4.私ってもしかしてすごいのでは
「リイサ、止めるんだ…!」
慌てた様子でフェルドが私の手首を掴む。
「え?え?」
そうこうしている間も私の掌からは光が漏れ出て、花は次々とつぼみをつけては活き活きと開いていく。
「と、止まれ…!?」
ぎゅっと力を入れて念じると、ようやく光が収まって、掌に感じていた熱が消えていった。
「び、びっくりした……」
ほっとしたからか、急に足に力が入らなくなり、私はその場にへたり込む。
あれ、これ、本当に力が入らない。
足だけじゃない、手も、体も、頭も…重たい…
「リイサ!」
心配して私を支えるフェルドのイイ声が、耳元で大きな声を出しているはずなのに遠くで聞こえる。
「ふぇる…ど…?」
フェルドに手を伸ばしたつもりだけど、手を動かせたどうかは定かじゃない。
私はそのまま意識を手放した。
*
カチャリというドアの開く音で、目を覚ます。
裸でフェルドと寝ていたあのベッドだ。
全身が泥のように重い。
「リイサ、目を覚ましたんだね」
視線だけを声の方向へやると、フェルドが水の入った手桶を持って部屋に入ってきたところだった。
心配そうな琥珀色の眼と視線が合う。
「フェルド」と声を発しようとしたけれど、擦れた空気が喉をヒュウと通っていくだけでうまく音が発せない。
「あぁ、無理をしないで」
フェルドのすらりと長い綺麗な指が、ベッド脇に置いてある手桶から濡れた布を取り出して、私の額の上に載せてあったそれと交換する。
ああ、とてもひんやりして気持ちいい。
なんだか視界がぼんやりとして、ふわふわとしているのは、熱があるせいなのかもしれない。
「急激に魔力を消費したんだ、しばらくは安静にしていて」
動きたくても体が動かないので、私は小さく頷いた。
「まさかあんなに魔力があるなんて…嬉しい誤算だったけれど、軽率だったよ」
フェルドはふぅと嘆息すると、今私に起きている状況を説明してくれた。
どうやら私は多くの魔力を持っていて、瘴気を浄化するための聖属性との相性は抜群らしい。
普通は魔力を放出しようとしても1発で成功する人はそうそういないらしく、私のイメージが適格だったのだろうと褒められた。
日頃の妄想力の賜物ね。
ただ、練習をしたわけでもなく何のリミッターもかけずに一気に魔力を放出したせいで体の中の魔力バランスが崩れてしまっているのが今の状態。
途中で止められたから良かったものの、放出しきってしまっていれば命に関わっていたかもしれないと言う。
そういうことは先に言って欲しい。
私の視線が非難を帯びているのを感じ取ったのか、フェリドは肩を落としてしゅんとする。
「本当に申し訳ない…体調が戻ったら、まずは魔力の制御方法を教えるよ」
すっとフェルドの指が私の額を流れた汗をぬぐった。
「だから、今はゆっくりと休んで」
イケメンに介抱されるのって、なんだかとてもイイ気分だ。
くすぐったい気持ちになって「ふふ」と思わず笑ってしまうとフェルドが不思議そうな顔をした。
「なんでもない」と口の形だけで伝えて(伝わったかはわからないけれど)、ふわふわとした心地のまま私はもう1度意識を手放した。
意識を手放す直前に、フェルドが何か言ったようだったけれど、聞き取ることはできなかった。
「…リイサ、君は僕の希望だよ」