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5.お母さまにご挨拶申し上げます

結局、動けるようになるまでに私は3日間を要した。


完全復活してからは魔力の制御の練習だ。

身体の中の魔力の流れをイメージして、それをほんの少量ずつ、必要な分だけ外に放出していく練習を繰り返す。


練習3日目。


――目の前には浸食された花が一輪。

掌をかざして、陽の光をイメージする。

かざした手がほんのりと温かく感じる。

その熱が温かくなりすぎないように、木漏れ日のような優しさを意識して…


「驚いた、成功だね」


フェルドに言われて光のイメージをストップさせ、改めてまじまじと花を見る。

例の灰色のモヤのようなものは、もうどこにも見えないし妙な不快感も感じない。

(あと、無駄に花が増えたりもしていない)


「…やった!」

「こんなに早く制御をマスターできるなんて思わなかったよ」


フェルドとしては、制御できるようになるまでに数週間要する想定だったらしい。

教え方が良いのか、それとも私のセンスがズバ抜けていたのかはわからないけれど、練習3日目にして師匠の及第点をいただけたわけだ。


それで――


「私は役に立てそう?」

「ああ、もちろんだよ」


ふわりと嬉しそうな笑顔を浮かべるフェルド。

無駄にキラキラと輝いて見えるのはその顔面力のせいだろう。


だけど、そのキラキラした表情に影が落ちる。

「君が瘴気を浄化できる聖女だと見込んで、会って欲しい人がいるんだ…」

「?」

会って欲しいという割に、どこか気が進まなさそうな表情なのはなんでだろう。

ただ、その言葉にどこか切実な感情が乗っているような気がして、私は「私がお役に立てるなら」と大きく頷くことにした。



  *



連れていかれたのは、リント村の外れにある湖のほとりの小さな一軒家。

湖にも、その家にも、全体的に灰色のモヤがかかっているようで、フェルドの家の周囲よりもその嫌な感じが強く浮き出て見えた。


――う。

ちょっとだけ、一瞬だけ、吐き気を催して飲み込んだのは秘密にしてほしい。

人様の家の前でリバースなんて、冗談じゃないものね。


「大丈夫?気分悪くなったりしてないかい?」

タイミング良く(悪く?)体調を心配されて、私は慌ててぶんぶんと頷いた。

それにしても私の顔を覗きこむフェルドの表情は、やはりどこか浮かない。

この家に誰がいるというんだろうか?

「うん、ちょっとだけね…でも、大丈夫よ」

ガッツポーズをして大丈夫アピールをすると、彼は申し訳なさそうに苦笑いを返した。



  *



木製の簡素なドアを軽くノックすると、トン、トンと軽快な音が響いた。

返事はないが、フェルドはドアノブに手をかけると躊躇なく扉を開ける。

「…入るよ、母さん」


部屋の奥にある簡素なベッドには、妙齢の女性が横たわっていた。

フェルドの声に反応して、ゆっくりとこちらを振り向いた女性は、フェルド同様に翡翠色の髪を備えた、すらりとした美しい人だったように思う。


“だったように”という表現になったのには理由がある。


顔や腕など、見える部分のほとんどにドス黒い斑点のようなものが広がっていたのだ。

それに、頬はこけ、目の下は窪み、唇は乾燥し、生気のない瞳をこちらに向けてくる様はまさに死を前にしたような病人のそれで。

極めつけには、全身から例の灰色のモヤがにじみだしていた。


「…フェルド、いつ帰ってたんだい」

絞り出すような声がかぼそく響く。

「ついさっきだよ。ようやく国が聖女召喚を決断してくれたんだ。彼女は異世界から来た聖女、リイサ。」

聖女という言葉にぴくりと反応すると、彼女はまじまじと私を見た。

「よ、よろしくお願いいたします」

「彼女は僕の母、アメリア・ガランだ」


改めて紹介されたフェルドのお母さん…アメリアさんは、どこか訝しがるような視線を私たちに向けている。

私は私で、フェルドのお母さん…アメリアさんの異常な状態を直視ができず目が泳いでしまい、フェルドの裾を引っ張って説明を求めた。


「驚かせてごめん。…母は、瘴気病にかかってるんだ」

悲しげに告げるフェルドは、そうして個人で私を喚び出した本当の理由をポツリポツリと話し始めた。

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