22.準備は順調そうだね-きみの心には彩(いろ)が付き始めたと思う-
全48話予定です
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「準備は順調そうだね」
カズが整備ドックにいたゼロフォーに声をかける。
「マスター。こちらの作業の進捗状況は遅滞ありません。今の状況でも出撃出来ますが」
ゼロフォーは子宮の器官の話をしているのだ。
だが、
「きみは良くても、他のサブプロセッサーは良くないんだ。それに今回は実験の意味合いもある。サブプロセッサーが文字通り[メインプロセッサー]になれるかの、ね。その為には現在あるシステムをすべて組み込む必要がある。その上で戦績を見て次の事を考える、その為のきみやきみたちという訳だから」
――実際、ゼロフォーたちがどれくらいのデータを持ち帰るかによって、これからの無人機構想の行く先が変わって来るんだ。その為の試金石なんだから。
「それで、マスター。私はどちらに派兵となるのでしょうか?」
当然の質問だろう。カズは、
「それね、ここから約二百キロ先の旧イエメンだよ」
と返す。ゼロフォーは[そうですか]とだけ言って黙る。
それを、
「ん? 他に質問とかないの」
とカズが聞き返せば、
「私はマスターの命令があれば地球の裏側だって行きます。ですが、概要を教えて頂けるならより動きやすいと思います」
――それを上官から聞くのも。
「そういうのを聞きだすのもきみの役割だと思うよ」
カズはいつものように微笑みながらそう言うと[まぁいいよ]と言いながらゼロフォーに説明し始めた。
今回、帝国がどうも旧イエメンに向かってレイドライバーを派兵しようとしている話と、それに対してこちらが先手を取って侵攻しようという話と。
「なので、極力現地の敵兵の殺害はなしだ。出来れば無血開城と行きたいところではあるけれど、こればかりはやってみないと何とも言えないかな。場合によっては追加派兵、なんてのも頭の片隅にはいるんだ。何といってもここから約二百キロ、それなら輸送機で降下作戦、なんてのも出来るからね」
と話す。
「前にも話したけど、きみの心には彩が付き始めたと思う。それに付随して言うんだけど、もっと積極的になってもいいんだよ。例えば」
「作戦内容を聞く、とかですか?」
――なんだ、分かってるじゃん。
「それが分かり始めているなら大丈夫だね。まぁ、実際のところはやってみないと分からない事ばかりだ。それを言い出したらどんな作戦だってそうなんだけどね。それはお互いの陣営に言える事だ。その戦局の中でより良い行動を取った方が勝ち、となる訳だ。それはただ戦闘に勝てばいいというんじゃあない」
カズの言う事、それは[大事なのは戦局を見極める目だ]という話である。
敵との遭遇で必ずしも戦闘で勝利するのが重要、という訳でもない。もしかしたら負けた方が良かった、なんて戦局だってある。その見極めが重要なんだ、と説いているのである。
「分かったかな? きみに積極的になってもいいんだよ、と言った意味が」
――ウチにロボットの兵士はいらないんだ。
「マスターのご命令であれば努力します。それに」
「それに?」
カズが聞き返すと、
「カルと出会ってから私は、少しはそんな考え方も出来るようになってきたような気がするのです」
ゼロフォーは確かにカレルヴォの名前をカル、と呼んだのだ。これはマリアーナに対しても言える。ゼロフォーはマリアーナの事をマリア、と呼ぶようになっているのだ。それは他人との距離感をようやくつかみ始めた兆しなのかも知れない。
――うん、やはり心が豊かになれば思考だって変わるものだな。
そんなカズはあの時、実験に失敗してしまったあの日にゼロフォーを廃棄処分にしなくて良かった、と心からそう思うのである。
「ああ、それと。作戦時にもしも可能なら敵との交渉をしてみるといい。もちろん出来れば、でいいよ。無理にする必要はない。だけどそんな駆け引きを楽しむのもいいかもね」
そう言ったカズは少しだけ口角が上がっていた。
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