代”の幕開けよ」
読んで頂き、ありがとうございますm(_ _)m




