9.実際、私の事をう思っている?-私はそれについてどうの、とは思っておりません-
全48話予定です
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シュエメイは撤収準備をしていた。目標は旧イエメン、彼女のホームグラウンドてあるジュケーにほど近い場所だ。
現在のシュエメイには味方機がいる。そう、原子力潜水艦という移動手段で現れたイリーナ中尉だ。古株組はクラウディアを筆頭に、新兵が配属される前に一階級ずつ上がったと聞く。イリーナはこの旧アルゼンチンという土地に帝国領を作る為に派兵された。二国間の交渉を有利に展開する為の材料である。こちらはレイドライバーが二体、しかも空、海の戦力も帝国軍が上、となれば同盟連合だって交渉のテーブルに付かざるを得ない。そしてそれはまんまと成功して、最低一年の不可侵条約を結ぶ形になった。
一度条約が締結されれば、ここにレイドライバーを駐屯させておくのは無駄、と言わんばかりに次の任地が示されたのだ。
それが旧イエメン。それはエルミダスという土地を挟撃する形をとるつもりなのだろう。
「聞いたよ、その……相方が無事だったのは不幸中の幸いだったな」
イリーナが無線で話しかけてくる。実際、撤収準備と言ってもテキパキと行われるわけではない。休息を兼ねながら行っているので、必然的にペースが遅いのだ。だが、そんな中でレイドライバーから降りて待つ、等というのも出来ない話だ。必然、コックピット内で待機を、という流れになる。現場の上官からは[楽にしてていい。まずないと思うが、何かあればそちらで対応を]と言われている。
「え、えぇ。いえ、命令ですから」
――そう、これはクラウディア少佐の出した命令、私が口を挟めるものではない。
シュエメイはそう考えていた。
「そうか、それでも無事だったのは幸いだ。私の事は……知っているよな」
イリーナがそう問いかける。
イリーナの話は、実はパイロット仲間の間でもちょっとした[話題]になっていた。レイドライバーのパイロットという重要人物が、拷問の類もされずにすんなり戻されたのは何故か。もちろん表立ってそんな話は出来ない。そんな話を堂々とすれば懲罰対象になるからだ。しかしながら[人の口に戸は立てられない]のと同じく、噂というのは知らず知らずのうちに回るものである。
――確かに疑問ではある。あの同盟連合が無事に返しただなんて。
そんな心の声を聞いてか聞かずか、
「陰でどう言われているかは少しだけ知っているよ。私は一度彼らに捕まっている。もちろん[どう扱われたか]については報告書をあげた通りだ。彼らからは何もされなかった。それでもそんな言葉を信じてもらえるとは思っていない。しかし、作戦を共にするきみにどう思われているか、それには興味はある。実際、私の事をう思っている?」
ズバリ、核心を突いてくる。
「噂の存在は知っております。同盟連合との間で[何かが]あったのだろう、と。ですが、私はそれについてどうの、とは思っておりません。少し言葉は悪いですが[そんなのはどうでもいい]のです。レイドライバーのパイロットとして貴方はちゃんと責務を果たしている、それだけで十分なんだと思います」
事実、それがシュエメイの偽らざる考えなのだ。仕事をしてくれればそれでいい、それ以上の詮索は百害あって一利なしなのだから。仕事さえしてくれれば自分の生存確率が上がる、それは実家で待つ母親への仕送りに関わって来るのだ。シュエメイは決して死ぬ訳にはいかないのだから。
イリーナはフフッと少し笑って、
「隊長の言っていた通りの人物のようだな。だから私が組まされたという訳なんだが」
――あぁ、そうか。居心地が悪かったんだな。
そうシュエメイは直ぐに気が付いた。
それよりシュエメイの心配している事、それは[自分たちが捨て駒になってはいないか]という点である。彼女は死にに来たわけではない。生きて母親に少しでも楽をさせる為に戦場に立っているのだ。そういう意味ではイリーナが派兵されてきたのは少し不安材料ではあるのだが。
そんなシュエメイの心の声を聞いてか、
「大丈夫、我々は決して捨て駒ではないよ。これはクラウディア少佐が提案してくださって事なんだ。居場所のない私が、居場所を作る為に。戦闘を重ねれば変な噂も消える、そう考えてくださったんだよ」
イリーナはそう語る。
全48話予定です