19.必要になって来るのが艦隊なんだけど-これは本格的になって来たな-
全48話予定です
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――そうすると必要になって来るのが艦隊なんだけど。
「そう言えば、機動部隊がこちらに向かっているという話、あれはどうなりましたか?」
戦力増強の為に米州から出している、イージス艦を旗艦とする艦隊の事である。
「それについてはもう一週間もすればそちらに到着予定だ。今回被弾した艦船を修理に入れているその補充になると思うが」
それはそうだ、イージスシステムが組めれば防空力、対地攻撃性共に飛躍的に向上する。
「艦隊指揮は私の領分ではないので何とも言えませんが、敵が現れる前に向こう岸に向かうという話でいいんですよね?」
と聞く。それについて、
「そうだ、敵が現れる前に占拠する。無論、一般市民への被害は抑えてだ。そこで敵が現れるのを待つ、と。上陸作戦になるにせよ、空母を主体とする艦隊で攻めてくるはずだ。そして上陸部隊であるレイドライバーは原子力潜水艦で現れるはず。とすれば、主要な港を押さえれば敵は上陸すらできないからな。港湾施設については破壊も検討している」
――これは本格的になって来たな。ちょうどいい試験になりそうだ。
ゼロフォーを指揮機とするレイドライバー部隊の話である。現況で向かわせられるとすればそれが一番だからだ。今回もレイリアやクリスは出せない。レイリアはカズとワンセットでないと出られない。義手の件があるからだ。
トリシャについては[再調律]が必要だ。無論、今のままでの出撃というのも考えに入っていない訳ではないが、優先度が低い。もしそれをするのであれば、クリスに指揮官として向かわせるという手が考えられる。だが、今回の狙いはゼロフォーを指揮官機とした[無人機]の実験なのだから。
――そういう意味でもゼロフォーには色々な試験をクリアしてもらおう。
カズはしきりにゼロフォーの事をかまう。これには理由が存在する。それは数あるサブプロセッサーの中で一番性能がいい、つまりよく働ける個体である点、感情が希薄なため過酷な命令にも躊躇がない点である。それはもちろんゼロツーやゼロスリーが劣っているとは考えていない。しかしカズは一人だ。そうまんべんなく見ていられる訳ではない。必然、個体数を絞って観察を、となるのである。
――それでもゼロフォーに寄せるもの、それはやはり一度白紙になったというポテンシャルの高さかな。
ゼロフォーは過去に一度、記憶のほどんどを失うという経験をしている。それは研究所が施した施術の失敗が原因だった。
元々頭の回転のいいゼロフォーの頭脳を更に生かそうと考えた研究所は、言語野と呼ばれる部位には手を付けずに残して、海馬を通じて記憶野である大脳皮質に消去命令を書き込もうとしていた。
それは、おそらく職員たちの余裕からくる油断だったのだろう。一期生を育てている間に脳科学は本当に飛躍的に進化した。
自我のあるサブプロセッサーはゼロゼロが初であるが、その成功のあと直ぐにネイシャ以下のサブプロセッサーが作成されたのだから。
急速な進化の途中のほんのひと時の油断、それが事故を招いたのだ。そうして気が付けば、十歳の[赤ん坊]が出来上がってしまっていた。
本来なら実験の失敗は基本、廃棄である。
だが、カズがそれを止めた。
廃棄を止めたその真意は何処にあったのか、それはカズ本人だけにしか分からない。もしかしたら失敗した職員をかばったのか、それとも何か別の意味を見出していたのか。
ただ、確かな事は、カズから[この娘を五年半で使える状態にしろ]と孤児院に命が下ったのだ。
そのあとの初めのくだりはそれは大変なものだったという。
何と言っても体は十歳、記憶はなく、言葉もろくに喋られない。そんな、文字とおり[赤ん坊]同然の娘を五年半でパイロットと同等のモノにしろ、というのだから一筋縄では行くはずもない。だが、今になってみれば、それを差し引いても余りある彼女のポテンシャルだ、という事だったのだろう。
幸い、生理機能までは消去されてはいなかった。つまりトイレくらいは自分で出来るのである。なので、先ずは言語の習得から始まった。
孤児院の、カズからその命を言い渡された職員は、それはしばらく生きた心地がしなかっただろう。期限付きで[赤ん坊]を[パイロット]にしろ、というのだから。達成できなければ自分がどうなるか。
だが大方の人間の予想に反してゼロフォーは次々と言語を習得していった。苦労したのは第一言語を覚える辺りまでで、それがクリアできる頃には第三言語まで手を付けていたし、言語が、意思疎通が出来るようになればあとは加速度的に進んだ。
失敗したとはいえ記憶野に何も入っていない人間だ、更に言えば元々頭がいいとくればそのポテンシャルは計り知れない。もしかしたらカズはこれを見越していたのかも知れない。
ではそんな逸材を、何故パイロット候補から外したのか。
それはあまりにも自我というものが希薄だったからに他ならない。
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