12.で、無事に戻って来た、と-もちろんそのつもりだよ-
全48話予定です
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「で、無事に戻って来た、と」
ここはエルミダス基地のプライベートルームである。
この基地には完全防音のこの設備が存在している。それはここが前線だった頃、レイドライバーの運用について様々な制約があったからだ。その一つが、パイロットにさえ知らされていないレイドライバーが動く仕組みである。
第一世代と呼ばれたレイリア、トリシャ、クリスの三人にはその秘密が一切明かされてこなかった。更に言えば、コアユニットの存在も一般整備士には知らされていなかったのである。重要箇所の整備はもっぱらヤマニ主任が一人で行っていて、コアユニットやサブプロセッサーの[世話]は医療班の主任が一人で行っていたのだ。
それが三人ともカズを主人とする主従関係を結んだことで状況は変わった。それには自我のあるサブプロセッサーの登場も大きく関与している。コアユニットは現在、カズとレイリアの機体にのみ存在しており、その存在もパイロットの皆が周知している。流石にゼロフォー以降の二期生には話していないが、それも絶対の秘密、という訳でもなくなった。
だが、依然として自我のあるサブプロセッサーというのは、一般整備士には公開されていない。パイロットがいない時間はサブプロセッサーがレイドライバーを自分の躰として使用しているのだが、整備士の前ではうかつに動かないようにと言われている。もちろん、整備を受ける際は回路を遮断してレイドライバーとは分離した状態で受けている。ボルト一本絞めるのに当のレイドライバーがピクピク動いたのでは話にならないからだ。
だが、三人のパイロットには情報が開示されたのだ。
そして現在では自分の機体にあるサブプロセッサー用の栄養は自分たちで取り換えている。そう、整備士が手を出せないところは自分たちで行う、そんなシステムが出来上がったのだ。
戻って、以前はそんな事情から、何かある時はこの部屋を使用していた、という訳だ。
ここには当然だが盗聴器のようなものは存在しない。まさしく[密室]なのである。
「はい、戻ってきました」
と答えるトリシャは明らかに上気している。
――なるほど、マゾヒズムが強く表れている、と。
カズは相手の表情や仕草から冷静に見定める。その結果によっては[調律]の仕方を変えなければならないからだ。
「正直に言ってごらん、レベッカ准尉が自分の前で盾になっていた時、どう思っていた?」
ズバリ核心を突く。その言葉に、トリシャは素直に反応していた。
ハッキリと上気していたのを認めたのだ。その上で、
「私は貴方との約束を守れなかった。そんなだらしのない犬に罰をください」
あのトリシャが自分を指して犬と呼んだのだ。
「もちろんそのつもりだよ。それ用の設備も用意してある」
カズはそう言うと自分が座っていた台を空けて、
「これからきみにはしばらく[待機]を命じる。目隠しとイヤホンをしてこの中に入るんだ」
という言葉に素直に反応して自分からその台の中に入る。
それはちょうど棺桶のような形をしていて、ひと一人が入れるスペースがある。
カズはトリシャが入ったのを確認してから彼女の四肢に枷をしてインカムを付け、頭になにがしかの機械を被せて、
「これからこの中で[待機]するんだ。そう、イヤホンからは色々な言葉が流れてくる。それを受け入れるんだ」
「いつまでそうしていればいいんですか?」
いつになくしおらしい。
「オレがいい、というまでずっと。食事とトイレは心配しなくていい。その処置はしてあるから」
枷を嵌めると同時に流動食と排泄用のパイプも用意していた。
ここにはヤマニと医療班の主任以外が触れてはいけない[整備部品]がまだ残されている。それの中身のひとつがこれだ。コアユニット用の循環装置、それを持ち出してこの部屋の中に持ち込んだのだ。
そこまでしてから、
「もしかしたら、きみは性格が変わってしまうかも知れない。これはある意味で[調律]に相当する。一期生のきみたちには[調律]というカリキュラムは無かったからね。しばらくこの中で[自分]と向き合うんだ。その結果がどうなるかは次に蓋を空ける時に確認しよう」
そう言って蓋をしてカギをかける。
――ちょっとお仕置きかな。
カズはそんな事を考えながらこの部屋をあとにした。
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