38.いよいよ焦れたか。ならば-脚を、脚部を狙ったのである-
全48話予定です
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そんな持久戦になってしばらくの頃、相手に動きがみられた。二体とも立ち上がって盾を構えて迫って来たのだ。これは完全には消し去る事の出来ない[音]という情報によるものである。レイドライバーは基本がモーター駆動だ。だから作動音としては小さいのであるが、どんなに隠れていても移動時には若干ながらも音が出る。それを相手の位置を割り出して可視化したのだ。
――いよいよ焦れたか。ならば。
ゼロフォーはスリーワンとスリーツーに盾を装備して前進の指示を出した。それは一瞬躊躇のような動きを見せたが、指示通りに二体は立って前進し始めた。
いわゆる撃ち合いである。
これではトリシャの時と同じではないかと思える。
だがトリシャの時と決定的に違う点がある。こちらは三体、しかもゼロフォーは腹ばいのまま動いていないのだ。そしてレイドライバーの射撃システム、つまりはゼロフォーの射撃システムはかすかに出る音を頼りに完璧に相手を見定めていた。
脚を、脚部を狙ったのである。だが、それと同時くらいにスリーツーが被弾していた。相手も音を利用していたのだろう、盾を打ち抜かれて胸部に被弾したのだ。それは行動不能にこそならなかったものの、悪い事に両腕部の駆動系を使用不能にされたのだ。
人型をしている分、腕部が動かなければ武器の使用も出来ない。それも両腕となれば決定的だ。
だが、ゼロフォーは相手の足止めに成功していた。確かに相手が倒れたという音がした。
――ここがマスターの言うその時なのかも知れない。
ゼロフォーは腹ばいの姿勢のまま無線の周波数をオープンチャネルに設定し、電波出力を相手のレイドライバーに届くくらいに弱めて、
「我々の目の前にいる敵機に聞きます。このまま戦闘を続けてもいいのですが、泥仕合になるのは間違いないでしょう。それに数ではこちらが勝っています。装備も大して変わらないでしょう。このまま続けても双方に被害が出続けるだけです。それを喜ぶ勢力がいるのはご存じですか?」
と問うたのだ。
撃ち合いは、止まった。相手が撃って来なくなったのだ。そのタイミングでスリーワンとスリーツーには発砲停止命令を出した。
しばらく沈黙があってから、
「私はイリーナ、イリーナ・グリゴリエヴナ・コズロフ中尉だ。貴殿に聞きたい事がある。喜ぶ勢力というのは共和国の事か?」
と同じくオープンチャネルで呼びかけがある。あちらも電波出力がいじれるようで、出力を下げて飛ばしてきた。
――イリーナ中尉といえば、例の攻防戦で捕虜にした人物のはず。たしかマスターは色々と情報を聞き出したのだったか。見知った相手なら交渉もしやすい、か。
「そう、共和国。我々の消耗を待っている勢力です。こちらの情報では近隣の国境線沿いまで来ているという話が上がってきています。もしかしたらもう越境しているかもしれない。そんな相手を目の前にして、これ以上の泥仕合をして互いに何か益があるでしょうか。私は一つ、ここで提案したいものがあります」
ゼロフォーの言う提案、それは帝国と同盟連合の共闘である。この戦線を終了とし、まだ動けるレイドライバー合計三体で共和国の人型を撃つ。その提案をしているのだ。
「だが、にわかには信じがたいな。こちらでも共和国の話は出ているが、まだ実戦配備に至っていないという話だ。それなのにもう越境とは……」
――ここで少しだけ揺さぶってみよう。
ゼロフォーはいつも、まるで人間を相手にしているというよりはコンピューターとチェスでも打つように思考する。相手がこう出て来たらこう、と二手三手先を読んで行動する。それは普通の人間でも同じなのだろうが、決定的に違う点は思考に感情が入らないというところだ。彼女は思考に感情を一切入れない。あくまで向こうがこう打ってきたらこう、そんな感じである。
昔からあるそのゼロフォーの思考の[癖]は、心に彩が付き始めた今も健在だ。それはゼロフォーがゼロフォー足りえる証でもあるのかも知れない。そんな彼女はコンピューターとの親和性がとても良い。なので、他のサブプロセッサーよりも上手く生体コンピューターを操れるし、頭も回る。そして、サブプロセッサーとしての性能という意味でも頭一つ抜き出でているのである。
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