7.さて、どうしたものか-これってクリスのと同じパターンか?-
全48話予定です
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「さて、どうしたものか」
自尊心は削れば削るだけ他者との交渉がしづらくなる。それはそうだ、自尊心は[自信を持ち、自分の存在を尊いと感じること]であり、プライドは[他者との比較において、自分が上(または下)と認識する]ものだ。両者とも対人関係においては多かれ少なかれ必要になる。フライドは誇りともいえる感情だ、高ければ高いほどにそれは障害になるのだが、他者との交渉にとって重要なものになる。
クリスの場合は、神のような存在になったカズがすべて[肯定して与えたもの]なのだ。そうやって絶対的に信頼している人間から[お前は自尊心を持っていいんだ、プライドを持っていいんだ]と分量を決めて与える事で自我を維持する。その関係が既に構築されている。
トリシャはその辺りがまだうまく機能していないようだ。だからカズの教えと敵の提案を天秤にかけて、本来であれば断わるべき敵の提案を何処もこちらに有利に訂正せずに丸呑みしてしまったのだから。
――いや、待てよ。確か前の時に……。
カズは以前に[ミーティング]した時のトリシャのある仕草を思い出していた。それはいつものようにあられもない恰好をさせられ、その状態をしばらく保持したまま耳にはイヤホンをしてカズの言葉を繰り返し聞かせていた時の事である。
[あぁ、もっと、もっと]
トリシャは確かにそう言ったのだ。それはとてもかすかな声だった。イヤホンをしていたのもある、恐らく本人はそれを口にした事すら覚えていないだろう。だが、確かにそう彼女は言ったのだ。
今までの態度の変化と、その言葉。そこから推測されるのが、
――これってクリスのと同じパターンか?
つまり、僚機が自分を守るために一方的に攻撃を受けている。もしかしたらパイロットは死ぬかもしれない。そんな状況でトリシャは上気していた、そう考えれば何となく見えてくるものがある。
プライドを持ったままのマゾヒズム化とでもいうのだろう。本来これらは相反するものだ。ブライドが高ければ被虐性などは決して現れない。
――もしかしたら、自尊心が薄くなってるのか?
そうとも取れる。自己肯定感が少なくなってきていれば、そもそもプライド云々の前に被虐性に目覚めてもおかしくはない。そして、両者どちらが優位かによってその後の対応は分かれる。プライドが強く出ていれば[敵に屈するなんて]と思うだろう。だが、マゾヒズムが強ければどうなるか。
味方を犠牲にしたという事実、それを同僚に何と言われるか想像する自分。そこに被虐性という癖がくっつけば[もう許して]と敵に泣きつく事もあるだろう。トリシャが行った事後報告によると、実際には敵に泣きついてはいなかったようだが、それだってどのくらい持っていたか。もし仮に、敵がもう数十秒黙っていたら? あるいはトリシャ自身から、降伏までは言わないものの音を上げていた可能性は否定できない。
――この状況は確かにオレが作り出したものだ。トリシャにはもう少し別の方向から攻めないといけないのか。クリスみたいに自在に操れれば問題ないんだけどね。いっそ、自尊心もプライドもすべて削ってしまってから[再教育]した方がいいのかも知れない。でもなぁ、あのトリシャがクリスみたいにしおらしくなってもなぁ。
そんな事を考えつつもカズは、とりあえずトリシャとの[ミーティング]は方法を考えようと結論を出した。
だが、そんなトリシャを乗せた船は今日帰って来るのだ。
「うん、自尊心もプライドも削ってみよう。そこからオレがそれらを与えるって方式が一番いいな。その為にもクリスには手伝ってもらおう」
それはクリスにとってみれば[屈辱的な快楽]であろう。トリシャという他人の前で自分の恥ずかしいところを見せる、その度合いによってはそれこそ電気ショックに似た感覚にも匹敵する。
だが、カズはそんなクリスを肯定するのだ。肯定される事で被虐性を保ったまま自尊心を持つことが出来る。何故ならカズが肯定しているから。被虐性を保ったままプライドを維持できる。何故ならカズがそれを良しとしているから。
クリスの場合は比較的簡単なのだ。それに、そこまである意味カズの事を信頼しているからこそこんなリスキーな[調律]が出来るのである。クリスの場合は自分から進んで第二期生以降にされている[調律]を受けたのだ。そしてそれは第二期生以降にも負けないくらい強固なものなのだ。
「まぁ、とりあえずは話してみて、かな」
カズにしても推測の域を出ていない部分が大きい。ならば話し合って考えようか、というところなのだ。そう、お互いに耳があり、口が付いているのだから。
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