祖父の本と空飛ぶ魚の伝説
2章 祖父の本と空飛ぶ魚の伝説
「空飛ぶ魚は、虹の中に住んでいるという伝説がある。虹は、雨と太陽の光が作り出す現象だ。雨が降っているときに、太陽が出ている方向を見ると、虹が見えるかもしれない。空飛ぶ魚は、虹の中に隠れているのだ。だから、空飛ぶ魚を見るには、虹を探さなければならない。」
子供の頃、美咲は、祖父の膝の上で、空飛ぶ魚の話に夢中になった。空飛ぶ魚は、虹の中に住む不思議な生き物で、その姿を見た者は幸せになれるという伝説があった。
美咲は祖父にもっと詳しい話を聞こうと思い、伝説を教えてもらうことにした。
「ちょっと待っててくれ」
祖父は懐かしそうに微笑みながら立ち上がり、居間の一隅にある古びた押し入れに手を伸ばした。そっと扉を開けると、そこには埃を被った古びた本たちが眠っている様子が見えた。祖父は手で埃を払い、手に持った本からは、やや舞い上がった埃が、降り積もった。古びた革装丁の本が祖父の手にしっかりと収まると、彼は押し入れをそっと閉じた。
祖父が取り出した本は、時の経過を感じさせながらも、その重みは物語の深みを予感させた。表紙には、空飛ぶ魚の絵が描かれていて、祖父が美咲に読んであげるために、大切に保管していたものだった。
美咲は、埃をかぶった本が奏でる古き良き雰囲気に心を奪われ、祖父の話に耳を傾けていく。
祖父は優しく微笑みながら、古びた本を開いた。そのページからは、昔ながらの独特な匂いが漂ってきた。
「この本は、私の父から受け継いだものだよ。古びてしまったけれど、中身は宝物さ。」
美咲は興奮しながら祖父の隣に座り、本の中身を見つめた。
「昔々、東の果てにある小さな島国に、美しい虹の谷があったんだ。その谷は、高い山々に囲まれ、水晶のように澄んだ川が流れていた。谷の中には、色とりどりの花や果物が咲き乱れ、鳥や動物たちが自由に暮らしていた。」
祖父の声は穏やかで、美咲はその物語の中に引き込まれていくようだった。
「ある日、若者たちが夢と冒険の旅に出かけ、彼らは空飛ぶ魚たちと目が合うと、その美しさに息をのんだ。空飛ぶ魚たちは、虹の色に輝く羽を広げ、空中で優雅に舞いながら、甘い歌声を響かせた。彼らはその歌や舞いに心を奪われ、しばらくの間、動くことも話すこともできなかった。そして、その中の一人が谷を離れる際、空飛ぶ魚たちから贈り物をもらったそうだ。」
美咲は興味津々で尋ねた。
「贈り物って、何がもらえたの?」
祖父は微笑みながら続けた。
「その贈り物には、夢を追い求める者に幸運と勇気をもたらす力が込められていたんだよ。以来、伝説は語り継がれ、空飛ぶ魚の谷は夢を追いかける人たちの間で神聖視されるようになった。」
祖父が語る伝説の世界に、美咲は完全に引き込まれていた。