金魚は帽子に恋をする〜私の和菓子食べてください〜
『第5回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作品です。
金魚が帽子に恋をしました。
いつも池のほとりまでやってきて、美味しいパン屑をくれるのです。白くて長い帽子をかぶっている。なんてすてき。
金魚は池の女神様に頼んで、人間にしてもらいました。
金魚の白いスカートは足をすっかりかくすほど長くて、すそがオレンジになっていました。なんてすてき。
得意になって帽子の家までやってきました。
トントントン
ドアをたたきます。
「どなた?」帽子が顔を出しました。
「こんにちは」
金魚はツンと顔を上げて言いました。
「おや。パンを買いに来たのですか?」
「パン?」
「さあどうぞ。今日はいつもよりたくさん焼けました」
帽子は、パン屋さんだったのです。
お金ってなに?
住む家はない
という金魚に驚いて帽子は金魚を家に住まわせてくれました。帽子のかぶっているものは『コック帽』と言って料理をする人がかぶる帽子なんですって。とってもすてき。
金魚は毎日帽子の作るパンを食べました。
サーモンとカマンベールの黒パン
フランスパンに生クリーム
フレッシュなラズベリーパイ
もぐもぐ もぐもぐ
美味しいパンを作ってくれる帽子に、金魚も何かしてあげたくなりました。でも金魚は何もできません。
そこで女神さまに相談にいきました。女神様は「和菓子を作ってあげたらどうかしら?」と言いました。「和菓子?」
「煮た小豆で作るのよ。帽子はきっと見たことも食べたこともないわ」
そこで金魚は帽子が町にパンを売りに行っている間、和菓子を作りました。
小豆を鍋でコトコト。
白インゲンをコトコト。
アンコを真ん丸に丸めてコロコロ。
水、白玉粉、砂糖をよ〜く混ぜる。マゼマゼ。
白玉粉に片栗粉をパタパタ。
白あんと白玉粉をマゼマゼ。
食紅で色をつけるマゼマゼ。
アンコを白あんで包み込む。ギュッギュ。
最後に形を作ってできあがり!
たくさん作りました。なんてすてき!
帰ってきた帽子に金魚は和菓子を見せました。
クマもシカもにわとりもいます。
バラもスイセンもアザミもシャクヤクもあります。
色とりどりの金魚や帽子のコック帽までありました。
「すごい! こんなすてきなお菓子が作れるなんて! 君は素晴らしい人だ」
「私の大事な仲間たちなの」
金魚は胸を張りました。
帽子は金魚の和菓子を真似し始めました。
クマやシカやニワトリのパン
バラやスイセンやアザミのパン
色とりどりの金魚やコック帽
大評判になりました。
お店の中はお客さんでいっぱい。
それでいつまでも、いつまでも、2人仲良く暮らしました。
【本編はここで終わりですが、続きを載せます】
今日も帽子はせっせと美味しいパンを作ります。
金魚は2人分コーヒーをいれます。
それで2人で朝ごはんを食べます。
金魚が『あーん』と口を開けると、帽子がちぎりパンをちぎって金魚の口に入れてくれる。
まるで最初に出会った池でパン屑を投げてくれたように。
でも一つだけ違うことがあります。
今の金魚は帽子に「ありがとう」って言えるんですよ。
(おしまい)
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