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46.何だ、あの不思議な形は-どれを狙えばいい?-

全48話です


曜日に関係なく毎日1話ずつ18:00にアップします(例外あり)

※特に告知していなければ毎日投稿です


 イリーナは武器を構えて共和国の人型が射程に入るのをじっと待っていた。その間も[相手がもしも脅しのような事をしてきたら]と気が気ではなかったのである。それほどにカズに捕らえられたあの事件は彼女の中でショッキングな事であるし、その映像は絶対に知られてはいけないものなのだ。


 ――相手は[お話は伺っている]と言っていたが、どこまで知っているのか。聞いたところ相手は若そうな女性だ、あんな事を聞いてショックを受けないのだろうか。もし自分が、たとえ上官からとはいえあんな映像を見せられたら、それが自分の身に起こりうると知ったらとてもではないが戦闘なんて。


 それほどイリーナは動揺していたのである。だが、目下の敵戦力である共和国の軍はすぐそこまで迫っている。


 イリーナはここでその感傷にとらわれるあまり、周りが少し見えていなかったと言えるだろう。同盟連合のレイドライバーがすぐ横にいるのにその観察もせずに敵の方に集中を持っていったからだ。


 だか、それを責めるのは酷、というものである。それ程、まだ二十歳そこそこのイリーナにはあの体験は酷なものであったのである。


「ギリギリまで引き付けましょう。引きつければそれだけ破壊力を増しますから」


 と相手からの無線が入る。先ほどの女性からだ。イリーナは慎重に敵の人型に銃を向けていた。


 ――何だ、あの不思議な形は。


 サーマルビジョン(赤外線ナイトビジョン)で敵の輪郭を見る。それは帝国や同盟連合のレイドライバーとは似ても似つかないものだ。


 上半身も確かに細い。あれなら弾を当てれば直ぐに行動不能に出来そうである。問題は下半身にあった。


 馬の後ろ脚のような、複雑にしなった弓のような形をしているのだ。


 その相手が、おそらくは陽動なのか、射程に入ったのか発砲して来た。動揺しているイリーナはそのまま発砲を、と考えなかったのはそれでも彼女を褒めるべきであろう。相手にはこちらの正確な位置は相手には知られていないのだから、まさに[一撃必中]くらいの勢いで行った方がいい。


 敵の数は三体だ、となれば一体ずつ仕留めるのが良いだろう。


「どれを狙えばいい?」


 と相手の女性に無線で聞く。


 すると、


「向こうもデルタ陣形です。ではそのまま同一線上の敵を狙いましょう。私は一番後ろのを、そちらは左側の人型を、残る右側をこちらの僚機が狙います。いいですか、こちらの位置はまだ特定されていません。相手はサーマルで見える、という点からすればそんな装備も無いはずです。どんな動きをするか分からない、ならば必中を狙いましょう」


 と返される。


 ――慌てて発砲しなくて正解だった。自分はそれくらいには場数は踏んだ、という事なのかも知れない。あの場面を含めて……。


 イリーナはそう思いながら身震いする。それほどにカズに捕らわれ、尋問を受けた時の恥辱は消えてくれないのである。しかもそれを録画されていた。そして極めつけは[喋ればバラすぞ]と脅されたのだから。


 ………………


[まっ、きみもあんな状況じゃあうる覚えだろうしね。大丈夫、さっきのとおり、これは取り引きだ。きみが何もしなければこちらは何もしない。きみが何かしてリアクションがあった時点でそのリアクションに対してこの動画を送ってあげるよ]


 確かにそう言われた記憶がある。それは当時の状況を頭の中で再現できるくらい、相手の声質まで覚えているくらい衝撃的だったのだ。


 もしも喋ったことがバレたら、帝国上層部にこの動画がノーカットで送られる事を意味している。そんな事になれば不特定多数の人間が、しかもコピーを取られて未来永劫残り続けるのだ。それだけは絶対に避けたい。


[喋らないから、お願いだ]


 頭を下げるイリーナに対して、


[お願いします大尉殿、だろ? 一応階級は上なんだけど]


[何なら今から送信しようか?]


 カズが少しだけトーンの低い声で脅しをかけられて、イリーナは、


[す、すみません、大尉殿。どうかそれだけは堪忍してください、お願いします]


 そう言ってベットから降りて土下座をした記憶がある。


 ――あぁ、私は何をしているんだろう。ここではこんなのが日常なのだろうか? という事はこのクリスという子もあるいは……。


 イリーナの心の中はぐちゃぐちゃであった。そんな中でただ一つ、固く誓った事がある。


 ――この事は絶対に内緒にしよう。


全48話です


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