1話 カーストランキング
室内は重苦しい沈黙に包まれていた。
会議机の奥、巨大なスクリーンには《ベナトール》の戦闘映像が映し出されている。
重役たちの表情は一様に硬い。
その中のひとりが口を開く。
「……これで《ベナトール》の存在が全世界に認識された。もはや後戻りはできない。」
隣に座る人物が小さく頷く。
「ここからは“奪う”側に回る。我々はこの世界の覇権を取りに行く。」
会議の空気がさらに冷たくなる中、白衣を着た女性・セナが静かに立ち上がる。
「パイロットをお連れしました。」
ドアが開き、黒の制服をまとった一人の少年――シオンが入室。
その姿を見て、重役のひとりが驚いたように呟く。
「これが……?」
シオンの顔には表情がない。
アカデミーでの戦い、仲間の死。心の傷は深く、癒えることもない。
彼の中で、何かが崩れかけていた。
会議室の一角に座るスーツの男が、静かに説明を始める。
「君の任務は明確だ。早急にカーストランカー上位入りを果たし、ノースヘイム社の名を世界に刻むこと。」
「世界に“実力”と“象徴”を与える。それが《ベナトール》であり、君自身だ。」
シオンは少しだけ間をおいて、低く答える。
「……はい。」
無機質なその声に、数名の重役が不安を漏らす。
「あれで本当に戦えるのか……?」
セナは迷いなく答える。
「問題ありません。すべて、計画通りに進んでいます。」
一人が皮肉を込めて笑いながら問う。
「なら、“あれ”を落としてみせろ。」
部屋の空気が凍る。
“あれ”とは――ガーラブ社が誇る、移動型大型要塞。
過去50年間、傷一つついたことのない鉄壁の兵機であり、企業戦争の象徴。
「……単機で、ですか?」
「いくらなんでも早すぎる!」
複数の重役が反発の声を上げる。
だが、セナは揺るがない。
「見ていてください。」
静かな一言。
その眼には確信しかなかった。
最後に、会議室の中央で黙っていた重役が口を開く。
「――よろしい。まずは、結果を残せ。」
会議が静かに終了する。
冷えきった空気の中、運命の歯車は音もなく回り始めていた。
セナの白衣が翻る音だけが静かに響く廊下。
その後ろを、無言のまま歩くシオンの足音が続く。
「“オメガ”を落とせば、世界は動く。あなたはもう、ただの少年じゃない。」
彼女の言葉に、シオンは何も答えない。
ただまっすぐ前を見据えて歩き続ける。
遠くで起動音が響く。機体ヴァルティスの整備が進む音だ。
無数のケーブルが光を放ち、格納庫全体がうねるように活性化していく。
その光景を見ながら、セナは小さく呟いた。
「君がどこまで壊れるか。私も興味があるの。」
シオンの眼差しは冷たく、どこまでも静かだった。
それは、希望を捨てた者の目ではない。
――それは、すでに「覚悟」を決めた者の目。
次に沈むのは、伝説と呼ばれた《オメガ》。
その瞬間、世界は確かに変わる。
戦争は、始まりの段階を終えた。
ここからは、“支配する者”たちの戦いである。
◇◇◇
カーストランキング
【最下層|非正規階級】
■ トレーニー(アカデミー生/成績不振者)
・人数:6000名以上(ピラミッドの土台)
・待遇:無給(衣食住のみ保証)
・特徴:最下位は文字通り底辺扱い
【下層|見習い階級】
■ アスピラント(シオンの現在位置)
・定員:約120名
・状況:無給だが上昇の可能性
・特記:上位10%のみ昇格チャンス
【下位層|基盤階級】
■ グラディエーター(正式ランカー認定)
・定員:28名
・特権:給与制開始・一定の自由獲得
・覚悟:降格の恐怖と常に隣り合わせ
【中流層|一般階級】
■ フロントライン(自信が確立される領域)
・定員:約16~20名
・特徴:毎戦が生死を分ける過酷ゾーン
・心理:絶対的自信の芽生え始め
【上位層|エリート階級】
■ フューリー(次期ウォーロード候補)
・定員:東西各1名
・特徴:自信→確信へ変わる転換期
・課題:壁を超えられるか
■ ヴァンガード(待機する強者)
・定員:東西各1名
・戦略:ウォーロードの失脚を待つ
・本質:選ばれし者たちの待合室
【最上位層|支配階級】
■ ウォーロード(準支配者)
・定員:2~4名
・実力:エンペラーと遜色なし
・リスク:3連敗で階級転落の危機
・宿命:常にエンペラーを狙う
■ エンペラー(絶対王者)
・定員:1~2名(神格化された存在)
・特権:無制限の権力と資源
・真実:不在時はウォーロードが頂点に
▼見える本質▼
1. 上昇の厳しさ
- 6000人→28人まで:99.53%脱落
- 28人→頂点まで:さらに99%淘汰
2. 心理的進化
- 最下層:生存競争
- 中流層:自信形成
- 上位層:確信への転換
3. 待遇の断絶
- 底辺:生活保障のみ
- 頂点:完全なる自由
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
説明長いですがご了承ください。
次回も宜しくお願いします。