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政略結婚予定の婚約者同士である私たちの間に、愛なんてあるはずがありません!……よね?  作者: 鳴宮野々花@書籍4作品発売中


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17. 情緒が安定しない

 ステージから流れてくる音楽を聴きながら、右手にレイの手の温もりを感じつつ、マーケットを歩く。何だか急に気持ちが落ち着いて、でも鼓動はいまだ乱れている。それが妙に心地良い。


「……?」


 ふと見ると、前方のお店に身なりのいいカップルたちの人だかりができているところがあった。私は気になってスタスタと覗きに行く。私の手を掴むレイの力がギュッと強くなった。また勝手に離れてどこかに行くとでも思ったのだろう。されるがままに手を握られた状態で、私は人だかりの奥から背伸びをする。


「っ!……まぁ……っ」


(すごく可愛い……っ)


 人波の間からチラチラ見えるそれは、小さなピンブローチとネックレスが対になってケースに入っている品物のようだ。いくつもの種類があり、それぞれが同じ色の宝石で作られているみたい。エメラルドのピンブローチの隣には、同じ形のエメラルドのネックレスといった具合に。小ぶりで可愛い。なるほど、男性がピンブローチを、女性が同じデザインのネックレスを着けるってことね。


「やっぱり私あれがいいわ、ガーネットの」

「ようやく決めたかい?じゃあ、それを頼む」


「はぁぁ……値が張るなぁ……」

「ちょっと!ケチくさいこと言わないでよ!こんな小さな宝石なのよ?!大したことないじゃない!今日の記念でしょ?」


 恋人たちは楽しそうに自分たちのための品物を選んでいる。


(ふふ、可愛いなぁ。んー、私ならあれがいいな。あの丸くて小さいサファイアの……。今日のドレスにはピッタリだわ。レイの服にも合いそう……)


「欲しいのか?」

「っ!!」


 長く見すぎていただろうか。レイがひょこっと私の顔を覗き込んでそう尋ねてきた。


(……しまった。物欲しげに見すぎたかしら……)


「い、いいえ、別に。珍しいから、つい」

「そうか」


 咄嗟に否定してそのお店を通り過ぎた後で、私は少し後悔した。もし、素直に欲しいと言っていたら、レイはどうしたんだろうか。



『……は?まさか俺とお前が揃いで?あれを?冗談じゃない』



「……。」


 頭の中のレイが嫌そうにそう言った気がして、やっぱり言わなくてよかったと思った。そんなこと言われたら腹が立ちそうだし、……まかり間違っても傷付いたりしたくない。

 そんなことで私はいちいち傷付かないとは思うけれど、今日の私は何だか情緒不安定だから。




「日が沈んできたな。メインの歌劇がもうすぐ始まるんじゃないか」

「ええ、そうね。楽しみだわ」

「グレース、そこのベンチに座ってちょっと待ってろ。飲み物を買ってきてやるから。動くなよ」

「分かったわ」

「絶対にそこを動くなよ」

「分かったってば」

 

 よほど私が危なっかしいのだろうか。念を押してチラチラと振り返りながら、レイは出店の方に歩いて行った。


「……ふぅ」


 最初はどうなることかと思っていたけれど、レイと二人で出かけるのも案外悪くない。意外にも喋っていたら楽しいし、私に対して細やかな気遣いを見せてくれるのも嫌じゃない。どこへ行くのも、ずっと私のペースに合わせてくれている。


(そうなのよねぇ。レイのことを悪く言う人って本当にいないのよ。あのハイゼル侯爵令息ぐらいじゃないかしら、嫌っていたのは)


 私には常に塩対応ではあるけれど、実はあの人は気遣いができて空気が読めて、そして女の子に対しては特に優しい。


(結婚相手としてはきっと悪くないんだと思うわ。今日のレイの私への態度を見る限り、お互いに上手いことやれば家庭の中がギスギスした雰囲気になるなんてことはなさそう……。望まぬ政略結婚なんだから結婚までは自由にしていようとは言われたけれど、それだけ。お前を嫌いだとか、俺に近付くなとか、そんな露骨に嫌な態度を見せたりはしないのよ、あいつは)


 ……うん。レイとはきっと大丈夫。上手くやっていけるはず。


(……。……それにしても遅いな……)


 なかなか戻ってこないレイを心配して、彼が歩いていった方向に顔を向けると、


「……は?」


 遠く離れたところに、飲み物や何かの袋を手に持ったレイが立っているのが見えた。


 ……女の子たちに囲まれて。


「……遅いと思ったら……まったく……」


 身なりのいいご令嬢たちの何人かには、見覚えがある。同じ学園に通っている子たちだ。その中の一人が親しげにレイの腕に触れてポンポン叩いている。あはあはうふふと声が聞こえてきそうなほど、皆楽しげだ。レイも優しく微笑みながら何やら言葉をかけている。


(……帰ってやろうかしら。何よ、大事な婚約者を放っておいて)


 ご令嬢方へ向けたレイの笑顔を見た途端、また私のお腹の底から得体の知れないモヤモヤが湧き上がってくる。

 気持ちを落ち着けようと深く息を吸った、その時だった。


「こんばんは。美しいお嬢さん」

「っ?!」








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