40.共和国の話は信じていいものか-向こうは実際に敵を見たと言っています-
全48話予定です
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[イリーナ中尉ですか。大尉からお話は伺っております。現在は中佐ですが]
同盟連合のレイドライバーはそう言ってきたのだ。イリーナは相手と話しながらも同様が隠せなかった。それで声が思わず上ずってしまったのだ。
――まだ相手の名前も聞いていない。それどころか相手の要望にそのまま乗ってしまうなんて。でも、もしも相手が[あの尋問]を知っていたら? ここで、オープンチャネルで、でかでかと[あれこれしましたよね]等と言われたら? おそらくシュエメイは何も言わないだろうが、心の中では彼女に何と思われるか。それを考えたら相手の要求を飲むしかない。
イリーナはジュケーで作戦指揮を執っているクラウディアに掛け合う際に[かなりの信頼度のある情報のようです]と強く伝えた。その相手のクラウディアはイリーナの言う言葉をどう思ったのかは分からない。だが、イリーナは隊の中でも[腫れ物]扱いを受けて来ている、と本人自身が自覚している。
そんな中、捕まった当の敵に[お話は伺っています]と言われたのだ、本人としては相手の要求を飲みたいという意思が滲んだといっていい。
上官であるクラウディア少佐には秘匿回線を使用した。どんな会話になってもいいように、というイリーナの思惑である。この回線は指定した相手としか繋がらない。つまりこの会話はシュエメイには聞こえないようになっている。
もちろんその設定をしたうえでシュエメイには[私が話すから少し待って]と前置いたうえで接続したのだ。
実際、話を終えてクラウディアは、
「確かに二対三は厳しい。相手を一体を無力化したとはいえこちらも一体被弾して動けなくなっている。ここで二体の消失は帝国にとっても痛手だ。それに、そこは敵の基地であるアルカテイルからも近い。増援の可能性も参謀に進言すべきだったな」
と前置いたうえで、
「我々は[火種]を撒かねばならないし、相手もこうやって[火種]に手を突っ込んできた。それは参謀のお考えなのだろうが、果たしてきみが敵将校から聞いたという共和国の話は信じていいものか」
と疑問を呈したのだ。
――ここで少佐にはこの作戦を承認してもらうしか他ない。
イリーナは内心、かなり焦っていた。それはそうだ、先ほどの[お話は伺っております]が嫌でも耳から離れない。何ならこうして話している今でも頭の中をぐるぐると回っている。それはまるで掴みどころのない蛇のように。
「向こうは実際に敵を見たと言っています」
それは、嘘だった。だが、それはイリーナ中尉という人物の言葉として発せられたのだ。
それは直ぐに、
「本当か!? そんな状況で帝国と同盟連合が潰し合えば、確かに共和国には恰好の的だな。一気に五体のレイドライバーを始末されかねない状況だ。現場の判断を尊重せよ、クロイツェル参謀からは言われている。総合的に勘案してもこれ以上の戦闘は不利益でしかないな。分かった、共闘を受け入れよう。ただし、こちらの機体はそのまま回収するのを条件に提示するように」
という、提案してきたイリーナからすれば満額回答と言える内容をクラウディアから引き出せたのだ。
「どうなりましたか?」
多少焦れたのだろう、シュエメイが無線で呼びかけてきた。
「あ、あぁ。少佐殿は受け入れるように、との事だった。ただし、きみときみの機体は絶対に生かして連れ帰るようにとの命令だ」
イリーナは極力悟られないように、平静を装いながらシュエメイに無線でそう返したのだ。無線では言われなかった[絶対]という言葉を使ったのは、まるで[シュエメイの事も考えてますよ]というイリーナなりのアピールだ。
そして、
「敵将校に告ぐ。本国からは損傷したレイドライバーの回収を条件に幕引きしても良いと言われた……」
という先ほどの会話の流れに繋がるのである。
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