20.[裏表のない]人格に育ってしまったのだ-やはりゼロフォーのポテンシャルは高い-
全48話予定です
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ゼロフォーは望むと望まざるとにかかわらずそんな生活をしていたので、他の孤児院の子供たちとは接する機会が余りなかった。十歳から五年半という、その後の人生観を形成するこの時期に大人としかいられなかったのは、それもまともでない大人としかいられなかったのは、ゼロフォーにとっての人生としては痛かった。人間関係の構築法を学ぶ機会を、特に同年代の子供との人間関係の構築をする機会を得られなかったのである。
だからかも知れない。自分から[あれがしたい]とか[これがしたい]や[これが欲しい]というような、自発欲求というものがゼロフォーには全く見られなかった。出された食事にも文句を言わず、理不尽ともいえるような事でビンタを思いっきり喰らっても表情一つ変えずにいたのだ。
事実、大人の言う事に一度たりとも不満を漏らした事は無い。本当の意味で[裏表のない]人格に育ってしまったのだ。いや、人格と呼べるのか、それさえも微妙である。何しろ自発行動が殆どないのだから。
人なら当然持つであろう[羨ましい]とか[悔しい][憎い][楽しい]それらのほとんどが出てこないのだ。同年代の人たちにも常に敬語を使い、言われた事をやる。それが倫理的にマズい事でも、である。
事実、それを象徴づける出来事があった。
一度だけではあるが、カズがゼロフォーを研究所に連れてきた事がある。そこでこれから自分がされるであろう、脳摘出術の話を聞かされた時も[分かりました、従います]と鰾膠もなくそう言い放ったのだ。
そして、カズが立ち合わせた被検体の死。これから廃棄処理される、まだ意識のある被検体を目の当たりにしても表情一つ変えない。
そんなゼロフォーにカズは、
「かわいそうだと思うかい?」
と聞いた。
その答えは、
「そう思う思考が出来ません。かわいそうだ、とマスターが言うように命令してくださればそうしますが」
だった。
死の間際、そのスイッチをカズはゼロフォーに握らせ、
「このスイッチを押せば人が一人、目の前の人間が死ぬんだ。それでもきみはこのスイッチを押すことが出来るかい?」
そう問うた。
ゼロフォーの回答は、
「それは、このスイッチを押す事をためらうという行動をとればよろしいのでしょうか?」
そんな調子だ。
更には、
「押せるかい?」
の質問にも、ためらうことなくボタンを押したのだ。
その姿は何一つ動揺がない、まるで予定調和のように進めたのである。
そんなゼロフォーにカズは、他のサブプロセッサーとは別の、ちょっとした感情を抱いていた。それは自分が指示した実験のせいでこうなった、という引け目があったのかそれとも。
――ゼロフォーは特別だ。実験で失ったものも多いが、それ以上に成長してくれた。ただ、人間らしさは学べなかった。
だから今、こうしてゼロフォーをしきりにかまっているのである。カレルヴォと組ませたのもその一環だ。そしてカズの読み通り、ゼロフォーの心には彩がついて来た。
本来、兵器としてだけ見るのであれば、心などという余計な感情はは不要なものだ。それは戦場で感情に流される危険性をはらんでいるから。だか、まったくの無感情というのも兵器として以前に、モノを考える個体としてどうなのか、そんな考えがあっての事なのだ。
それにカズには少しの引け目が無い訳ではない。元をただせば自分たちの研究がした失敗からこうなったのだから。しかしカズは失敗をそのまま失敗にさせない。逆に好機ととらえて更なる実験を、[赤ん坊]を[パイロット]にするように命じたのだ。
結果、
――やはりゼロフォーのポテンシャルは高い。確かに旧エストニア戦ではちょっと失態もあったが、それを差し引いてもこのポテンシャルは異常ともいえる。そんな[彼女]をそのままにしておくのはもったいない。[成長]という名の実験にもう少し付き合ってもらおう。
無人機構想、それは政府も内々に打診して来ている次世代構想だ。カズは次の戦闘をそれの実験場にしようというのである。もしも軍の情報が間違っていればそれでも良しだ。旧イエメンはそのままにしておくにはエルミダスからあまりにも近すぎる。戦火が飛び火している現在、その戦火が旧イエメンに波及するのだけは避けたい、だから仮に情報が間違っていたとしてもそのまま占領してしまおう、と。
そして、もしも第三陣が別の場所に現れたら、その時はクリスを指揮官機としたゼロファイブたちが出ていく、そんな作戦なのだ。
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