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呪われし勇者の伝説シリーズ/ガーランドのモンスター図鑑「女王蟻」~勇者の見る夢2・闇の王より~ 作者:田中円
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第二章 刑事のレポート

日が高く昇っている。どこまでも続く一本道を歩いていると、その綾瀬の町は姿を現す。勇者は見る。冷たい澄んだ空気に、灰色のくすんだ都市を。
この綾瀬の町は、近隣に大都市を抱えたベッドタウンとして生まれた。高度経済成長で急増した人口は地方からの貧困層の都市への流入を招き、大都市の近郊に野山を切り開いた、台所と居間と寝室だけのビジネスホテルのような集合住宅がいくつも築かれた。植生していた木々達は刈られ、狭い道と、巨大な学校、ショッピングモール、ファミレス、ファーストフード、色の無い、新しい、当り前の人工物が町に溢れた。唯一、それらの支配者である人であり、大都市の労働者だけが、そこで文字通り蠢いた。
人々がひしめき、蠢く度、町はきしみながら歯車を回す。それは巨大な生命体のように思える。虚ろな、徘徊する亡者のような・・・。

勇者達は、一直線に大通りを進んで、町の中央にある警察署へと向かった。

「誰もいないねぇ。虫一つ、鳥一ついないねぇ・・・。ごみ一つ落ちてない。」
「蟻は何でも食うからな。」

勇者は戦いの楽しげな予感に胸震わせて、袋からショットガンを取り出し、弾を込め、カチャリと、スライドを引いておく。

「暴力をしない、させない、ゆるさない。」

中学生の書いた、暴力を無くそうという標語が、黄色い幕に書かれて警察署のビルの屋上から垂れ下がっている。が、それは風で一度ねじれ、途中からは裏側から何とかして読み取らねばならない。パトカーが数台止められているが、屋内の電気は点いていない。勇者は雨避けのある玄関を行き、四角いスリガラスの付いた扉を蹴り開く。

中に、人・・・らしきものは、いた。目を赤く血走らせて、獣のように半裸で、床を這いずり回る者、壁を器用に駆け回る者、机に座って、顎を上下に何度も動かしている者もいた。

「やばいねぇ・・・。」

クラウンが言うが早いか、彼らはこちらを見、奇声を上げるとその姿を巨大な蟻の姿へと変身させていく。アゴが大きく裂け、目の上を突き破って二つの触覚が姿を現す。両脇の下からもう二つの腕が生え、体中の肉が体内の骨の中へめり込んで行き、腹がまるで風船のように膨らんで、巨大な尻が出来上がる。外側へと出た骨はシールドのように体を覆うように広がり、その色を変え、黒光りする甲冑となる!

彼らは勇者を喰らわんと、飛びかかる。

”ズバーン!ズバーン!ズバーン!”

勇者がそれらの頭部をショットガンで撃ち抜いていく。脳ずいが勢い良く飛び散り警察署の壁にぶつかり垂れ落ちる。六体を倒すと、彼は一人一人の名札を確認していく。しかし頭を振る。何匹かのアリを倒しながら、彼は二階の署長室へと辿り着く。扉を開けて、中へ入る。壊れたブラインドが揺れているが、誰もいない。

「危ない!」

クラウンが叫ぶが、勇者は揺れているブラインドを見て察していた。上を見ることもなく、ショットガンを頭上にぶっぱなし、後ろへひらりと飛びのく。
どさり、と落ちてくる死体。彼は名札を見る。そこには、ルイス・チャップマンと書かれている。

(こいつが依頼主か・・・。)

彼は机上に置かれたファイルを見つける。

(蟻のモンスターに関する調査報告書。)

勇者は署長椅子に座り、それをベラベラとめくり始める。
それは、ルイス・チャップマンと警察が生前、その命を懸けて調査した、蟻のモンスターに関する調査の全てだった。そこには、蟻のモンスターの生態に関する基本から始まり、彼らのリーダーである四人の蟻について詳しく書かれていた。そして今回のモンスター退治の根幹を為す、彼らに共通するある一つの少年犯罪事件についても。

(女子高生コンクリート詰め殺人事件との関連性。)

アースは懐から煙草を取り出し、クラウンがライターで火をつける。深く吸い込むと、クラウンにその煙を浴びせかける。クラウンがそれを吸い込んでイルカの芸のように輪っかを作って遊ぶ。アースはその事件の顛末を読み耽っている。

「なあ、クラウン。」
「ん?」

ブラインド越しの光が、二人を照らす。

「酒持ってる?」
「うん、あるよ。」
「ウォッカある?」
「ほい。」

クラウンが袋から、ウォッカを取り出し、それをそのままあおるアース・ヘイワード。口元を袖で拭う。

「よっ。お見事な飲みっぷり!」
「ふふふ・・・。」

勇者が立ち上がる。

「よっしゃー!ガソリン入りました。全員めっためたのぎったぎたに、蟻の巣皆殺しじゃーっ!」

勇者は剣を抜くと、天高く突き上げる。クラウンがそれを見て、ケラケラと笑っている。

(胸が痛い。胸が・・・胸の痛みを、酒で押し流して、全てを壊してしまおう。)

モンスターが元は人間だと、少しでも考えれば殺すことが辛くなる。彼らの悲しい生き様を知れば、いつもなおさら。それでも倒すのは、彼らの呪いを解く為だ。モンスターとなった彼らを、悪夢から解き放つ為だ。
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