26.その部分の説明がまだでしたね、失礼しました-本当に今まで失念していたよ-
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実際はこの状況だ、誰も妙案が出せる訳ではない。帝国と共和国、せめてもの救いは共闘されなかった、という点である。これで両者が組んで同盟連合を向かい討たれれば、それこそ勝機がかなり遠のく。
現に、
「うーん」
誰も声を挙げようとしない。
「ちなみに、共和国のレイドライバー、というのはどのくらいの性能なんだ?」
どこからかそんな声が上がる。
「その部分の説明がまだでしたね、失礼しました」
カズはそう言うと、一から説明を始めた。それは日本から持ってきた帝国が行っている実験の情報も一緒にである。
――本当に今まで失念していたよ。
カズとしては日本の研究データは帰って来てから報告しようと考えていた。そんな矢先に世界各地での帝国のレイドライバーの出現、という事件が起きた。彼はその対処に追われていたのだ。
まず帝国から。
カズが日本から持ち帰った内容、それは[大脳辺縁系をコントロールする事による回避運動の効率化]である。生体コンピューターを大脳皮質を取り除いた大脳辺縁系に配線すれば、回避運動の効率化が図れる、という内容だ。そしてその配線は3Dブリントの要領で行うのが理想的、と書かれていた。だが、現状では脳をいじる技術不足の為不適、となっていた。
これは同盟連合では研究していない技術である。
何故か。
それは大脳辺縁系にだけ手を入れるなんてナンセンスだ、と思われてきたからだ。実際、カズとしてもそう思う。しかし帝国は、いや残された日本は、それに真面目に取り組んだという話なのだろう。
そこで次の共和国の事例に繋がる。
その技術が仮に実現されたとすると、アルカテイルに共和国がちょっかいを仕掛けてきた時の共和国製の人型の反応と酷似しているのである。
確かに、ワンワンとワンツーが戦った時の回避運動はずば抜けていた。対してこちらは被弾多数だった。
いっときは帝国のこの情報が共和国に漏れていたのか、とも考えたが、それは違うと判断できる。何故なら、もし技術的に未熟な国が手っ取り早く性能のいいものを手に入れようとしたらどうするべきか?
これは送られてきた情報にも合致しているのだが、実際、動物の脳は比較的いじりやすい。その技術を使って、更には一段階進めて人の脳を使い、根底の[馬の脳]である大脳辺縁系や[爬虫類の脳]と呼ばれる脳幹にコントロール信号を出している、つまりより原始的な脳の機能を使っている、というものなのだ。
事実、人の脳を使用していると[モグラ]から情報がもたらされた。共和国の技術はこれでほぼ間違いないだろう。
では戻って、帝国は?
日本から持ち帰った情報を照らし合わせてみて、これがすべての研究データではないという仮定を前提にしても、そこからも帝国が脳をいじる技術で遅れているのが分かる。現に、イリーナ現中尉への尋問でも自我のあるサブプロセッサー、いや向こう式に生体コンピューターと呼んだ方がいいだろうか、帝国はその実装には至っていない。
どうやってリンクしているのかも不明だ。彼女は[他人の脳を使っている]と言った。という事は近親者でもない人間同士、という話になる。とくれば、帝国は同盟連合にないリンク方式を採っている可能性が高い。
子宮のリンクの部分はごっそり持って来たし、主導していたのが千歳だから他の人間は断片しか知れていない、というのがある。同盟連合のこの第六感とも呼べるようなリンクシステムをもしかしたら帝国は追わなかったのかも知れない。
このように、レイドライバーの技術で言えば同盟連合が一歩、いや二、三歩リードしているといっていいだろう。
だが、
「逆に言えば、帝国はそれだけの技術であれだけの戦果を出しているという事か」
――そこを突かれると、
「耳の痛い話であります」
とカズは謙遜する。だが、それは直ぐに[きみを責めている訳ではない]という慰めの言葉と共に、
「それだけコンピューターとしての性能を重要視しているのかもな」
と返す。
――そうか、帝国は生体コンピューターとして見ている? そう考えれば色々と納得できるな。
と思い、
「実際、帝国は人の脳から作った生体コンピューターを本当にコンピューターとして見ているのかも知れませんね」
と所見を述べた。
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