5.トリシャには何と言って聞かそうか-カズは色々な人間の死の瞬間を見てきた-
全48話予定です
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「そろそろ帰って来る頃か」
カズは研究所での仕事を終えて、エルミダス基地へと向かっていた。トリシャたちの艦隊が今日帰って来る、そんな情報を得たからだ。
――トリシャには何と言って聞かそうか。
カズは前回のトリシャの行動、つまりは敵の将校の提案を飲んで味方を助けたというアレを懸念していた。彼女にも言ったのだが、味方を助ける、それ自体はとても良い行動だ。助け合いの精神というのは大事だし、助けられた方はまた別の味方を助けようとするだろう。
しかし、敵の将校の提案を飲んで、というのが今回違う点だ。
本来、敵とは対等ではない。もちろん、階級による国際的な縛りはあるものの、それでも努力事項に過ぎない。こちらの階級が低いからといって敵の将校に従う義理は一ミリもない。同様に、敵の提案を安に受諾した、というのがカズは気になっているのだ。
これから先、こんな場面にも出くわすだろう。
そんな中で、常にこちらがイニシアティブを取らないといけない。それは少しでも敵より優位に働きかける必要があるからだ。
現に一度、カズは敵将校に対して停戦を呼び掛けたという事例があった。その際の条件は敵の将校の捕縛というものだった。敵には常に上位を保つ、これが彼の中の基本スタンスだ。もちろんそれは威圧的になる、というものとはまったく違う。対等を見せかけて優位に持っていく、それが必要だと感じているのだ。
――敵の提案を丸呑み、っていうのがね。
カズはそれが気に入らないのである。今回は対等の条件だったが、それはつまり敵がカズのように頭を巡らせて来たらその誘いに乗ってしまうというのを意味している。もちろん、条件がイーブンだったから飲んだ、それは分かる。それなら、こちらから提案すべきだったのではないか、そう考えているのだ。
「それに、今のトリシャならもしかしたら味方がやられるというのを快楽と感じてしまったのかも知れない。まぁ、その責任はオレにあるんだけども」
それはカズが一番よく知っている。
カズはクリスとも[ミーティング]を重ねている。と、それは同時にトリシャとも[ミーティング]を重ねてもいるのだ。
そんなカズをしてそう言わしめる理由、それは[ミーティング]の中でクリスやトリシャたちが示す態度、である。元々マゾヒズムがあるクリスは当然なのだが、トリシャにもその傾向が出ているのである。
いや、傾向というよりはそのものと言ったほうが近いのかも知れない。クリスと同じようなポーズを取らせて会話をする。それはカズには絶対の服従を態度で示させているのだが、当初は恥ずかしがってやらなかった。もちろんそれでカズは怒ったりはしない。
カズは色々な人間の死の瞬間を見てきた。それは死だけでなく、それに準ずるような状態の人間も含まれる。
カズが、現在の同盟連合所属の研究所の所長になってからは、彼のいないところでの非人道的な実験や死を伴う実験は禁止とされた。所長になってからカズは、すべての被験者の[死]もしくは[死に準ずる]場面に触れてきたのだ。
そしてカズは医師でもある。当然、精神科医の領域も研究を重ねてきた。
だからだろう。相手の態度、言葉遣い、仕草などで相手の気持ちが分かるようになってきたのだ。[ミーティング]と呼ばれるこの行為は一見すれば淫行目的に見られるかもしれない。だが、カズはそういった具体的な行為については行っていない。あくまで命令と会話、少しの[ご褒美]だけなのだ。その代わり、相手には自発的な服従を求める。
一例を挙げよう。
カズに腕を上げてもらって頭の上で組んで枷をし、がに股にしてもらって大事なところを守れなくした状態で話をするのだ。もちろんがに股だから話が長くなればそのポーズをとっていること自体が辛くなる。それを分かっての恰好なのだ。
それをカズが自ら人形を動かすように行う。それはまるで[私は貴方の人形です]と言わんばかりのやり方だ。そしてその姿勢は自分で変える事を許さない。
それが、二人とも今では望んでやっているように見えるし、実際カズはその機微を見逃さない。がに股で長時間などというのは格好としてはとても辛い姿勢だ。しかし話がどんなに長くなってもそれをさせるのである。そして二人はそれを望んでしてしまうのである。
これは一例だ。他にも様々なポーズやシチュエーションがあるが、それはどれも対等な関係ではあり得ないものなのだ。そう、主人と従者のような、もっと言えばご主人様と奴隷のような、そんなポーズを取らせて話をするのだ。
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