41.旧イエメンに元々いた軍隊は-事実上の軍隊というものは存在しない-
全48話予定です
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ゼロフォーは、
「では具体的に作戦ですが」
と前置いて話しを始めた。
共和国は例の軍をこの戦場からほど近い旧サウジアラビアのダハランという都市に展開しているとの情報だ。ここは道一本でこの地の首都であるサナアに入ることが出来、その延長線上にアデン港が位置している。
今ゼロフォーたちが戦っていた場所は、首都のサナア近郊である。もちろん首都そのものではないのは前述のとおりである。市街地戦をしてしまっては、同盟連合としては後々に響くというものである。必然、郊外を選んで展開していた。
サナアからダハランまでは距離にして百キロある。
情報というのは、一度手に入れられさえすればあとは検証するだけでいい。当然ながら偵察衛星と現地入りしている潜入部隊に具体的な位置を特定させていた。そして帝国のレイドライバーがHALO降下して来たまさにその時、越境が始まったとの報告がゼロフォーに届いていたのだ。
帝国との戦闘に小一時間、敵はここから約四十キロの位置まで迫っているという。先行は人型が、そのあとに機械化部隊が侵攻してきている。
と、ここまで話すと[旧イエメンに元々いた軍隊はどうしているのか]と思うだろう。首都も守らずに一体どこにいるのか、と。
そこで今はこの地は帝国領だ、という話に繋がる。帝国はこの旧イエメンを統治しあぐねていたが、同時に軍の解体をしていたのだ。陸、海、空軍、そのほとんどが残ってはいないのである。辛うじて残っている軍も命令系統が統一されておらず、事実上の統制の取れた軍隊というものは存在しないのである。軍人、警察、民間人問わず一切合切の武器と呼べるものを没収して回ったのだ。辛うじて残ったのは拳銃の類くらいか、闇市で出回っている手りゅう弾か、良くてグレネードランチャーくらいである。
その状態を十年近く放置してきたのだ。たまに帝国の艦船が寄港するが、それも物資を調達するとそそくさと出て行ってしまう。帝国領とは名ばかりの、事実上の[空白地]だったのである。
だがこの地は共和国が隣接している。しかしながら、共和国は共和国で軍の腐敗が進んでいる。とてもではないが内戦も続いていた為に、統制も取れていないこの地を欲そうとはしなかったのだ。それは一つにエルミダスという目と鼻の先に同盟連合の領地が出来た、という事実と、どうやら同盟連合は凄い兵器を開発したようだ、という話が出回っていた。
のちにそれはレイドライバーの事を指していたと判明するのだが、それまで共和国は[何もして来なかった]のである。
それはある意味で奇跡と呼べるものかも知れない。
事実上の空白地、その土地に侵攻しなかったのだから。まぁ、帝国もその威嚇程度には軍艦を寄稿させていた、という事実もあるのだが。
今現在では世界情勢は大きく三つの勢力に集約されている。国土では陸上の約半分を占有する帝国と呼ばれる勢力と、同じく三十五パーセントを占める同盟連合、残りの十五パーセントが共和国である。
共和国にしてみれば国土にして陸上の五割を占める帝国に喧嘩を売ろうものなら一体どうなるか。その結果は火を見るよりも明らかであろう。だが、同盟連合とも対峙はしたくない。どうせなら帝国と同盟連合、双方が潰しあってくれればそれでいい、そう考えていたのだろう。だからこれまで一切の干渉をして来なかったのだ。
それよりも共和国にはしなければならないものがある。それは国内にまだ存在しているテロリスト集団との戦闘、それの鎮圧である。三国になったものの、多かれ少なかれそういう[お国事情]というのは何処にでも存在する。その中でも共和国はそれが顕著、かつ継続しているという話なのだ。
戻すと、敵との距離は約四十キロ、到達予定は約一時間後、その間にこちらはどんな作戦が取れるか。
「無線の周波数をこちらの指定するものに合わせてください」
それは国際的に使われていない周波数だ。受信すら出来ない機器も多い。ゼロフォーはその周波数を指定したのである。
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