25.彼からの通信がやっと入りまして-どう転んでも痛いな、これは-
全48話予定です
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その情報はカズがいない時に情報としてアルカテイルにもたらされた。彼は今は研究所にいるからだ。
「直ぐに会議を」
カズはそう言って回線を繋がせる。対象はアルカテイル基地、カズのいる研究所所長室、それに軍上層部、政府上層部である。それらはいつでも繋げられるように何重にも暗号化された回線が、ただ常時繋いでいないだけで回線としては引かれている。用事のない時も常時繋いでいると、万一盗聴された場合、非常に困るからだ。特に何度も出ている通り、研究所の存在は是が非でも秘匿されなければならないのだから。
逆に言えば、
「きみか、繋いできたという事は何か特段の情報でも手に入ったかね?」
と、あっさりつながるのである。
「先日、私は共和国に[モグラ]を潜ませている話はしたかと思います。その彼からの通信がやっと入りまして」
と切り出した。
「ほう、してそれはどんな内容なのか」
当然、そう聞かれる。
――実際、聞いたオレ本人が一番驚いているよ。
カズは、
「今回の旧イエメン戦に共和国が独自のレイドライバーを使って参戦しようしている、との情報が入りまして」
「なっ」
それは上層部でなくともそんな反応になる。何処から漏れたのかは不明だが、旧イエメンと言えば半島の飛び地、そして半島は共和国の領土、それも[本国]にあたる。当然、漏れる事はある、と考えておかしくはない。だが、
「そこにレイドライバーを投入とは……」
それは言葉に詰まるだろう。
そんな空気をカズは、
「どうやら共和国は同盟連合と帝国の消耗を待ってから乗り込んでくるつもりのようで、隣接する地帯に部隊を展開予定、との事でした」
と切り込みを入れる。
「それはつまり、二国間の戦闘は傍観して、しばらく置いてから消耗したところへ戦闘を仕掛け、あわよくば占領を目論んでいる、と?」
と返って来る。
実際、
「ええ、その通りです。[モグラ]はそう伝えてきました。具体的に一か月というのも漏れているようです」
カズにしてみれば、ようやくもたらされた貴重な情報だ、活用しない手はない。
「これは、引くに引けなくなったな」
事実そうなのにである。ここで同盟連合が軍を出さなければ、事実上帝国のレイドライバーの駐屯を許してしまう。おそらく艦隊も連れてくるはずだ、そうなればエルミダスまでたかが二百キロ、そんなのは航空機にとっては目と鼻の先である。巡航ミサイルだって十二分に射程圏内だ。
では同盟連合が軍を投入したとして、先のシナリオ通りに事が進めば、互いに消耗した状態で戦う事になる。当然、現段階での情報では、共和国のレイドライバーの性能はさほどではない、と推測はされるものの相手はかりにもレイドライバーである。いくら戦力的に弱いとはいえ、消耗した状態で戦えばどうなるか。
ならばこちらから向かわせるレイドライバーの数を増やすか、と言われればそれはしずらいのは目に見えている。アルカテイルの目前にはグランビアが、その向こうには本山であるジュケーが控えている。
――どう転んでも痛いな、これは。
カズは次の一手を必死で考えていた。
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