おはよう、家具たち
朝、目が覚めた。
カーテンの隙間から差し込む光がまぶしくて、思わず顔をしかめる。
寝起きの頭はぼんやりしていて、昨日の出来事はただの悪い夢か、疲れからくる幻覚だったんじゃないかと、そんなふうに思った。
「はあ……」
重い体を起こし、寝癖のついた髪を手でぐしゃぐしゃとかき乱しながら、伸びをする。
テーブルの上には、昨夜買ってきたままのコンビニ弁当の袋。
畳んでいない布団。
何も変わらない、普通の俺の部屋──のはずだった。
「……ん?」
何かが視界の端に入った。
座布団の上に──小さく膝を抱えて座る、見覚えのある金髪の少女。
その背後には、おっとり微笑むエプロン姿の子が立っていて、
その横には腕を組んで目を伏せるクールな子が立っている。
隣では、ふわふわと寝ぼけ眼の女の子が体を伸ばしていた。
──夢じゃ、なかった。
全身から冷たい汗がにじみ出る。
「……お、おはようございます、ご主人様……」
金髪の少女が、おそるおそる声をかけてきた。
小さな手を胸の前でぎゅっと握りしめて、頬を少し赤らめながら。
「えっと……その、みんなで自己紹介、したほうが……いいのかな、って……」
周りの少女たちも、小さくうなずき合っている。
「……う、うん。たしかに、それは……お願いしたい……」
混乱しつつも、俺はなんとか声を絞り出した。
金髪の少女が、小さな手で胸元を押さえ、深呼吸をしてから──
静かに、口を開いた。
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家具娘たちの自己紹介
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「わ、私……シトリっていいます……」
「ご主人様が座る、あの……椅子の精霊……です……」
小さな声で、顔を真っ赤にしながら言う彼女。
視線が合うと、膝の上で指をもじもじと絡め、恥ずかしそうに身を縮める。
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「私はリブリア。本棚の精霊です。」
冷たい声色で、落ち着いた佇まいの少女。
スッと背筋を伸ばし、胸の前で手を組んで俺を見る瞳は知的で鋭い。
「ご主人様の大切な本を……お守りするのが、私の役目です。……あまり、乱暴に触らないでくださいね?」
少しだけ、頬を赤くして、目を伏せる。
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「お、おはようございますっ! 私はネムっていいますっ!」
伸びをしながら元気な声を上げる少女。
「ご主人様のベッドです! 毎晩、一緒に……えへへ……」
言いながら、恥ずかしそうに顔を隠してしまう。
その姿は、どこか子犬みたいで可愛らしい。
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「私はクッカ。キッチンの精霊ですの。」
台所の前に立つ、落ち着いた雰囲気のお姉さんタイプ。
エプロン姿で、優しい笑顔を向けてくる。
「お料理やお片付け、何でもお任せくださいね。……でも、火の加減には気をつけてくださいね? 熱くなると、つい……反応しちゃうので……」
言いながら、頬をそっと撫でて、少し赤らめる。
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「み、みんな、以上ですっ!」
シトリが、恥ずかしそうに手を挙げて締めくくった。
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俺は、その光景をただ呆然と見つめていた。
現実感なんてあるはずがない。
でも、目の前にいる彼女たちは、確かに息をして、鼓動を響かせ、恥ずかしそうに笑い、そして──俺を見つめていた。
「…………」
何がどうなっているのか、分からない。
でも、ひとつだけ分かることがある。
──これからの俺の生活は、今まで通りにはいかない、ということだ。