43.一歩引いた目線でものを見る-それがゼロフォーには可能なのだ-
全48話です
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ゼロフォーは前方に位置しているスリーワンに[帝国のレイドライバーの射撃スタイルや威力を記録するように]と伝えた。それは[了解しました]という信号で頭の中に直接入って来る。
こういう時にサブプロセッサーという形態は便利である。いちいち無線を切り替えて[こちらはこうして]等と面倒な事をしなくて済む。
基本、サブプロセッサー同士の会話は無線は使用しているが、暗号化されたパケットで送られている。それはどの言語とも違う、生体がら発せられたものを使っている。つまりそれは直接の言語ではないのだ。
生体がその信号伝達に使用しているシナプスの会話。生体プロトコルを無線信号に変えて、さらに暗号化して送受信しているのだ。仮に暗号を復号化出来たとしても、相手には会話の内容を理解するのは原理的に不可能なのだ。
もしそれが可能なのだとすれば、それは脳だけの存在になった自我のあるサブプロセッサーだけであろう。そして帝国はその技術を完全には獲得していない、とゼロフォーはカズから聞かされている。
[以前にイリーナ少尉という人物を捕らえたんだよ。その人物は色々と喋ってくれてね、どうやら]
そう言って、その内容を教えてくれた。
操縦形態は、パイロットが単独で搭乗して操縦する、というスタイル形態をとっているらしい。
生体コンピューターという、同盟連合でいうところのサブプロセッサー、つまり人の脳を一部に使用しているものを搭載しており、それが全方位のアラートや司令部からの司令の受信、レイドライバーの細かな姿勢制御、その他に人では賄いきれないところをすべて受け持っているとの事だ。
しかもそのコンピューターはかなり小型化が実現しており、パイロットがいるコックピット内に内蔵出来るくらいの大きさだとか。これは同じく人の脳を使っている同盟連合からしてみれば、ある程度の大きさを持たせなければならない事から、この技術については帝国の方に一分の長があるようである。
そのコンピューターとパイロットの脳をリンクさせる事で、パイロットがいちいち指示を出さなくてもコンピューターが判断して必要な情報を提示してくる。その為、パイロットの首の後ろにはプラグが埋め込まれていて、それを接続する事で操縦時はパイロットの脳が直接レイドライバーを動かす、そういう仕組みになっている。
ただ、そのリンク方法については不明な点が多いという話だった。
一つ言えるのは親族ではない、という点からすればリンク、といってもたかが知れているだろう、というカズの見解と共に。
[だからと言って軽んじてはならない。敵がどんな技術でリンクしているのかが不明な現在、当然ながらリンクはしていると仮定してものを考えた方がいい。それは、きみなら分かると思うけど]
ゼロフォーは論理的に思考する。それは決して悲観論でものを見ている、という単純なものではない。一歩引いた目線でものを見る。それがゼロフォーには可能なのだ。
――――――――
ゼロフォーには友人と呼べる存在がいない。
だがそれは今の話であって、昔は確かに、彼女がまだ幼かった頃にはいたのだ。
元々ゼロフォーは無感情、無機質な人間であったわけではないのだ。普通に笑い、喜び、そして悲しむ事の出来る、ごく普通の女の子であった。
ゼロフォーにだって元々は両親がいた。それだけでなく兄がいたのだ。彼女たちは難民であった。
当時は内戦があちらこちらで起きていた。三国になるには少なからず反対勢力というものがある。それはたとえ思想が似かよっていたとしても反対勢力というものは存在し得るものなのだ。実際、内戦はそれこそ三国問わず各地で起きていたのだ。
そんな中で、戦火を逃れて安全なところを求めて避難する人々というのが少なからずいた。それは地域によるが、現在の三国になる以前は何処でも起き得たし、起きていた。もちろん同盟連合とてそれは同じだ。
ゼロフォーは[大陸の国々]での内戦を避けて旧ベラルーシを渡って、昔でいう所のポーランドまで流れ着いた。そこまでは両親も兄も健在だったのだ。
当然、そこまで流れ着いたのだから旧ポーランドは拾ってくれるだろう、流れていった皆がそう考えていた。だが、現実は厳しかった。
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