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2話 反撃開始


それは、巨大な「城」だった。空に浮かぶ島のように、ゆっくりと滑空するその要塞の名は《オメガ》。街一つが丸ごと収まるほどのスケールを誇り、11ある超大企業のひとつ、《ガーラヴ社》の象徴である。

そのオメガに、たったひとつの影が突入する。


「……この命、どうせ消えるなら、何かの証明に使いたいんだ」


《ヴァルティス、起動。……君はそれでも、まだ“戦う”と?》


「誰も……俺は守れなかった。でも、今だけは違う。だったら攻める……やるしかないだろ」


《起動確認。AIコントロール50%、各モード正常。……外部通信遮断、戦闘モード移行完了》


機体ヴァルティスは、シオン・ハートランドが駆る試作高性能機体。企業間の諍いが日常と化したこの世界で、カースト上位を目指すための切り札だった。

その初陣こそ、要塞オメガへの単機強襲任務。


同時刻。オメガの中枢、司令管制室。円形のホログラムが浮かぶ中央で、ひとりの男が指を組んでいた。


「単機で来るとは……まったく、アスピラント(ルーキー)のやりそうな自己アピールだな。滑稽だよ」


オメガ最高司令官――カルヴォ・ヘッド。軍籍出身の冷徹な統制者は、侵入してきた小さな影をあくまで“見世物”として眺めていた。


「オートマタの第一波で十分だ。見せてやれ、現実というものを」


機体ヴァルティスは、シオン・ハートランドが駆る試作高性能機体。企業間の諍いが日常と化したこの世界で、カースト上位を目指すための切り札だった。

その初陣こそ、要塞オメガへの単機強襲任務。


敵戦力は、オートマタ千機超、ノヴァ二百機。さらにはあの“三重エネルギーシールド”。


「トール。あの鉄くずども……全部、俺の過去みたいに蹴散らしてやる」


《敵機接近、正面オートマタ12機、上空ノヴァ型2体。迎撃プログラム起動》


ブレードが閃き、迫るオートマタを瞬時に切断していく。

ノヴァの粒子砲が斜め上から襲いかかるが、機体をくるりと捻ってその一撃を紙一重で回避。


「お前らみたいな無感情な兵器の方が、よっぽど幸せだよ……俺は、もう……何も感じたくないんだ」


爆音と閃光のなか、彼はひとつひとつの敵を確実に仕留めながら、まっすぐに進む。


「敵オートマタ、撃墜……だと?」


ホログラムに映る戦況に、カルヴォの眉がわずかに動いた。だが、まだ余裕の笑みを浮かべていた。


「ふん、多少はやるようだ。だが、所詮は“機体頼り”の若造。すぐに手詰まりになる」


「問題は、三重のエネルギーシールドだな」


「そうだ。貴様のような若造に、あの盾が超えられるものか……」


《正攻法での突破率、0.004%。ただし、砲撃時に生じる“照準用開口”を利用すれば、理論上通過は可能》


「何……!? 開口のタイミングを読んで突入……!?」


「……タイミングを合わせるぞ、トール」


《ターゲット照準ポートNo.13、開放まで5秒。進行ルート最短経路、提示。行ける》


ベナトールの背部スラスターが、紫電を撒き散らして爆発的に加速した。


「撃てっ! 今すぐ撃てええッ!!」


カルヴォの指示が遅れる。すでに照準ポートから突入していた。


シオンはベナトールの機体を縦に捻り、エネルギーブレードを前に突き出す形で射線へ滑り込んだ。

空間が歪む。身を焼くような圧力の中を、ただ一直線に抜ける――!


《第1層、通過成功。第2層干渉空間へ。時間差スラスターバースト、3、2、1……ッ!》


第二層は粒子干渉の霧のような領域。通常の推進では進めない。

だが、トールの計算したタイミングでヴァルティスの足元から逆反応スラスターが点火。


ズン、と音のない衝撃と共に、粒子層が割れた。

第三層に突入――しかし、ここはエネルギーを跳ね返す反射領域。


「第二層も……突破!? バカな、粒子領域で推進可能なわけが――」


《この層は、通れない。が――“反射”を逆に利用する》


「反射を……“斬った”!? 馬鹿な、そんなことが――」


第三層の反射バリアが、まるで紙のように断ち切られるのを見たその時、司令官の背に冷たい汗が流れる。


《内部構造マップ、未取得。だがコア位置、反応源から推定可能》


「止めろ……内部に侵入させるな! ノヴァ全機、配置変更ッ!」


すでに遅かった。


「……みんな俺に背を向けた。でもこのコアだけは、絶対に逃げないだろ」


内部ではオートマタの精鋭が迎撃に回っていた。

が――それすら、シオンにとっては障害ではなかった。


進路上に現れる敵は、斬撃と爆音の中で次々と燃え落ちる。


「コアが……コアが視認された!? なぜ、あの位置がわかる……ッ!?」


――そして辿り着く、巨大な球体。


それが、《オメガ》の心臓部――コアだった。


「誰か……誰か止めろッ! こんな……あり得ない、これは茶番だ!」


「俺のことなんて、誰も覚えてなくていい。ただ……爪痕だけ、残す」


放たれた閃光がコアを貫く。

振動、閃光、音、熱――そして、全てが崩れた。


《コア破壊確認。オメガ、停止。全機能、ダウン》


「……なんだと……? 我々が……我が《ガーラヴ社》が……この俺が、単機に……?」


静かに、要塞が崩れ落ちる。


その中心でただ一人、少年が残っていた。

世界の目が、そこに注がれる。


その目が見ていたのは、希望か、絶望か。

――それとも、新たな“支配者”の誕生だった。



◇◇◇



ノースヘイム本社――、その最上層に位置する《社会議室》。

カーストランキングの改訂が公式に発表される、年に数度しか行われない重要会議の場だ。


「……第38位、グラディエーター枠にて新規ランクイン」


静寂を割る女の声が響いた。


「ノースヘイム所属。コードネーム――《レクイエム》。本名、シオン・ハートランド」


会議室に設けられた円形ホロスクリーンが、一斉に少年の映像を映し出す。

あの《オメガ》をたった一機で破壊した伝説的戦闘記録。世界中に衝撃を与えたその光景が、今ここに正式な“評価”として刻まれた。


「……やった……!」


低く漏れた声に、他の重役たちも頷き合う。

ノースヘイム社にとって、これは快挙だった。


「これでうちのカーストランカーは三人目だ。十分すぎる戦力だぞ」


「しかもあの《ベナトール》を擁してる。戦力バランスが大きく動く」


映し出された解説文には、以下のように記されていた。


――通名レクイエム。その実力は未だ未知数。

AIジュティキウム・ベナトールへの適合は果たしたが、実績は少なく、AI性能に依存しているのではという懸念もある。

また、パイロットの若さによる不安要素が指摘されている。


「評価自体は抑え気味だな……」


「だが問題じゃない。《ベナトール》が我が社にある、それだけで他社に対する抑止力になる」


そこへ、円卓の一角に立つ一人の女が進み出る。

冷静かつ隙のないスーツに身を包み、鋭い瞳を持つその姿は、今やノースヘイム社を支える戦略責任者――セナ・ユキシロだった。


「……次の工程を」


短い言葉が投げられた瞬間、重役たちの視線が一斉に彼女へと集まる。


セナは一息おいて、言い放った。


「グラディエーター1名、フロントライン1名。11企業の中でも、特に評価の高い《ビーク・アブー社》に対し、“入れ替え戦”を申し込みます」


ざわっ、と空気が揺れた。


「入れ替え戦だと……? いくらなんでも早すぎる!」


「グラディエーターに上がったばかりの若造に、フロントライン枠を狙わせる気か!?」


「――無謀すぎる。しかも入れ替え戦は実戦と変わらん。死人が出る」


重役たちは一斉に反対の声を上げた。

だが、セナはまるで揺るがない。


「ビーク・アブー社は必ず応じます。なぜなら――」


彼女はモニターを指し示す。


「宣伝になります。《ベナトール》を倒せば、企業価値は跳ね上がる。しかもパイロットは未成年。勝てると踏むはずです」


「……挑戦する側は、先方のいくつかの要求も飲まなければならんのだぞ」


「問題ありません。私は確信しています」


静かな声で、しかし確実に――セナは告げた。


「――負ける可能性は、0%です」


誰も言葉を返せなかった。

そして――


「……いいだろう。正式に、入れ替え戦の申請を」


「この戦いで、我々は“次の枠”を取りに行く」


会議室に、静かな拍手が鳴り響く。

一人の少年が、世界の枠組みに爪を立てようとしていた。



更新遅くてすみません。

そして早くも第2部 ブックマークいただきました!!

やる気めっちゃ出てます!

今後もお付き合いよろしくお願いします。

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