16.トンボ帰りで戻ってきました-ゼロフォーをパイロットとして乗せる計画でいます-
全48話予定です
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研究所では着々と準備が進んでいた。
先の二個のサブプロセッサーは互いに[子供]を作らされて、レイドライバーの重要箇所に配置され、組織培養されて作られた子宮システムとも呼べるユニットをハイロットが乗る位置に固定してそれぞれ接続していく。初めはバラバラだった部品が、あれよあれよという間に組みあがっていき、レイドライバーの形になって来るのである。
「ああ、所長。おかえりなさい」
アイザックが出迎えてくれる。ここまでに数日が経っている。
「トンボ帰りで戻ってきました。先の補充の際に予備機としてとっておいた機体がありますよね? それを使おうと思いまして」
カズはそう切り出す。
「え? ああ、はい、とってありますが、パイロットが見つかりましたか?」
当然だ、そう返しておかしくはない。そのアイザックに、
「ゼロフォーをパイロットとして乗せる計画でいます」
ハッキリとそう言う。
「それはまさか、サブプロセッサーだけで部隊を作る、と?」
――話が早くて助かるよ。
カズはゼロフォーにも話した事をそのまま伝える。これは実験なのだ、と。
「で、ゼロフォーは失いたくない、と」
だから改修された機体に乗せるのである。
「そう。正直なところ、あの二個のサブプロセッサーは戦死の可能性も視野に入れています。だが、ゼロフォーはそういう訳にはいかない。なんといってもポテンシャルが高いし、戦績もある。そんなサブプロセッサーを[使いつぶす]のは得策ではない。だったら指揮官機として使おう、とね」
それは、いざとなったら二体を盾にするという、今回のようなケースを想定しているのである。
トリシャは今回、確かに命令には従ったが、敵将校の意見を丸呑みにするという[そそう]をしてしまった。それは正直カズが望んでいる結果とは違う。
たしかにレベッカとゼロシックスという貴重なリソースを持ち帰ったのは肯定する。ただでさえパイロットもサブプロセッサーも足りない現況では正直助かる、というのがカズの偽らざる本音だ。だが相手の提案を飲むなど、それもこちらの意見を入れずに丸呑みしたと言うのは駄犬が[そそう]したのと変わりはない。
だからトリシャにはしばらく[自分]と見つめ合う時間を作った。暗室に閉じ込めて手足の自由を奪い、繰り返しカズの言葉を聞かせる。カズの予定で行けば[壊れるかどうかスレスレのところ]までそのままにしておくつもりだ。
しかし、これはただでさえ少ないレイドライバーの頭数を減らす結果につながる。確かにゼロツー単体で動かす事は出来る。しかしながらパイロットはお灸を据えられている。必然、本領発揮が出来るとまではいかない。サブプロセッサーはあくまで[サブ]プロセッサーなのだし、パイロットの子宮があって初めて[独特の間]が消せるのだから。だからメインプロセッサーにはなれていないのである。
整理しよう。
現在、同盟連合が所有しているレイドライバーの数は七体だ。ゼロゼロ、ゼロワン、ゼロツー、ゼロスリー、ゼロファイブ、ワンワン、ワンツーで全部である。ここからゼロツーが抜ければ残り六体だ。敵は何体持っているか不明だが、少なくとも同程度以上は所有していると考えるべきだろう。
ではどうするか。
ここにゼロフォーを指揮官機とするサブプロセッサー部隊が三体追加されれば、十体にまで増量できる。そうすれば第三陣が危惧される現在、派兵というオプションが採りやすくなるのである。
「所長は第三陣の可能性はある、と?」
アイザックが聞いてくる。
「ええ、第三陣がどこかによりますが、それ如何によっては第四陣、五陣も視野に入れておかないと」
――上は本当に面倒な事をしてくれたよ。まぁ、オレたちにも益があったから、おあいこだけどね。
先の日本奪還作戦の話である。日本という国を奪還するのにレイドライバーという兵器を大々的に宣伝した形になった。それは[戦場はここアルカテイルだけではない]というメッセージを発信したのと同義だ。だから帝国は[その気なら乗ってやる]とばかりに第一陣の旧エストニア戦、第二陣である南米の旧アルゼンチン戦を仕掛けてきたのだ。そして結果はと言えば一勝一敗、つまりはイーブンである。
――次は何処に仕掛けてくるのか。向こうは原子力潜水艦でのレイドライバーの輸送という手段を手に入れた。こちらがその手段を手に入れるにはもういくばくかの時間が必要だ。それまでは現在の体系を維持しないといけないんだ。
カズの苦労は尽きない。
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