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44. 交渉の結果(※sideライオネル)

(……なるほどな。こいつの言いたいことはよく分かった)


 ただの政略結婚の相手同士だろうと高をくくっていたエイヴリー侯爵令嬢とベイツ公爵家の次男は、どうやら互いに想いあう恋人同士だったらしい。


「……だからと言って、どうしろと?選びに選び抜いた、このロゼルア王国第二王子の妃となるべき女だぞ。お前の弟と好きあっているからと言って、はいそうですかと引けというのか」

「……。」

「こちらに何のメリットがある」

「……。同じくらい優秀な令嬢を……紹介する」


 ケインはプルプルしながら俺を睨むのを止めない。困ったものだ。


「そんなものはいらん。他の高位貴族の令嬢たちについてはだいたい調べてある。未婚の令嬢たちの中に、まあこれならと思うような子はいるにはいたさ」

「なっ、ならっ!」

「だけど俺はエイヴリー侯爵令嬢が最も相応しいと思った。だから選んだんだ」

「……惚れたんだろう」

「……。……いいや」

「嘘つけ!何だ今の間は!このっ、泥棒!!返せ!!」


 ギリッと歯噛みする音が聞こえ、護衛たちがケインを取り囲むように距離を詰めはじめた。あー面倒くせぇな。


「いいって言ってるだろうが!離れろお前ら!……なら、何か見返りをよこせ、ケインよ」

「……。……みっ?」


 フーフー言いながら必死で俺に牙をむいていたケインは、俺のその言葉を聞くなり、子どものようにキョトンとした顔をする。ボッサボサの頭で。その様子があまりにも滑稽で、思わず笑いが出そうだ。


「そうだ。ただ結婚を取り止めろと言われても納得がいかん。どうしてもエイヴリー侯爵令嬢を弟に返して欲しいのならば、何か、俺がこれならと納得するようなものを持って来いよ。……女はいらんぞ」


 ケインは口元を引き攣らせ、奇妙な感じに顔を歪めると、またプリプリと怒りながら部屋を出て行った。

 最後まで馬鹿!だの、ボケ!だの、何やらボソボソと俺に対する呪いの言葉を吐きながら。


(……ふ。さて、どうなることやら)




 そういうことなら、まあ唯一無二の友人の頼みでもある。エイヴリー侯爵令嬢のことは諦めてやってもいい。……という気持ち半分、いやだが俺だってできれば彼女がいい。優秀かつ惚れた女が一番いいに決まっているだろうが、という思いも半分あり、どうしてやろうかなぁと数日間頭を悩ませていた。







 そんな時、再びケインが現れた。


「……なんだお前、また来たのかよ。もう掴みかかってくるなよ、斬られるぞ」


 頬杖をついたまま面倒くさそうにそう声をかけながらも、俺は内心楽しみにしていた。さて、一体どうするつもりだろうか。何か見返りらしきものを持ってきたのか、それとも……。


「……ん」


 口を真一文字に引き結び、不機嫌そうな顔で、ケインは俺に何かの紙の束を差し出してきた。


「……何だよ」

「これを、やる」


(……?)


 やる、と言われても。そこに書いてあったのは、おそらく何かの薬品に関する記述だ。俺にはそれしか分からない。俺もそれなりに薬学を学んだことがあるとはいえ、ここに羅列してあるものの中には見覚えのある記号や名前がほとんどない。


「……これは何だ?ケイン」

「……俺が、作った。薬だ」


 作った薬?何の?


「……まだ、臨床試験していない。けど、……たぶんもう、完成してる。……バオナルウイルスの特効薬だ」

「……。……は?……え?」


 な、何だと……?

 こいつ、……本気で言ってるのか……?


 バオナルウイルスは西の大陸から持ち込まれたウイルスで、いまだどの国でも特効薬は作られておらず、我が国でも近年毎年多くの乳幼児や高齢者や命を落としている。


「とっ……、特効薬、って……、お前が作ったのか……?」

「作った。グレースちゃんを返せ。これをやるから、交換だ」

「…………。とにかく、治験を……。もしこれが本当にバオナルウイルスの特効薬だった場合、我が国の発明薬として世に出すぞ。……それでいいんだな?」

「いい。返せ」

「……。」


 返せ返せと、人を盗人のように……。




 こうしてケインの作った薬のレシピを元に、短期間のうちに何度かの治験が行われた。


 結果として我が国は、薬学の面において世界に先駆け大きな功績を挙げることとなったのだった。









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