10.きみとて戦闘をするからといってそれが嫌な訳ではないだろ?-もちろんです-
全48話予定です
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「では、私たちはそのまま行軍を続ける、と?」
――旧イエメンが最終目的地ではないの?
シュエメイは旧イエメンに行ってからの先を見ていた。
「ああ、第三陣である今回の旧イエメン行きは布石に過ぎない。おそらく同盟連合はこの地を取りに来る、と踏んでいる。そうなれば戦闘は避けられない。だが、きみとて戦闘をするからといってそれが嫌な訳ではないだろ?」
と問うてくる。
それには、
「もちろんです。我々は戦闘員です、戦場が怖くて戦いには出ていません」
それも本音である。だがシュエメイは[捨て駒]にはなりたくない、ただそれだけなのだ。そして生き残れれば、これこそ万事うまくいった、となるのだ。
「もちろん、実際に旧イエメンに、レイドライバー二体の駐屯では少し心もとないかも知れない。だが、少し考えてみてくれ。同盟連合がその主力部隊を我々に向けたとすればどうなるかを」
――もちろん、その選択肢は取りづらい。
それは薄々シュエメイは分かっている事だ。挟撃という構えを見せれば、敵は旧イエメンを落としにかかるだろう。そうすれば相当数のレイドライバーが動員されるはず。となればアルカテイルに駐屯しているレイドライバーの数量が減る計算になる。そこへ隣街であるグランビア市に現在展開している味方機たちが襲ったら?
クラウディア少佐から聞いたクロイツェル参謀の話では、敵には策士がいるとの事。であればなおさらその可能性に気が付かないほど間抜けではない。
敵はどう出てくるか。
もしかしたら戦闘になるかもしれないし、ならないかもしれない。
戦闘、それ自体は怖くはなくなった。だいぶ慣れたと言ってもいい。だが、その相手がレイドライバーとなれば話は変わって来る。命の危機が出てくるからだ。機械化部隊相手なら正直負ける気がしない。だが、レイドライバーが相手なら? それも対多数戦闘になれば? 疑問は尽きない。
「たら、れば、で戦闘は語れないが、少なくとも今回の派兵が[捨て駒]の布陣には見えないと思うのだよ」
とイリーナが返してくる。
――確かに、これなら我々が捨て駒になる可能性は低い。それに、原子力潜水艦に搭載出来るという点を見れば私たちの乗っているこの機体は最新モデル、つまりは見捨てられる可能性は低い、か。
「これはまだ内々の話なので先が見えていないが、ここに駐屯した状態で参謀は同盟連合との話し合いを持つおつもりらしい。そこでどのような話がされるかは不明だが、もしもそこでの話し合いに折り合いがつけば第四陣の可能性もある、と」
――つまりは戦線を拡大する訳ですね。
シュエメイにしてみれば戦線の拡大はあまり嬉しい事ではない。それは誰にだって言えるだろう。上はただ命令するだけで済むかもしれないが、実際に動く下はたまったものではない。そして、対レイドライバー戦。出来ればこれだけはしたくない、と考えてしまうのは今回の戦闘を経験すれば当たり前の話だろう。
「我々は、しばらく帰られそうにないですね」
そんな風にシュエメイは、ただ純粋に思ったのだか、
「すまない」
どうやら別の意味に捉えられてしまったようだ。
「い、いえ、決してそのようなつもりではないんです。ただ、自室で読書をしたいな、と思っただけで」
実際、この二人の組み合わせは悪くないのかも知れない。同盟連合に捕縛されて[何某かあったかもしれない]イリーナと、味方機を盾にして恍惚の表情を浮かべていたシュエメイと。
「まぁ、長旅になると思う。よろしく頼む」
「ええ、こちらこそよろしくお願いします」
二人はまだお互いの顔を見てはいないのである。
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