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第二部 ディメンション・ノヴァ 『境界の果てにて』  作者: 酒本 ナルシー。


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9話 抑止力


【アブロート社本会議室】報復の胎動


重厚な木製の長テーブルに、11人の幹部たちが沈黙のまま座していた。室内にはぴんと張りつめた緊張と、抑えきれない怒りの波動が漂っている。


「……スコッチを失った今、カーストランキングの最上層に対する信用が揺らぎ始めている」


一人の幹部が静かに語った。年老いた声には、抑制された怒りが滲んでいた。


「LAWSシステムも奪われた。機密の中でも最も厳重に管理されていた筈のものをだ」


「問題は、ノースヘイム社がこの事実を一切公表していないことだ。奴らは“協力演習中の事故”と記録し、こちらにも事実の公表を求めてこなかった」


「つまり、“やった”という自覚がある。だが同時に、“認めていない”。

この静けさは……我々に対する挑発そのものと見ていい」


低く重い声が会議室を支配する。


「情報が外部に流れていないことが、唯一の救いだが……このまま黙っている訳にはいかない」


「だが、我々が報復を選べば全面衝突は避けられないぞ。ノースヘイム社は強大だ。カーストにおいても、企業力においても……」


「――だからこそ、ここで黙れば、“牙を折られた犬”と見なされる。

我々が今ここで毅然と立たなければ、他の十企業もいずれ牙を剥く」


言葉が止まった瞬間、議長席に座る重鎮がゆっくりと口を開いた。


「……我々アブロート社は、今後一切ノースヘイム社との提携を破棄する。

加えて、あらゆる外交・技術交流を凍結、準戦時体制へと移行する」


静まり返る室内に、議長の言葉が鋭く突き刺さる。


「これは、宣戦布告と捉えられても構わぬ。やられたまま黙っているようでは、カーストランカーを背負う資格などない。

……決議を取る。反対者は?」


誰一人、手を挙げなかった。


「可決。――これより、報復の計画に入る」


静かな怒りが、やがて確実な破壊へと姿を変えようとしていた。



【ノースヘイム社 中央会議室】


「抑止力強化計画・第二段階」


黒曜石のように艶めく大理石の会議卓を囲むのは、ノースヘイム社の実権を握る重役陣十数名。スーツの襟元には、それぞれノースヘイムの家紋が小さく輝いていた。室内は冷気すら感じさせる静寂に包まれている。


その中心に立つのは、白衣姿のセナ・アルマノワ。どこか医師めいたその装いは、実験的な冷酷さを象徴しているようでもあった。


「……計画は予定通り進行しています」


抑揚のない、しかし一切の揺らぎもない声が会議室に響いた。


「LAWSシステムの確保に成功。ベナトールの演算処理により、完全解析は時間の問題。アブロート社の軍事技術は、我々の掌中にあります」


重役の一人が眉をわずかに動かす。「問題はスコッチの“消失”がどう扱われるかだ」


「既に調整済みです。現時点で情報の流出はありません。アブロート社も内政の混乱を避けるため、沈黙を選んでいます」


セナは一歩前へ出て、モニターに次の作戦図を表示する。


「――次のステージに移行します」


画面に浮かび上がるのは、赤くマークされたアブロート社の前線基地、そしてその右下に示された名――ノエル・アンジュ。


「目標は、シオン・ハートランドのランク10位以上への引き上げ。

次に、ノエル・シュヴァルツを新たなカーストランカーに昇格させ、我が社の前線運用枠を一つ拡大します」


ざわ、と空気が動いた。別の重役が問う。「ノエルの投入は早計では? 現段階では試験運用段階に過ぎないと聞いていたが」


「適性は確認済み。AI連携数値も前提を超えています。

今回の作戦ではノエルを主軸とし、シオンにはサポートに回ってもらいます。

ターゲットはアブロート社の前線拠点。現地戦力を撃破し、拠点そのものを制圧。

この戦果をもって、ノエルのランキング入りを正式に提出します」


別の重役が深くうなずいた。「“抑止力”としての二枚看板か。なるほど、戦力バランスが大きく変わるな」


セナは静かに言葉を締めた。


「――すべては、我が社の影響力を、“絶対”にするためです。

我々が支配しなければ、この戦争は終わらない」


会議室には、誰一人として異を唱える者はいなかった。




【ブリーフィングルーム ― ノースヘイム社・地下第4セクション】


薄暗い照明の中、白衣姿のセナが端末に何かを打ち込みながら、シオンへ向き直った。


「次の任務よ、シオン。目的は二つ。一つは、ノエル・アンジュをカーストランキングへ送り込むこと。もう一つは……アブロート社の前線基地にあるLAWSとの実戦データ収集。」


「俺がサポート役か……。本命はノエルってわけだな。」


シオンは組んだ腕を解き、背もたれに体を預けながらも真剣な目でセナを見た。


「その通りよ。あなたの役目は“舞台を整えること”。彼女に勝たせ、そして……ノースヘイムのLAWSがアブロート製を上回ることを証明する。試験型LAWS八機、その初陣でもあるわ。」


セナは操作パネルをタップし、ホログラムが展開される。そこには標的となるアブロート社の前線基地が映し出され、警告表示が赤く点滅していた。


「敵基地には自律型兵器――オートマタが千体以上。だが、最大の障壁は“コールマン”。カーストランキング34位、グラディエータ枠。コードネーム《イエガー》。汎用型だが、近中遠の全域に対応した完成度の高いパイロット。」


ホログラムに投影された機体の背には、アブロート社のLAWSが二機。太く、安定した出力機構を誇る高出力レーザー砲が装備されていた。


「LAWSによる高精度スナイプが主戦法。ノエルのような近接戦特化には相性が悪いわ。だが、あえてその不利を乗り越えさせる。シオン、あなたにはノエルが《突破》するための援護と、拠点破壊の責任を負ってもらう。」


「……まぁ、お膳立てか。」


シオンは鼻を鳴らし、ゆっくりと立ち上がる。


「了解。お姫様のお膳立て、しっかり務めさせてもらうよ。」


セナは無表情のまま端末を閉じた。


「作戦開始は48時間後。ノエルとの共同訓練で詰めを行っておいて。今回は“勝たせること”が絶対条件よ。」


扉が開く。そこに、戦闘用スーツに身を包んだノエルが、静かに立っていた。


「シオン、準備できてる?」


「こっちはいつでも。――ただし、そんなに簡単じゃないぞ」


ふたりの視線が交わった時、新たな戦いの幕が上がる気配が、静かに部屋を満たしていた――。




いつも読んでいただきありがとうございます。

次回も宜しくお願いします。

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