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5. 作詞披露会

 学園生活は順調に過ぎていった。


 全ての授業に問題なくついていけているし、友人も何人もできた。放課後は生徒会室に集まり、仕事を手伝ったり皆で雑談をしたり、毎日が楽しい。




 そんな中で、学園の女子生徒だけを集めた作詞披露会の授業が行われた。これは課題となる曲に合わせて各々が作詞した歌詞で歌を披露するもので、個々の音楽センスが問われる授業だ。

 人数の関係で学年関係なく何組かに分けて行われているのだが、私が出席したクラスにはセレスティア様やミランダ嬢もいた。


 上の学年から順番に歌が披露されていく。


(セレスティア様……、さすがだなぁ。美しいわ……)


 オリバー殿下の婚約者であり生徒会の副会長も務めているセレスティア様の歌声は、見事なものだった。まるで歌劇女優のよう。悲恋をテーマにしたその歌詞の世界観もとてもロマンチックで、皆がうっとりと聴き惚れている。まさに全女子生徒の憧れのご令嬢だ。


 だけど……、


(……あのねぇ、ちょっと静かにしてくれないかしら。あなたの!お姉様が!披露している最中なのよ?!黙って聞いていられないわけ?!え?!)


 私の斜め後方の席に友人たちと並んで座っているミランダ嬢が、姉の歌そっちのけでずーっとぺちゃくちゃぺちゃくちゃ喋っているものだから、せっかくのセレスティア様の美しい歌声を聞くというありがたい機会が台無しにされている気分だ。やかましくてイライラする。


「……でね、この髪飾りレイモンドも気に入ってくれたみたいなの。すごく似合ってて綺麗だって。そう言ってくれたのよ。ふふふ。私生徒会へ行くのが楽しくなってきちゃって。やっぱり彼って素敵よね」


 ……聞かせてる?ねぇ。もしかして私に聞かせてるの?腹立つんですけど。レイに髪飾りを褒めてもらえたから何だって言うのよ。どうでもいいわこっちは、残念ながら。黙っててよ。


「あとね、彼の親友のアシェル様がね、……そうそう、バーンズ侯爵令息よ。彼って会うたびにいつも私のこと可愛い可愛いって褒めるのよ。ふふふ。さっきもすれ違う時に話しかけられちゃったわ。やぁミランダ嬢、今日も相変わらず可愛い。俺の婚約者があなただったらなぁ~ですって。うふふふふ。……えぇ?やだぁ、そんなことないわよ。別に私がモテるわけじゃないのよ。ふふふふふ」


 はいはい。あのタイプの愛想の良い殿方は、大抵の女性にはそういうこと言っちゃうんです。もうそういう性分なの。いちいち真に受けずに受け流しておくものなのよ。


 あとね、生徒会のトビー様がね、イーデン様がねジュリアン様もねうふふふふ、といつまでも男の話ばかりが続いている。聞いている友人と思われる令嬢たちはどう思っているのだろうか。にこにこしながら相槌を打っているけれど、本当は先輩方の歌が聴きたいんじゃないかしら。ただ立場的に不満を言えないだけでは……。


 私はたまらなくなって、つい振り返り、小さな声で苦言を呈した。


「……ミランダさん、悪いんだけど少し静かにしてくださる?先輩方の歌を集中して聴きたいのよ」


 王太子殿下の婚約者の妹君であるミランダ嬢に注意した私に、周りのご令嬢方が一様にギョッとした顔をする。学園では身分に関係なく平等に過ごすことがモットーだとはいっても、やはりこの公爵令嬢に文句を言う人など誰もいない。


「……あら。そう。ごめんなさいねグレースさん」


 ミランダ嬢は憮然とした顔でそう言った。

 私がくるりと前を向くと、すぐさまヒソヒソと聞こえてくる。


「……ほら、……レイモンドが、私に優しいから……ええ。……悔しいのよ、きっと……」


 だから違うから!!




 結局ミランダ嬢のせいで先輩方の歌をじっくり聴くことができずガックリしながら、自分の順番が回ってきた。私は平和をテーマに作ってきた歌詞を丁寧に歌い上げる。


「とても素晴らしいわ、エイヴリー侯爵令嬢。特に“美しい夢を”と“安らかな未来を”のところは柔らかなメロディーに合っていてとても素敵でしたわ」


 パチパチと拍手を受けながら私は席に戻った。しばらくするとミランダ嬢の番が回ってきた。




「ああぁ~~ぁぁあぁ~~♪降り続く~雨ぇぇぇ~がぁぁ~~♪わたしーのーー心のようねぇぇぇえぇ~♪わたしのこころがあめのようになみだをながしてやがてとけていくふぅぅう゛うぅぅう~~ん♪」




「………………。」



 全くリズムに乗れていないし、無理矢理歌詞を詰め込んでいるし、音程もズレているし、そもそも歌詞の意味が分からない。何?やがてとけていくふぅぅって。何がテーマ?この人本当にあのセレスティア様の妹なの??

 記憶違いじゃなければ、この人たしか隣国ロゼルア王国のライオネル第二王子の婚約者よね?大丈夫なの?隣国に嫁がせるの、本当にこの人でいいの?ねぇ。


「……はい。クランドール公爵令嬢、いいでしょう」


 “いいでしょう”じゃないわよ先生も。諦めないでよ。忖度しないでよ。








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