35. ミランダの受けた罰
「そ……っ、それで、その、結局どうなって……」
「一応ね、今のところ今回の件はこの四人だけしか知らないわ。ミランダ以外にはね」
……重すぎる秘密を一緒に背負ってしまった……。知らない方が気楽だったかもしれない。
「ベイツ公爵令息にもらった薬で症状が軽くなってきているから、このままどうにかなりそうだし。でも今後はどうなるか分からないわ。ミランダの素行が改善されないようなら、これ以上大事になる前に、私から両親に全て打ち明けるつもりよ。……ふふ、あなたたちには絶対に見せられない姿だけどね、私って、実は本気で怒る時すごく怖いの。意外でしょう?ふふ。学園では一度もそんな姿見せたことないけれど、今回の件ではあの子が失禁するまで叱って、痛い目見せておいたわ」
「え……?!」
思わず声が漏れてしまった。あれより……?あの、時折見せる凍てつく空気を発しているあの怒りよりも、もっと怖いの?失禁するほど……?
「お尻も皮のベルトで百叩きしたわ。しばらくは椅子に座るのも地獄なはずよ。ふふふふ」
「…………っ、」
この女神のような美しい微笑みに、狂気さえ感じる。私はむしろミランダ嬢に対して、初めてわずかな尊敬の念を抱いた。こんな恐ろしい姉がいて、よくもまあそんなに遊び回ろうという気になれたものだ。バレた時の恐怖を思えば、大人しく勉強だけしている方がどれほど楽だろうか。
本当にいろいろと……不思議な人だわ。
「……お疲れ様でした、セレスティア様……」
「ありがとう。あなたにも迷惑をかけた上にこんな聞きたくもないクランドール家の醜聞を聞かせてしまって、ごめんなさいね」
「あ、あは。いえ」
「……さ、こんな話はこれで終わりにしましょうね。もうすぐ学園舞踏会よ。冬季休暇前の大きな行事だわ。私たちも頑張らなくてはね」
「は、はいっ。あ、広報誌の記事が出来たんです。目を通していただいてもよろしいですか?」
「ええ、もちろん。あなたはいつも仕事が早いわねぇ」
こうしてひとまず、この件についての話は終わった。
冬の大きな行事である学園舞踏会に向けてダンスのレッスンに励む傍ら、私たち生徒会のメンバーはその準備に奔走していた。といっても、あくまで主催するのは先生方。私たちは舞踏会が行われる大ホールの片付けや飾り付けを手伝ったり、表彰者に与えられるメダルや花束を手配するのが主だった。
あの一件以来、学園ではまるで別人になってしまったかのように大人しく過ごしていたミランダ嬢だが、舞踏会が近づくにつれ次第に元の調子を取り戻していった。
「うふっ!いよいよね~学園舞踏会!ね、レイ、私をちゃんと誘ってちょうだいね」
「……。」
何が“ちゃんと”誘ってちょうだいね、よ。なぜレイがあなたを誘わなきゃいけないわけ?私の婚約者よ。私の。
生徒会室の中、長テーブルの向こう側から聞こえてくる会話をスルーしつつファイルの整理をしながらも、私の心はモヤモヤしていた。
ところが、
「はは。……ああ、グレースと踊って、その後タイミングが合えばね。君は大勢の男たちからの誘いがあるだろうから」
レイはミランダ嬢を華麗にあしらっている。
(……ふぅん。まずは私と、って考えてくれてるわけね。……そう)
普通学園内に婚約者がいれば、その相手と真っ先に踊るのはもはや暗黙の了解というか、慣例的なもの。誰でもそうするらしい。だから何も特別なことではないのだけれど、こんな些細なことでも私の心は一気に浮上するのだった。
熱を持ちはじめた頬を隠すために、私はレイたちから顔を背けるように立ち上がって、ファイルを本棚に戻しに行く。
あの日、私の実家であんな雰囲気になって以来、私たちの間に何か特別な変化があったわけじゃない。学園にいる間はごくごく普通に会話をしたり、それぞれの友人と過ごしたり。だけどあの日以来、私の中でレイの存在はますます大きなものになっていた。
(……もしもあの時、父が乱入してこなかったら……。私たちは、どうなっていたんだろう)
何度も何度も、そんなことを考えてはその先を想像して一人で赤面していた。
「……。……っ!」
チラリとレイとミランダ嬢の方を見ると、たまたまこちらを見ていたレイと目が合った。
「……。」
レイは優しく微笑み、私は気恥ずかしさにゆっくりと目を逸らした。




