椅子に座って、コーヒーを飲む
「……じゃあ、座らせてもらう……な?」
そう言った自分の声が、やけに部屋の中に響いた。
シトリは、小さく肩を震わせながら、こくんと頷いた。
頬を赤く染め、視線を伏せている。
両手は膝の上でぎゅっと握られ、指先が白くなっているのが見えた。
細い肩が小さく上下していて、微かに息が上ずっているのが分かる。
俺は、そっとコーヒーのカップをテーブルの上に置いて、ゆっくりとシトリの正面に向き直った。
「じゃあ──座るぞ。」
「……はい……。」
深呼吸。
覚悟を決めて、腰を下ろす。
ふわりと、シトリの柔らかい太ももの感触が、俺の腰に伝わった。
座面の硬さなんてものはなくて、ただ、人肌の温もりがそこにあった。
座ると同時に、シトリの身体が小さくビクリと震えるのが分かった。
「ふぁっ……!」
小さく漏れる、シトリの声。
それは驚きと、戸惑いと、少しの嬉しさが混ざったような、不思議な響きだった。
「だ、大丈夫か?」
「は、はい……だい、だいじょうぶです……! その……少し、ドキドキしてますけど……」
背筋をピンと伸ばし、恥ずかしそうに視線を逸らしながら、シトリは小さな声で答えた。
俺が腰をずらすたびに、彼女の太ももがわずかに沈み、
そのたびに「んっ……!」と小さな息が漏れるのが、なんとも落ち着かない。
──これが俺の、椅子だったものか。
思わずコーヒーに視線を移すと、テーブルの上で湯気がゆらゆらと立ち上っていた。
とりあえず、これ以上考えるのはやめだ。
今は落ち着こう。
そう言い聞かせて、カップを手に取り、一口含む。
コクのある苦味が、舌の上で広がった。
「……美味い。」
心から漏れた一言に、
後ろのシトリが「……よかった……」と小さな声で呟くのが聞こえた。
……いや、落ち着かない。
全然落ち着かない。
けど、コーヒーは確かに美味しいし、座り心地も悪くない。
「…………。」
無理やり心を落ち着けようと、ゆっくりとコーヒーを飲み進める俺。
でも、背中に感じるシトリの温もりと、ほんのり震える気配が、どうしても気になってしまう。
そして何より、椅子に座るたびに「んっ……」とか「ふぅ……」とか、微かに反応が漏れるのは、なんなんだ。
それがいちいち耳に残って、余計に変な気持ちになる。
「……これは、どう考えても普通じゃないだろ。」
そう思ったとき、
ふと視線の端で、リブリアとネム、そしてクッカが、こちらをじっと見つめているのに気づいた。
リブリアは少し頬を赤らめて視線を逸らし、
ネムは布団の上でにこにこ笑いながら、「楽しそうだね、ご主人様~」と呟き、
クッカは手を胸元で組んで、ほんのり笑顔を見せていた。
──いやいやいや、これは夢じゃなくて、現実なんだろ?
俺は、静かにコーヒーを飲み干し、ため息をついた。
まだ朝は始まったばかりだというのに、もう何度目のため息だろうか。