45.回想-ゼロフォーのその後-
全48話です
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ゼロフォーは独りになってしまった。そんな彼女が身を寄せられる場所は無い。
必然的に孤児院に入る運びとなった。
当時の孤児院といえば、戦争で身寄りがなくなった者や元々身寄りと呼べるのがいない者が集められる場所であり、どこも満室に近い状況であった。
その見た目といえば、オンボロな平屋にトタン屋根を敷いただけという、貧民街のそれとほとんど変わりがない外観に、ぎっちり詰まった人数、さらには満足な分の食事が供給できない為の餓死者というのが相場だった。
ゼロフォーはその中で、壊れた心で[なぜ自分だけが生き残ったのか]と考えていた。それは身を挺して助けてくれた両親や兄にどう向き合えばいいのか分からない、そんな気持ちが支配していたのであろう。
そこまで心を病んでしまうと普通は生きて行く事すら困難になる。
当然、彼女も自死を考えた。何度も何度も持っていたナイフを自分の首に突き立てたのだ。しかし、その度に爆風から、機銃掃射から自分を守って死んでいった兄の笑顔が頭の中をチラつくのだ。
泣いた。
泣いて泣いて、泣き腫らしてそれでもまだ心は壊れたままだった。泣いたのはとある日の一度だけ、その日はもしかしたらたまたま[心が戻って来ていた]のかも知れない。
その後、ゼロフォーは泣かなかった。笑いもしない、悔しがりもしない、怒りもしない無表情の十歳児が出来上がっていたのである。
食事も提供はされたが不足が続いていた。そんな中で孤児たちの争いは常に起きていた。ゼロフォーはまさに[生きる屍]になっていたのだ。数日に一度ありつける食事で何とか生命を保ち続けていた、そんな状態であった。
そんな彼女に転機が訪れたのは、例のテストである。同盟連合は優秀なパイロットを欲して各地でテストを行っていたのだ。この頃には研究所の脳科学と共に発展していたマッチングテストで近親者は必要でなくなっていた。
そしてゼロフォーは不運な記憶消去事件から一転、ぐんぐんと知識、経験を身に着けていった。彼女にとっては記憶消去事件はある意味で幸運だったのかもしれない。壊れたその心ごと文字通り[消えて]しまったのだから。
ゼロフォーは十歳より以前の記憶を失ったが、感情も失ったままだった。
自分から[あれがしたい]とか[これがしたい]や[これが欲しい]というような、自発欲求というものがゼロフォーには全く見られなかった。出された食事にも文句を言わず、理不尽ともいえるような事でビンタを思いっきり喰らっても表情一つ変えずにいたのだ。
そんな生活を送っていたゼロフォーの事を以前から気にかけていた人物がいた。それがカズだ。彼は記憶消去事件の際に被検体に回す事も、処分する事もせずに[この娘を五年半で使える状態にしろ]と孤児院に命じてサブプロセッサーにしたのだから。そして彼女は見事に回復し、無感情の優秀な頭脳となったのだ。
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これがゼロフォーがたどってきた経緯である。
カズは以前からゼロフォーに対してちょっかいをかけていた。その理由の一つが[ポテンシャルの高さ]である。そして決して感情に流される事のないその判断力。それだけのものが揃えば、これほどサブプロセッサーという存在にうってつけな人材はそうそういない。
だから、元々のゼロフォーは勝ったからといって喜びはしない。逆に負けたからといって悔しがったりもしなかったのである。それは現在の彼女にももちろん言えるのだが、ゼロフォーの心には彩が付き始めた。もしかしたら今の彼女なら勝ったら喜ぶのかも知れない。
しかし、それは本人ですら分からない事だ。
そして共和国の人型はこちらに向かって進軍して来たのである。
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